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F1 ニュース

投稿日: 2020.10.06 11:17
更新日: 2020.10.06 11:41

【中野信治のF1分析第10戦】見せ場を作ったライコネンのブロックとトップドライバーのクリエイティビティ

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F1 | 【中野信治のF1分析第10戦】見せ場を作ったライコネンのブロックとトップドライバーのクリエイティビティ

 王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのかが注目される2020年のF1。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第10戦ロシアGPは相変わらずメルセデスの強さが際立った展開となったが、今回は下位争いで見せ場を作ったキミ・ライコネンを軸に、ドライバーにスキルについて中野氏が解説する。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2020年F1第10戦ロシアGPですが、予選を含めて今回はルイス・ハミルトン(メルセデス)に対して逆境的なシーンがすごく多かったですよね。まず予選ではQ2でハミルトンの1回目のアタックが四輪脱輪ということでタイム取り消しがありました。

 その後コースインしたときには、セバスチャン・ベッテル(フェラーリ)がクラッシュしたことで赤旗中断となり、残り2分15秒でセッション再開。まともなタイムを出していないハミルトンにとっては逆風の状況になってしまいましたが、ああいった状況のなかで最後にはきちんと決めてくるハミルトンはさすがですよね。強さや集中力の高さ、そしてやはり乗れているなということを感じさせてくれます。特に予選での、ああいった場面での自分自身のコントロールがうまいなと思いました。

 予選のベッテルのクラッシュも含めて、今回のロシアGPではアクシデントやペナルティが多かったのも特徴的でした。今回クラッシュが多く見受けられたのは、ソチのコースの『ソーセージ縁石』が結構、悪さをしている部分もあると思います。

 今のサーキットで縁石は平らで簡単に乗り越えられる形状が多くて、ドライバーはついつい縁石を超えてコース幅を目一杯使ったライン取りをしたくなります。ソチではその外側にさらにソーセージのような膨らんだ縁石があるので、そこにタイヤ半分ぐらいまでを乗せるのは大丈夫なのですが、それを超えてしまうと急激にマシンバランスを崩して制御不能になってしまいます。そういったアクシデントを誘発させるようなシーンがロシアでは何度か見受けられました。

 さらに、ロシアGPが行われるソチは常設サーキットではないので、市街地コースとしての難しさというのもあります。普通の常設サーキットならミスをしたりコースからはみ出したりしてもグラベルなので壁にはぶつからずに済むことがほとんどですが、ソチのコース外はすぐ壁になるのでミスがそのままクラッシュにつながってしまいます。

 路面のミューもそこまで極端に低いようには見えませんでしたが、走行ラインを外してしまったときの汚れ方が、常設サーキットに比べて激しいように感じました。タイヤカスやマーブルが多く溜まっているのも見えました。

 あの状況では、一度ラインを外してしまうと簡単にはライン上に戻ってこられないと思います。ソチのコーナーもそれを誘発させるような作りになっていて、たとえば、左に大きく曲がりこむ3コーナーはレース中、外側にタイヤカスが溜まってきてしまいます。そこに乗ってしまうとタイヤはまったくグリップしませんし、路面が汚い+タイヤカスに乗ってしまうことで簡単にクラッシュする状況になってしまいます。

 今回の予選では比較的ドライバーごとに順位が分かれましたが、常設サーキットと比べて路面ミューも低くて、周りも壁というサーキットなので、市街地の路面やコースが得意なドライバー、不得意なドライバーとの差というのが結構わかりやすく出ているんではないかなと思います。

 やはり市街地に強いドライバーというのはいますし、ソチはそうでもないのですが、常設サーキットでの回り込むようなコーナーよりも、パーンとステアリングを一発で切って曲がるという90度コーナーが公道コースが多いという特性がありますよね。

 市街地サーキットは基本的には高速コーナーが少なくて、直角というか一発でマシンの角度を決めて進入していくコーナーが多い。ターンインでクルマの向きを変える走らせ方が常設サーキットとは少し違ってきます。市街地ではブラインドコーナーも多いので、そのあたりの得意不得意がドライバーによって分かれるのかなと感じます。ですので、今回もドライバーの実力差というより、そのコーナーが得意か不得意かという部分で差が出ているのかなと思いました。

 決勝レースではハミルトンがスタート練習でペナルティを科せられました。ルールはルールなのでペナルティにはなってしまうんだろうけれど(苦笑)。う~ん、まぁ仕方がないといえば仕方がないですね。ピットロード出口でスタート練習をするのは大丈夫ですが、ハミルトンは少し進んだところで練習をしてしまったということですよね。

 いずれにしても、何か最近のF1の裁定が厳しくなりつつある気がして、これまではグレーゾーンだった箇所を今はすごく厳しく取り締まる状況になっているように感じます。スチュワード自体が厳しくなっているのかわかりませんが、前戦トスカーナGPでの再スタート時のアクシデントもありましたし、一般道の取締強化期間ではないですが(苦笑)今のF1は厳しくルールを守らないといけないタイミングなのかもしれません。

 ただ、そうなってくると、今までグレーゾーンだった箇所がいきなりアウトになってしまい『今まではセーフだったのにどうして?』という風にドライバー側がなるのは当然だと思います。ムジェロでのスタートもそうですが、そのあたりをFIAは明確にしなければいけないですよね。

 特に今年はこれから久しぶりのニュルブルクリンクやイモラ、イスタンブールなど、久しぶりの開催地や不確定要素があるなかで、今までどおりでは対応できないことも多く出てくると思います。そのあたりスチュワード側とドライバー側が意見の共有をしっかりとして、あとはチーム側のレギュレーションに対する理解というのを、もう一度申し合わせしたほうが良いような気がします。

 ロシアGPの決勝前のスタート練習絡みで結局ハミルトンは10秒のペナルティを受けましたが、そこから3位表彰台フィニッシュというのも強烈でしたよね。ペナルティで集中力を切らしてしまうわけではなく、その状況のなかでベストを尽くすというところでミスなく、ポイントに関しても最低限獲得しておきたい点数を取ったので、ハミルトンのレースの走りとしては100点満点の仕事をしたと思います。

 他に今回のレースで興味深かったのが、下位争いでしたがキミ・ライコネン(アルファロメオ)がさまざまなドライバーを相手にバトルをして、そのなかでうまいブロックを見せていたシーンですね。レースでブロックがうまいドライバーは何が優れているのかというと、一番シンプルに言うと肝が据わっていることですね。

2020年F1第10戦ロシアGP キミ・ライコネン
最後はオーバーテイクを許したものの、ギリギリまで鬼ブロックで後続を手こずらせたライコネン

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