レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

F1 ニュース

投稿日: 2020.10.18 13:00
更新日: 2020.10.18 13:19

【中野信治のF1分析第11戦】最高難度のニュル1コーナーブレーキング考察。ホンダF1終了で突きつけられる命題

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


F1 | 【中野信治のF1分析第11戦】最高難度のニュル1コーナーブレーキング考察。ホンダF1終了で突きつけられる命題

 王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのかが注目される2020年のF1。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第11戦ロシアGPは多くのドライバーが苦しんだニュルブルクリンクの1コーナーとF1ブレキングの難しさを解説。さらに歴代最多91勝を飾ったルイス・ハミルトンとミハエル・シューマッハーの共通点、そしてホンダF1の2021年限りでの活動修了発表を受けた中野氏の私見をお伝えする。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2020年F1第11戦アイフェルGPですが、予選前にランス・ストロール(レーシングポイント)の代役としてステアリングを握ることになったニコ・ヒュルケンベルグが話題になりました。ヒュルケンベルグは何年もF1に参戦していた実績あるドライバーですし、今季のマシンについてもすでに決勝は1レース(第4戦イギリスGPは決勝直前にマシントラブルでスタートできず)戦っているので、クルマの特徴についてはある程度理解しているはずです。

 ですが、いきなり乗ることの難しさというのはあったと思います。サーキットを攻略するうえで一番難しいのはブレーキングポイントです。ブレーキングポイントというのは、走り初めの1周目で正解を見つけられるものではありません。ひと口にブレーキングといってもドライバーによって優しく踏む人、強く踏む人、早く抜く(ブレーキを戻す)人、遅めに抜く人など、いろいろなブレーキの踏み方があって、サーキットの路面ミューやバンプ、カント(角度)によって踏み方も変わります。

 今のF1マシンのブレーキングは、ものすごい短い制動距離でマシンを止めてるので、ブレーキングポイントの幅はとても狭いです。ブレーキで限界を超えてしまったときはタイヤがロックしてタイヤを壊してしまいます。タイヤが1本予定どおりに使えなくなると戦う武器が減ってしまいますし、タイヤがロックして表面にフラットスポットを作ってしまうとバイブレーション(振動)が起きて、振動がひどい時には走れなくなります。

 レーシングドライバーがレースウイークを通じて徐々にブレーキングポイントを詰める理由もそこにあって、どのドライバーもまずは限界の一歩手前から徐々にブレーキングポイントを探っていきます。短い制動距離に合わせて、ブレーキを自分の感覚に落とし込んでいく時間が多少必要です。コースのコンディションやタイヤの雰囲気などを見ながら、少しずつブレーキングポイントを奥にしていくという作業です。

 ニュータイヤでの予選になると、そのさらに奥までブレーキングを我慢しなくてはなりません。燃料が満タンの状態だと『これくらいかな』とある程度セーフティに対処できるのですが、予選は『限界の限界』を探っていかなければなりません。

 ヒュルケンベルグはいきなりニュータイヤでタイムを出さなければいけない予選から乗ったわけですが、その難しさは『半端ない』といった感じですね(笑)。その日の午前中にゆっくりとコーヒーを飲んでいたところから呼ばれて、いきなりサーキットに来て予選を走るというのは、脳や体のすべてをアジャストしなくてはいけないので、いろいろなことを含めて至難の業だっただろうなと想像できます。

 それに加えて、アイフェルGPが行われたニュルブルクリンクの1コーナーはトリッキー特徴があって、ブレーキングポイントを見つけるのが難しいコーナーです。ブレーキングから若干右に曲がりながらターンインをして、画面で見るよりも1コーナーのイン側はズドンと落ちていてかなりの段差があります。

 段差が意外と大きいことからドライバーは1コーナーのクリッピングポイントが見えづらいですし、ブレーキングポイントも掴みづらい。右に曲がっていながら落ちるという2段階コーナーなので、余計に見づらくて、多くのドライバーがオーバーシュートしてしまったり、右フロントタイヤの荷重が抜けてタイヤをロックをさせていましたね。F1ドライバーと言えども、あの1コーナーにはかなりのドライバーが手こずってて、予選ではバルテリ・ボッタス(メルセデス)が1コーナーで膨らんでしまい、さらに横を向いたりしていました。

 あの1コーナーのアプローチでは目一杯イン側についていないドライバーもいて、わざとイン側のクリップを外していました。1コーナーの進入からクリッピングポイントまでをイン~インで行ってしまうと段差でタイヤが浮いてしまい、荷重が抜けすぎてしまいます。

