オーストリアGPの終了後、フェラーリのガレージではほとんど笑顔が見られなかった。2020年シーズン最初のレースの週末に、プレシーズンテスト以来多くの人が疑い、あるいは恐れていたことが、たしかな事実として突きつけられたからだ。
フェラーリSF1000の予選での最速ラップは、2019年SF90が同じサーキットで記録したタイムよりも1秒近く遅かった。一方、メルセデスは2019年より約0.3秒速くなっている。
つまり、メルセデスが期待に違わず進歩したのに対し、フェラーリはむしろ後退してしまったのだ。端的に言えば、イタリア人たちは前年より遅いクルマを作ったことになる。
フェラーリのパフォーマンス低下の最大の要因がパワーユニットにあることは間違いない。事実、レッドブルリンクでは同型のパワーユニットを搭載する6台のマシンが、いずれもペースの遅さゆえに苦戦を強いられた。
チームプリンシパルのマッティア・ビノットは言う。
「ストレートで0.8秒を失っている。パワーが出ていない原因について、早急に分析して突き止める必要があるだろう。私たちのエンジンに、昨年ほどのアドバンテージがないことは明らかだ。ただ、この戦闘力不足の理由は、エンジンだけというわけではない」
フェラーリエンジンのパワーダウンは、FIAがパワーユニットのある構成要素に課す制限が、今季から厳しくなったことに関係があると多くの人が考えている。
この規制強化は、そもそもフェラーリが燃料システムに関するレギュレーションの抜け穴を利用したか、あるいは明白な違反を行っているとの疑いが生じたために導入されたものだ。
2019年シーズン末の段階で、FIAとフェラーリはこの件について『和解』に達したが、その詳細は外部には一切明かされていない。フェラーリのアドバンテージの喪失は、この和解、あるいは新たに導入されたルールと無関係ではないと、パドックの住人たちが推察するのも無理はない。
だが、ビノットが言うように理由はそれだけではないかもしれない。2020年2月のSF1000のお披露目で、彼は新車のデザインについて、ある点を熱心に強調した。
「とくにダウンフォースレベルに関して、できる限り高い空力性能を得ることを目指した。そのために、シャシー全体、モノコック、ギヤボックス、パワーユニットのパッケージングは、きわめてタイトなリヤエンドを実現できるように設計された」
この言葉が事実だとすれば、フェラーリがパワーユニットとシャシーの統合において、過去に他のチームが陥ったのと同じ罠に落ちた可能性は考えられないだろうか。
その例の最たるものは、かつてのホンダがマクラーレンに『サイズゼロ』思想を強要され、結果として絶えずトラブルに苦しめられた事例だ。
だが、実際にはフェラーリがそうした誤りを犯したとは考えにくい。ビノットは2014年のパワーユニット開発において、主導的な役割を果たしたエンジニアのひとりだ。
フェラーリにとって初のV6ハイブリッドパワーユニット、059/3は重量が重い上にパワーも不足していた。その主な理由はチームがクルマのリヤエンドを可能な限りタイトに絞り込もうとして、無理なパッケージングを強いたことにあったとされている。
つまり、そうした要求に合わせてパワーユニットを作ることのリスクを、ビノットは他の誰よりもよく承知しているはずなのだ。