2020年、宿敵メルセデスW11がハイパーマシンからレッドブル型のドライビングマシンへと方向を変えたのとは逆に、メルセデスを猛追するレッドブルの新型マシンRB16/ホンダは昨年マシンのRB15から大きな方向転換を見せた。RB15はハイレベルなコーナリングマシンながらも過激で神経質な性質であったことへの対応だった。
RB16の開発コンセプトは今シーズン用にパフォーマンスを大きく上げてきたホンダ・パワーユニット(PU)の特性を活かす方向で、高速コーナー安定のハイパーマシンへと生まれ変わることになった。RB16はRB15と比較して見た目では大きな違いは感じられないが、それはメルセデスW11も同じ。だが、その開発コンセプトの変更は車体構成の根本から見直されている。
F1開発の主流であるエアロ開発が大きな比重を占めているのは言うまでもないが、レッドブルRB16はエアロに準じながらも車体の構成、特に前後のサスペンションと荷重移動、そしてエアロバランスへの考え方がRB15から大きく変更されたようだ。
真っ先に目に付いたのは、フロントサスペンションの構成だ。
フロントアッパーアーム(1)の構成を見ると、RB15とRB16の違いが見える。昨年のRB15はフロントレグとバックレグを独立したアームに分離してアップライト側のピボット(2)の上下に重ねたダブルデッカー方式でマウントにした上下分離型アッパーアームが採用されていた。だが、RB16では通常の一体型へと帰還している。これでより高いサスペンション剛性の確保がされたはずだ。
また、これまでアッパーアームのアップライト側ピボット(2)のトレンドであるエクステンションブロックを使ったハイマウント方式(メルセデス他多くのチームが採用)をレッドブルは頑なに拒んできた。
RB16も一見するとRB15同様、通常マウントを継承しているように見えるのだが、実はセミハイマウント的にホイールからわずか上方に伸びたところにマウントされ、アッパーアームの下反角をより少ない角度へと持ち上げて、ホリゾンタル(水平)に近づけている。
RB16のアッパーアームは前方に向かって前進角(3)がつけられた。昨年のRB15では後退角(E)が設定されていたので、モノコックの寸法に変化がないと想定すればフロントホイールを前進させることで、RB16はホイールベースの延長をしたことになる。
この変更でロワアーム(5)も若干先進し、フロントレグは左右を一体化(4)、バルクヘッド先端下部の溝にはめ込まれる形でソリッドマウントされた。
昨年のRB15では左右に分離されてバルクヘッドの両端にボルトオンされていたものだ。また、ホイールの前進とアッパーアームの上昇で上下アーム間(6)も若干広がり、さらにアーム厚も若干増えたことでサスペンション剛性の強化が伺える。
ホイールの前進はプッシュロッド(7)のモノコックへの入角にも顕著に現れている。
ロッカーアームのプッシュロッド・ピックアップポイント(8)は前方に向かって大きく角度がつき、そこに大きなスティフナー(強化部材)(9)が追加され、ロッカー(10)の強度剛性を確保している。おそらくフロントサスペンショは昨年よりもハードに設定されているのだろう。これらのフロントサスペンション構成パーツ全域で強度剛性が確保されているのだから。
しかし、サスペンションの前進で割を喰ったのがステアリングシステム。RB15ではフロントバルクヘッド先端(11)に置かれていたステアリングユニットは後方のセカンドバルクヘッドの位置に下がった。ロワアームのバックレグ(12)の前方に置かれ、現在では比較的珍しいアップライトの後方でステア操作が行われる。