 逆にインにつかないと遠回りで損すると思われそうなんですが、むしろタイヤを4輪しっかりと設置させたままターンインしていくためには、若干インを空け気味のラインで通った方がいいことになります。1コーナーの走行ラインはドライバーによっても違いますし、マシンのセットアップによっても変わってきます。いろいろなことをドライバーごとに工夫しているのかなと見て取れましたね。あの1コーナーほど多くのドライバーがミスをするコーナーはなかなかないと思います。

 さらに今回は悪天候で金曜日の走行できずに路面はゴムが乗っていない滑りやすい状態ですし、予選日も予想以上に気温が低かったので、コンディションもよくありませんでした。フロントタイヤは特にタイヤの作動領域に持っていき、内圧が上がるまではグリップしないんですよね。気温が低いのでタイヤの温度も上がりづらいですし、温度が上がるまでタイヤロックもしやすい。当然1コーナーに限らず、あちこちのコーナーでタイヤをロックさせてフラットスポットを作っているドライバーも多かったですね。

 F1ドライバーからの視点で言うと、スピードが高いストレートエンドでのブレーキなどは凄い勢いでブレーキを踏むことになります。ドライバーは本当に蹴るように『ガツン!』という100kg以上の踏力でブレーキペダルを踏み込みます。その瞬間に縦Gは5Gくらい掛かります。

 ドライバーにとってタイヤロックさせないことに越したことはないですが、タイヤのグリップに元気がなくなってきたりだとか、予選の一発というのは本当にギリギリを使っていくので、さらにブレーキングは繊細になっていって、コーナーの特性にもよりますがタイヤロックを避けられない場合もあります。そうなったときにはドライバーの足についているセンサーでABSのようにブレーキをコントロールしていきます。ブレーキングというのはガツンと踏み込むのですが、同時に繊細なコントロールも心がけて、意識して操作しているわけです。

 それこそ僕もバルセロナで初めてF1マシンを走行させてブレーキングしたときには、後ろから頭を思いっきり殴られたような感じでした(苦笑)。脳が動いてしまうんじゃないかという、それくらいのGを感じます。F1マシンは大きな馬力とエンジンパワーによる加速もたしかにすごいのですが、僕は一番驚いたのはダウンフォースを含めたブレーキでしたね。ドライバーにとってはそんなギリギリの状態ですが、タイヤがロックする瞬間は感じることができるので、そこをコントロールして、できるだけフラットスポットを作らないようにブレーキングをしていくわけです。

 ニュルブルクリンクはテストもしていないサーキットなので、予選は非常に難しい状況でしたが、そんななかでボッタスが予選Q3の最後にアタックを決めました。あれは本当に見事でしたね。あの状況をまとめきったボッタスの集中力は素晴らしかったなと思いました。

 逆にチームメイトのルイス・ハミルトンは若干守りというか、置きにいったという感じがしました。ニュルブルクリンクはF1ではテストもしていないサーキットですし、週末は気温も低くてミスが起こりやすい状況がそろっているのですが、ハミルトンにしては縁石の使い方などを見ていても若干守りに入っていて手堅いアタックラップでしたね。

 決勝レースでは、スタートでいきなりそのふたりが争いました。1コーナーでは、次の2コーナーが左コーナーなのでアウト側のボッタスが若干有利でした。なのでハミルトンはすごく良いスタートをしたのですが、そういったコース特性もあって、ボッタスが1~2コーナーではポジションを守りきりました。

 ボッタスは、まずはトップで1周目を戻ってきたのは素晴らしくて『今回はボッタスがこのままいくぞ』と感じさせたのですが……、やっぱりハミルトンでしたね(苦笑)。ハミルトンはボッタスの1コーナーのブレーキングのミスを逃すことなくトップに立ちました。ボッタスは1コーナーでミスして完全に失速していたのでトップを守りきれませんでした。ニュルブルクリンクに関してのキーポイントはやはり1コーナーになりましたね。

 やはりハミルトンが後ろからプレッシャーを掛けている状況のなかで、ボッタスが完璧にレースラップすべてをまとめきるというのはなかなか難しいですよね。ボッタスは『少しブレーキが遅れたな』と思っても、タイヤをロックさせたくないので、オーバーシュート気味でなんとかなると思っていたら、ハミルトンが予想よりも速く並んできてしまったという感じでしたね。

 メルセデス以外では、今回はダニエル・リカルド(ルノー)が非常にうまくレースをしていましたよね。シャルル・ルクレール(フェラーリ)を2コーナーでアウトからオーバーテイクしましたが、あのオーバーテイクは勇気が必要です。2コーナーはドライバーからは逆バンク気味にコーナーができていて、タイヤカスも溜まりやすいコーナーなので、ラインを外してのオーバーテイクは非常に難しいです。

■次のページへ:F1歴代最多勝利を挙げたハミルトンとミハエルの共通項。ホンダF1活動終了について


関連のニュース

F1 関連ドライバー

F1 関連チーム