3か月遅れながら、ついに始まった2020年のF1シーズン。王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのか。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督、さらにはF1中継の解説を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第2戦はウエットとなった予選から話題が盛りだくさん。前編と後編に分けてお届けします。
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今回のF1第2戦、まずはDAZNの中継に解説として出演しなくてご心配をお掛けしたかもしれませんが、1週間後の国内レースの開幕に向けて、それまでに何かあったらいけないですので念のために今回は解説をお休みさせて頂きました。
DAZNの解説現場は新型コロナの感染防止についての社内規定が厳しくて、解説中もマスクは当然着用で事前のミーティングもインカムを使って別々の部屋で行っていますので、他の方と接触することがそもそもありません。一緒の部屋で解説しているかと思われるかもしれませんが、そうではないのでまったく問題はないのですが、今回は翌週に備えさせて頂きました。
そのF1第2戦ですが、まずは大雨でウエットコンディションになった予選でドライバーの個性がよく見えましたよね。本当に「F1ドライバー、うまいなあ!」と思って見ていました。
雨の走行の難しさというのは、いろいろあります。当然、路面のミューがドライコンディションの時より極端に下がってグリップしない感覚になります。ブレーキングではタイヤがすぐにロックして止まらないし、アクセルを踏めばトラクションが掛からなくなり、リヤタイヤが空転してしまいます。
特にF1マシンはハイパワーなのにトラクションコントロールがないわけですから、雨の中ではアクセルコントロール、スロットルコントロールが非常に難しくなります。
コース上を走っていてもアクアプレーニング、タイヤの溝の排水能力の限界を越えてしまう状況になるとクルマがまっすぐに走らなくなります。そういった非常に難しい状況のなかのドライビングになるので、ステアリング操作、ブレーキング、アクセルワークにシフトアップ、ドライバーのすべての動作に繊細さが求められます。
さらにコース上の走行ライン、ライン取りもドライコンディションの時とはまったく変わってきます。縁石やホワイトラインはまたミューが極端に変わって滑りやすくなるので避けなければいけませんので、いろいろな制約が出てきます。
もちろん、視界も悪くなりますので、雨の走行、雨の予選のアタックは普段のドライのアタックとはまったく異なったテクニックが必要とされます。
また、雨の走行ではすぐにタイヤが冷えてしまうので、タイヤを冷やさないように常にプッシュし続けるのが基本になります。今のF1ではひとつふたつのコーナーなら前との間隔を開けるために速度を遅らせても大丈夫だと思いますが、どのウエットタイヤにもグリップが機能する温度領域がありますので、その領域の最低温度から落ちないようにタイヤ温度をキープしないといけません。
今回の予選では数周走ったウエットタイヤを履き替えて新品のウエットタイヤでアタックするシーンも見られましたが、あれだけの雨の量ならニュータイヤとユーズドでグリップがそこまで変わることはないと思いますね。
もちろん、僕があのタイヤを装着して雨の中を走ったわけではないですが、そもそもF1のウエットタイヤはレースで長いディタンスを走るためのタイヤでもありますし、あの予選の雨の量だと僕はそこまでニュータイヤのマージンがすぐにあるとは思えません。もちろん、ニュータイヤの方がタイヤ表面のブロックの角が使えるので、雨の量が減ってきてタイヤのグリップのおいしいところが落ちてくる状況なら、1~2周で速いタイムを出すためにニュータイヤに換えた方がいい場合もありますけどね。
今回の予選ではアタックのライン取りも興味深かったですよね。縁石を使わないようにコーナーの入口から出口をミドルーミドルで攻めたり、アウトから入って極端にインに入ったり、アウトーアウト、またはアウトーミドルで攻めたり、ドライの場合はラインはほぼひとつに収束していきますが、雨はドライバーの個性とか走らせ方の違いがよく表現されます。