本来であれば、F1シーズンのなかで最も歴史があり華やかな『モナコGP』が5月24日に開催される予定だった。しかし、今年はコロナパニックにより異例の中止。実にモナコGPの歴史のなかでも1954年以来のハプニングだ。
そこで、『F1速報』ではモナコGP号が発売される予定日だった5月28日、同グランプリの歴史に欠かせない名勝負をまとめた『F1速報CLASSICS モナコGP号』を刊行した。巻頭特集では、モナコGPで最多勝&最多ポールポジション記録を持つ、アイルトン・セナの軌跡を大特集。今回は、そのなかでF1速報誌の解説者でもある森脇基恭氏が1988年モナコGPでのセナのクラッシュについて語ってくれたページを抜粋してお届けしよう。
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■ドライバーの技量が試され、そのすべてが現れる
モナコGPは特別なグランプリです。F1が世界選手権となった1950年からさらに20年あまり遡る1929年から始まった歴史の重みもさることながら、モンテカルロの狭い市街地を舞台とする一種異様な、いや現代においては異常なレースと言ってもいいでしょう。それでも、このコースに文句を言うドライバーは存在しません。それどころか、すべてのドライバーがモナコで勝つことを夢に見、勝利の栄冠を手にしたいと願います。「モナコの勝利は、ほかのグランプリ3勝分に値する」とまで言われているのです。
それは、モナコGPの歴史や華やかさが比類ないものであるとともに、ドライバーの技量が試され、そのすべてが現れるレースだからです。アップダウンのある3.337kmの狭いコースはガードレールに囲まれ、目線の低いドライバーにとってこれは恐怖でしかありません。ガードレールとの勝負はちょっとしたミスが大クラッシュに直結します。そして一瞬の躊躇や恐れがタイムロスとなるのです。
ギリギリを攻めるだけでなく、うまく接触してタイムを稼がなければならないわけで、ガードレールを15mm押せば好タイム、20mm押したらクラッシュというくらい、繊細なコントロールが必要です。タイヤの切れ角でいえばわずか1mm程度の、本当に微妙なステアリング操作が求められるのがモナコなのです。
モナコで速く走るためには、自分の手足となるマシンへの絶対的な信頼、高いレベルのドライビングテクニック、そして自分の技術を冷静に制御できる強い意志が必要です。したがって、誰よりも速く走った者、つまりポールシッターは昔から高く評価され、ドライバーにとって大きな勲章となるのです。アイルトン・セナはモナコGPでのポールポジション、優勝の両方で最多記録保持者であり、この記録はセナが伝説のドライバーである理由のひとつであることは間違いありません。
ドライバーが圧倒的主役のモナコですが、マシンについても少し触れておきましょう。モナコには一般車でも厳しいヘアピンがありますが、ホイールベースが長く小まわりのきかないF1マシンには難所といってもいいコーナーです。このためモナコではデフを工夫したり、フロントタイヤの切れ角を調整します。
また、ガードレールとの接触に備え、サスペンションのアーム類は強度を上げ、低速コーナーに対応するためダウンフォースは最大にするのがモナコ仕様です。エンジン(パワーユニット)がピークパワーを使い切ることはできないコースですから、ピックアップやドライバビリティの勝負となります。