2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニリングディレクター。F1初開催のムジェロは完走12台のサバイバルレースとなり、セーフティカー明けの多重クラッシュではハースも1台巻き込まれてしまった。好きなサーキットのトップ3に入るというムジェロでの初レースを振り返り、小松エンジニアが現場の事情をお届けします。
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2020年F1第9戦トスカーナGP
#8 ロマン・グロージャン 予選15番手/決勝12位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選20番手/決勝リタイア
今回は初めてF1を開催するムジェロ・サーキットでのレースでした。僕が初めてムジェロに行ったのは、B・A・Rホンダに所属していた2003年のテストの時です。ムジェロは中高速コーナーのある流れるようなレイアウトで、空力の利いたクルマの醍醐味を味わえるサーキットです。
1コーナーをはじめ8、9、12コーナーのようにキャンバーのついているコーナーがあるのもおもしろいですし、6、7コーナーみたいにジェットコースターのように下っていくコーナーもあります。そういう意味ではF1のクルマやドライバーのすごさを知ることができる、昔から大好きなコースのひとつです。
モンツァやスパ・フランコルシャンなどではパワーユニット(PU)の性能差が顕著に現れてしまいましたが、ムジェロでは車体の性能がよりラップタイムに繋がります。コーナーのレイアウトは、中高速コーナーに強いロマンにも、そしてウチのクルマにも比較的合っているのでポイント獲得を目指していたのですが、届かずに残念でした。
とはいえ今回ロマンは金曜日の走り出しから速くて、僕たちは常にロマンとフェラーリPU勢のベンチマークであるシャルル・ルクレール(フェラーリ)を比べていました。ルクレールと比較しても、フリー走行1回目ではラップタイム差は大きかったものの、基本的に負けているコーナーが4、5コーナーと、その先の高速の6コーナーだけと限られていたので、それほど心配はしていませんでした。
フリー走行2回目もミディアムタイヤでの走り出しはとても良かったのですが、電気系のトラブルが出てしまい、その後まったく走れなかったのは痛かったです。それでもフリー走行3回目は良いタイムを出せていたので予選ではトップ10に近づけるのではないかと期待していました。
その予選ですが、ロマンはQ1を無事通過したもののQ2で伸び悩み15番手となってしまいました。ケビンは週末を通してロマンに後れをとっていたのですが、Q1ではロマンのコンマ3秒落ちで最下位という結果でした。
Q2でロマンが伸びなかった理由はクルマとドライバーの両方に原因があると思っています。まず1回目のランは確実にオーバードライブでした。以前もあったのですが、ロマンは特に良い結果を出せる可能性がある時にプッシュしすぎてタイムを伸ばせないということがあります。これで残るチャンスは1回。この最後のランは風の影響をかなり受けてしまいました。
今年のクルマは風にかなり敏感なので、特に追い風の影響を受けます。ムジェロのターン1の進入では向かい風ですが、これがエイペックスから出口にかけて追い風に変わります。土曜日はラップごとに風の強さが変わり、ある時は5km/h、またある時は20km/hと安定しませんでした。Q2の最後のアタックの際は比較的強い風が吹いていて出口でオーバーステアを出してしまい、コンマ3秒ほどロスしてしまいました。これでゲームオーバーです。
ですがQ1でのタイムは、もう2度と出せないような特別なタイムではなかったので、(Q1と比較して)Q2で他車と同様にコンマ3秒ほどタイムを伸ばせていれば12番手あたりにつけていた可能性がありました。これが出来れば今年ベストの予選結果でしたし、またそれが出来るだけの速さはあったと思うのでとても残念です。