7月から始まった2020年のF1シーズン。王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのか。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督、さらにはF1中継の解説を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第7戦ベルギーGPでは突如、中団勢の勢力が劇変することになった。まさかのフェラーリの低迷、そしてルノーの躍進の背景を中野氏が推察する。
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F1第7戦ベルギーGP、今回も決勝のトップ3はこれまでと変わらなかったですが、4位以下の勢力図が大きく変わりました。各マシンが、ベルギーGPのサーキット、スパ・フランコルシャンのコース特性に合う/合わない、ダウンフォースの少ないセットアップが合うクルマ/合わないクルマというところで変化があったのかなと思います。今回のスパでは、パワーユニット(PU/エンジン)の差というところも、よく見えたなと思いました。
前回スペインGPまでのこれまでのサーキットは、スパほどのパワーサーキットが少なかったというのも変化の要因としてあります。スパは特に1コーナーのラ・ソースを抜けてオー・ルージュを上がってからもずっと登りでケメル・ストレートに続くので、PUの全開率が非常に高いんですよね。
そこではPUのパフォーマンス差が出てきます。もちろんリヤウイングを寝かせるなど、ローダウンフォース仕様でどこまで対応できるかという部分もありますが、速いクルマというのはダウンフォースをつけていても直線スピードが速いです。メルセデスはまさにそうでしたけど、トップのメルセデス以外の部分で今までとは違った勢力図が見えた感じがしました。
一番特徴的だったのは、フェラーリがあそこまで遅いということですよね。これまでの今季の流れを見ていて、なんとなく想像はできていて、開幕からエンジンの回転数が苦しそうに上がっていくのを見ていると、スパの登り坂は間違いなく厳しいだろうなと想像ができましたけれど、全体的にもあそこまで遅いというのは衝撃的でした。
決勝レースでも、同じパワーユニットを積むアルファロメオのキミ・ライコネンにセバスチャン・ベッテルが追い抜かれるというシーンがありましたが、フェラーリの現状を象徴しているようでした。
フェラーリが前回のスペインGPから使っている新しいパワーユニット(シーズン2基目の新PU)は、アルファロメオが今回も使っているひとつ古いパワーユニット(シーズン1基目)よりもあまり進化していないということですよね。本当はあってはならないことですが、むしろ2基目のパフォーマンスが後退してしまっているという、信じがたいことが起きているように見えます。
これまでも言ってきたのですが、フェラーリはパワーユニットだけではなく車体側にも確実に問題があると思います。もちろん詳しく理解しているわけではありませんが、車体の前面投影面積が大きくてドラッグの影響でスピードが出ないのか、車体の下面の空気の流れが悪いのか、いずれにしても何かおかしなことが起きていることは想像できますよね。
その一方で、スパではルノーがすごく好調でした。ルノーには失礼かもしれないですけど意外な速さで(苦笑)、正直、予想していませんでした(予選4、6番手/決勝4、5位)。パワーユニット的にもスパでここまで力を発揮するとは思っていませんでした。
単純にクルマがローダウンフォースとのマッチングがすごくよいのか、空力に頼りすぎないクルマの特性があるのかもしれません。ウイングなども結構薄かったことが結構大きなポイントで、本当は車体の素性がすごく良いのかもしれませんね。
スパは高低差が結構あり、ローダウンフォースで高速コーナーが続き、普通のサーキットとは違うRの描き方というか、コーナーでのGのかかり方というか、タイヤへのインプットの仕方が結構独特です。
ルノーはそのコース特性がセットアップも含めてマシンに合ったのかもしれません。マシンをここに合わせて作ってきているわけではないですし、本当にたまたま合ったのか、もしくはスパの変わったコース特性が本当にピタッとはまったという感じに僕は見えました。
この短期間で開発がほぼ凍結されている状況で、いきなりマシンが速くなるとは思えないですし、やはり特性が違ったサーキットにいくと、今まで速くなかったクルマが速くなったり、逆に速かったクルマが遅くなってしまう場合があります。その象徴が今回のルノーであり、フェラーリでしたね。低速サーキットではそこそこ走れていたフェラーリが、高速サーキットに来るとまったく駄目になってしまいました。
あとはピンクメルセデス(レーシングポイント)も今回は意外と不調でしたね。今季のレーシングポイントはどのサーキットでも速いと思っていて、今回も金曜日まではやっぱり速いなと思っていました。ただ、予選では失速してしまいました。そこに関してはマシンのセットアップ部分の課題があるのかなと思います。
いくらレーシングポイントのマシンが2019年のメルセデスに近いとはいえ、セットアップを進めるのはエンジニアのセンスやチームのマシン解析力などが必要になります。今まではダウンフォースの力でごまかせていたのが、ダウンフォースを減らさないといけないサーキットに来るとごまかしが効かなくなり、アプローチが全然変わってきます。
ですので、今までどおりのアプローチで進めるとタイヤが良いときに一発のタイムは出るけど、レースでは全然戦えないとか、路面状況の変化で予想外の動きをするということが起こってしまいます。そういったセットアップなどの部分で、今までとは違うセットアップをすることが求められたときに、そういったチーム力の差が出てくるのかなと思いますね。
同じことがフェラーリにも言えますが、フェラーリの場合はセットアップ云々ではなく、元々のマシンデザインを今年は大きく外してしまっていて、狙っていたところと違うのかなと思います。もちろん、どのチームにも起こりうることですが、現在のトップチームでシミュレーション技術が発達しているなかで、ここまで大きく外すというのはあまりないことだと思います。それだけにフェラーリのなかでは、相当大きな問題になっているでしょうね。
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