更新日: 2020.09.27 18:22
F1 Topic:ハミルトンがピットレーンでQ2再開を待たなかった理由。タイヤ戦略変更で、レースに影響も
2020年F1第10戦ロシアGPで5戦連続、今シーズン8回目、通算96回目となるポールポジションを獲得したルイス・ハミルトン(メルセデス)だが、予選後のインタビューでは「最悪の予選だったと言っていいだろう。すごくハラハラしたひどい予選だった」と振り返った。
その理由は、Q2で2セット目のミディアムタイヤを履いたアタック中に赤旗が出たことだけが理由ではない。その後の状況がハミルトンにとって、最悪だった。
赤旗が出たとき、Q2の残り時間は2分15秒しかなかった。1周約1分30秒のソチ・オートドロームでは、アタックするためのアウトラップにはぎりぎりの時間だ。そのため、もう一度アタックしたいドライバーは、セッション再開の時刻がFIAから明示される前から、我先にとピットレーンの出口に向かって、グリーンライトが灯るまで待機する作戦に出た。
ところが、メルセデスはその時点で計測タイムを出しておらず、14番手となっていたハミルトンをピットレーンに並ばせることなく、ガレージにとどまらせていた。その理由をメルセデスのトト・ウォルフ代表は次のように説明した。
「セッション再開の時刻がわからないままピットレーンへ出れば、出口で長い時間待たなければならないから、エンジンを一度切らなければならない。そして、エンジンを再スタートさせるためにはMGU-Kによるスターターボタンが必要となるが、我々はそのようなことができない」
セッション再開前のピットレーンで、ウォルフの言葉を裏付けるようなアクシデントが起きる。赤旗が出る前、Q2脱落圏内にいたランス・ストロール(レーシングポイント)は、レッドブル・ホンダの2台、アルファタウリ・ホンダの2台、シャルル・ルクレール(フェラーリ)、ランド・ノリス(マクラーレン)に続いて早々にピットレーンへ出ていったが、セッション再開直前にガレージに押し戻された。レーシングポイントのオットマー・サフナウアー代表によれば、「エンジンがオーバーヒートしてしまった」という。ちなみにチームメートのセルジオ・ペレスはその時点で3番手のタイムを出していたため、急いでピットレーンへ向かう必要はなかった。
そのため、メルセデスはガレージにハミルトンを待機させ、待機していてもエンジンがオーバーヒートしない最大のタイミングとなるセッション再開の約2分前に、ハミルトンをピットレーンへ送り出すという戦略を取らざるを得なかった。
さらにメルセデスは、ここで日曜日のレース戦略を大きく変更し、ハミルトンをミディアムタイヤではなく、ソフトタイヤでQ2を突破させる作戦に切り替えた。
「ガレージで待たなければならないとわかった時点で、セッションが再開されたとき、ルイスがピットレーンで集団の後ろに回ることは明白だった。そうなれば、アウトラップでルイスが十分にタイヤを温めることができないことが容易に想像できたため、(より温まりの悪い)ミディアムタイヤでQ2を突破することは難しいと判断し、確実にQ3へ進出するためにソフトタイヤを装着させた」
ちなみにMGU-Kによる再スタート用のボタンは、セッション再開前にピットレーンに並んでいたマシンから推測するに、ホンダ、フェラーリ、ルノーには存在しており、メルセデスだけがないと考えられる。
いずれにしても、予選前に立てていたミディアムタイヤで日曜日のレースをスタートさせるという戦略を採ることができなくなったハミルトン。ウォルフは「レースで明らかに妥協を強いることとなる」と唇を噛み締めていた。
ハミルトンにとって、皇帝ミハエル・シューマッハーに並ぶ史上最多の91勝到達を賭けた戦いは、ポールポジションからスタートするものの、かなり険しいものとなりそうだ。