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F1 ニュース

投稿日: 2020.04.07 12:53
更新日: 2020.04.07 15:07

メルセデスを6年連続で二冠に導いた人望の厚いチーム代表。次期CEOの噂も絶えず/F1レース関係者紹介(2)

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F1 | メルセデスを6年連続で二冠に導いた人望の厚いチーム代表。次期CEOの噂も絶えず/F1レース関係者紹介(2)

 F1には、シリーズを運営するオーガナイザーを始め、チーム代表、エンジニア、メカニック、デザイナー、そしてドライバーと、膨大な数のスタッフが携わっている。この企画では、そのなかからドライバー以外の役職に就くスタッフを取り上げていく。

 第2回目となる今回取り上げるのは、メルセデス-AMG・ペトロナス・モータースポーツのチーム代表を務めるトト・ウォルフ。6年連続で二冠を達成しているチームを率いる彼の懐の深さと人望の厚さにも注目だ。

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 自尊心が強く、頑固で、かつ個性派ぞろいのF1のチーム代表のなかにあって、珍しく腰が低く、フレンドリーなチーム代表である。

 例えば、2019年の第9戦オーストリアGPのレース後のメルセデスは開幕戦からの連勝がストップしたこともあって、チームのモーターホームで開かれた会見はお通夜のように沈んでいた。

 ハミルトンの母国であるイギリスのメディアからは、ウォルフに敗因を求める質問が相次いだ。おそらくほかのチーム代表なら、会見をキャンセルしていただろうし、現れたとしても、「これから調査する」とか言って、誤魔化すことが多い。

F1レース関係者紹介
レース後、記者会見に出席するトト・ウォルフ代表

 だが、そのような状況でもウォルフは「今日のレースで、我々のエンジンは冷却性能の低下によるオーバーヒートに見舞われ、ふたりのドライバーは、1周あたり約400メートルものリフトアンドコースト(アクセルを早めに戻して惰性で走る走法)をしなければならなかった」と正直かつ明確に敗因を語ってくれた。

 さらにホンダの復帰後、初優勝に関するコメントを筆者が求めると、笑顔でこう答えてくれたものである。

「ファンタスティック!! ホンダがF1に復帰して以降、長い間厳しい戦いを強いられてきたことはだれもが知っている。彼らが喜びの涙を流している光景を見て、人々はF1がいかに素晴らしいスポーツであるか再認識したと思う」

「だから、今日のレースは勝ったホンダにとって素晴らしい日になったというだけでなく、近年稀に見るベストレースを披露することができたF1界全体にとっても、最高の一日となった」

 敗戦に打ちひしがれていても仕方がないなか、これほど冷静に勝者を称えられるということは、ウォルフがそれだけ懐の深い人間であるということを意味している。

 元々、ウォルフはウイリアムズの株主としてF1の世界に入った。しかし、2013年にメルセデスがウォルフをモータースポーツのマネージングディレクターに抜擢。F1の世界に入る前からDTMやF3でメルセデスのプログラムを担当する仕事をしていたウォルフはメルセデスの誘いを断ることができず、2013年の4月からニック・フライに代わってメルセデスF1チームの最高経営責任者(CEO)としてメルセデスのレース活動全般を担当することになった。

 その後、2014年からメルセデスを6年連続で二冠に輝かせ、ウォルフの手腕は高く評価されることとなる。メルセデスだけではない。グランプリ期間中はメルセデスPUユーザー以外も多くのチーム代表がメルセデスのモーターホームの門を叩きに来る。さらにPUマニュファクチャラーの関係者もパドックやグリッド上でよく立ち話している。

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コンストラクターズ選手権5連覇を決めた2018年のブラジルGP。チームの主要スタッフがレース後、ウォルフの元を訪れ、勝利の余韻に浸っていた。チーム内の人望ももちろん厚い
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グランプリ期間中も他チームのスタッフらと頻繁に会話を交わすウォルフ代表
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2017年にはホンダの長谷川祐介元総責任者とグリッド上で立ち話

 こうした人望の厚さが、2021年から現在のチェイス・キャリーの後任としてF1の運営側に就くという根強い噂の要因となっている。メルセデスのチーム代表がいきなりF1の運営側に入ることは公平性の問題があるものの、F1のリーダーとしてキャリーよりもウォルフのほうが優れていると見る者がそれだけパドックに多くいることは間違いない。

 ウォルフは元レーシングドライバーだが、どちらかといえば、ビジネスマンとしてのキャリアのほうが長く、レース運営(のほうが本人は好きなのだろうが)よりも、F1の経営面を見ることのほうが本職のような気がする。

 というのも、ウォルフという人物は苦境に立たされたときに冷静に状況を打開する能力に長けた人部だからだ。2019年の前半戦にメルセデスが連勝しすぎてF1がつまらないと批評されたことがあった。そんなときウォルフはこう言って、見事に批判をかわしたことがあった。

「イギリスのビジネスマンで、自らの失言によって会社に大損害を与えたゲラルド・ラトナー(90年代のイギリスの企業家で、自社製品を「完全なゴミ」と言ってしまったために、会社の価値は一気に5億ドル(約600億円)減って倒産しかけたことがあった)のような言動をわれわれは慎むべきだ」

 このような反論がすぐに飛び出すのは、彼が熱心な読書家ということと関係している。かつてウォルフに愛読書が何かを尋ねたら、「The Art of Action」と答えてくれた。その本の副題にはこう書かれている。“計画や行動、そして結果のギャップをリーダーが埋める方法について”。

 現在の苦境に、ウォルフなら、どのように対処するのか。再びウォルフ待望論が沸き起こっても不思議はない。

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現在F1のCEOを務めるチェイス・キャリーの後任とも噂されるメルセデスF1のトト・ウォルフ代表


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