F1第8戦イタリアGPでのピエール・ガスリー(アルファタウリ・ホンダ)の奇跡とも思える初優勝には、アルファタウリの絶妙な戦略と、それを実行したガスリーの高度なテクニックがあったことも忘れてはならない。
特に印象的だったのが、レース終盤にカルロス・サインツJr.(マクラーレン)の猛攻を、ガスリーは凌ぎきったことだ。なぜ、ガスリーは防御できたのか。
その最初の鍵となるのが、赤旗によるタイヤ戦略の変更だ。赤旗となる前に2人はともにタイヤ交換を済ませており、そのとき選択したタイヤはガスリーがハードでサインツがミディアムだった。
しかし、赤旗が出てタイヤ交換が可能になったため、ガスリーは残っていた新品のミディアムに交換したのに対して、サインツには新品のミディアムは残っておらず、22周目にタイヤ交換したミディアムをそのまま使用することにした。残り27周ならハードは硬すぎ、ソフトは軟らかすぎたからだ(赤旗後4番手と5番手からスタートしたアルファロメオの2台がポイント圏外に終わり、エステバン・オコンがレース後、無線でエンジニアと口論していたことでもわかる)。
この4周分のマージンが、ガスリーにとって、レース終盤大きな力になる。それはガスリーのほうがダウンフォースをつけ気味にしたセッティングにしていたからだ。モンツァはセクター1がシケインひとつと全開で走る高速コーナーひとつだけの高速区間だが、セクター2にはレズモがあり、セクター3にはアスカリとパラボリカの中高速コーナーがあるため、ダウンフォースもそれなりに必要となる。
つまり、抜きどころとなる1コーナーまでのストレートでは最高速で時速7kmほどサインツのほうが上回っていたが、セクター2と3はガスリーのほうが速かった。特にガスリーが速かったのがセクター2で、ここではハミルトンに次ぐ2番手の速さがあり、7コーナー(レズモの出口)のコーナーリングスピードは、5番手サインツの時速166.3kmに対して、ガスリーは時速179.6kmと時速13kmも速かった。
そのことはレース後の会見でガスリーもコメントしていた。
「カルロスがスリップストリームを利用してくることはわかっていた。だから、僕はコーナーでできるだけタイムを稼いで、近づかせないようにした。でも、そうすればタイヤが傷む。でも、僕たちが勝つにはそれしかなかった」
案の定、ガスリーのタイヤは自分たちが想像していたよりも早く終わり、「最後の数周は滑りまくっていた」と言う。しかし、それでもサインツがなかなかガスリーのDRS圏内に入ることができなかったのは、4周分のタイヤの寿命にあった。