2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。金曜日にパワーユニット関連のトラブルが起きてしまい走行時間が大幅に短縮され、出だしから厳しい状況に立たされた。決勝では中団勢の勢力図が変わり、フェラーリ製パワーユニットを使うチームの苦戦が目立ったが、この現状をどのように捉えているのだろうか。小松エンジニアが現場の事情をお届けします。
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2020年F1第7戦ベルギーGP
#8 ロマン・グロージャン 予選17番手/決勝15位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選20番手/決勝17位
ベルギーGPでは、フリー走行1回目(FP1)の最初にインスタレーションラップを行った後、2台ともにそれぞれ違ったパワーユニット(PU)関連のトラブルが起き、両車エンジン交換となってしまいました。ケビンのクルマはコース上では何も問題が見られなかったのですが、その後ガレージでエンジンをかけようとした際に明らかにエンジンがおかしかったので、すぐエンジン自体の問題と判りました。
ロマンの方はガレージでは問題なく、最初のランに出ていったのですが、アウトラップでターボ関連の問題が発生しエンジンを載せ替えることになりました。原因は1台はハッキリしていますが、もう1台はまだわかっていません。両車ともエンジン交換を終えて、フリー走行2回目(FP2)残り30分でなんとか走り出すことができました。
その後エンジン関連の問題は起きませんでしたが、これだけ走行時間を失ったのは痛かったです。特にスパ・フランコルシャンのような難しいサーキットでは、もっとドライバーを走らせてあげないといけないので、パフォーマンスに影響しました。
セッションの残り時間の関係で、ふたりとも、その日の最初のラップがソフトタイヤ(C4)での予選に備えたアタックとなりました。ソフトタイヤは1周しか保たないので、その1周限りでクルマとタイヤからすべてを引き出すのは無理です。
その後すぐに燃料を積んでレースに向けた走行に入りましたが、特にロマンはクルマのバランスが良く、良いタイムで走ってくれました。
FP2を終えた時点で、ほぼトラブルはありませんでした。FP1とFP2を走ったフェラーリのタイムと、基本的に1周走っただけのウチのタイム差を見れば、フェラーリがどれだけ苦労していたかがわかります。シャルル・ルクレール(フェラーリ)はロマンよりたった0.4秒速いだけ。コーナーごとに見ていくと、サーキットの半分のコーナーでロマンの方が速かったのです。
この数字を見ると、フェラーリはPUだけでなく、車体に関しても手こずっているのがわかります。もちろん、PU性能が劣っていれば、その分エアロの設定で抵抗を減らしてなんとかストレートスピードを補わなければいけません。しかしこれにも限界があって、グリップが重要なセクター2で遅くなりますし、タイヤもうまく使えなくなる場合があります。
フェラーリがスパに持ち込んだリヤウイングを見ればわかりますが、彼らはかなり抵抗を減らしたモノ(すなわちダウンフォースも出ない)を使用して走っていました。ですから昨年に比べてほぼすべてのチームがセクター2で大きくタイムを伸ばしてきたなかで、フェラーリはあまり伸びなかったのも説明がつくと思います。
ウチはフェラーリほど抵抗を減らしたリヤウイングを使って走るとタイヤがまったくグリップしないので、ある程度はダウンフォースを確保できるセッティングで走りました。クルマのバランスは上手くとれたものの、やはり全体的にグリップ不足で、他のPUを使うチームに対しての競争力はありませんでした。
フェラーリからいろいろな部品の供給を受けているカスタマーチームとしては、やはりフェラーリがベンチマークとなります。そういった観点からは、決勝レースの最終ラップまでロマンがルクレールを抑えることができたのは収穫だと思っています。
ルクレールはピットストップを2回しなければいけなかったので、ロマンに追いついてきた時は比較的周回数の少ないミディアムタイヤを履いていましたが、そのタイヤのアドバンテージがあったルクレールを抑えるためにやれることはすべてやりました。最後にロマンが1コーナーでブレーキをロックさせたので抜かれてしまったものの、得るモノはありました。
またその前を走っていたセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)はダニール・クビアト(アルファタウリ・ホンダ)とキミ・ライコネン(アルファロメオ)に引っかかっていましたが、ロマンに関してはベッテルとそれほどレースペースに差があったとは思いません。これも前向きな材料です。しかし何といっても完走17台の下位6台中、5台がフェラーリPU勢とういうのは厳しい現実ですね。