レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

F1 ニュース

投稿日: 2020.11.23 07:04
更新日: 2020.11.23 07:11

【中野信治のF1分析第14戦】強さが集約された『ハミルトン劇場』 再舗装の特殊なウエット路面で問われる技量

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


F1 | 【中野信治のF1分析第14戦】強さが集約された『ハミルトン劇場』 再舗装の特殊なウエット路面で問われる技量

 王者メルセデスに対して、対抗馬最右翼のレッドブル・ホンダはどのような戦いを見せるのかが注目される2020年のF1。レースの注目点、そしてドライバーやチームの心理状況やその時の背景を元F1ドライバーで現役チーム監督を務める中野信治氏が深く掘り下げてお伝えする。第14戦トルコGPは予選から大雨でレースも荒れた展開に。そのなかでルイス・ハミルトンが優勝を飾り、7度目のチャンピオンを決めました。その結果以上に内容が濃かったレースを中野氏が解説します。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2020年F1第14戦トルコGP、まずは予選でレーシングポイントのランス・ストロールがポールポジション獲得という、少し驚く展開になりました。ストロールには雨が強いという印象はあまりなかったのですが、今回はレーシングポイントのクルマが特殊な路面コンディションにとても合っていたように見えました。

 トルコのサーキットは今回、アスファルトが再舗装されていました。そして雨になったことで路面に少し油も浮いたかなりスリッピーな状況だったと思います。通常のウエットコンディションよりも滑りやすいその路面状況のなかで、うまくレーシングポイントのウエットセッティングがはまったのだと思います。

 あのような特殊な路面状況では、ドライバーもすごくミスを犯しやすくなります。当然、トラクションも掛かりづらいですし、ブレーキもいつもの雨の時以上に止まらない。タイヤは基本的に縦方向にしか使えなくて、横方向はまったくグリップしないという特殊な状況でした。

 ですので、普通のウエットコンディションで速いクルマが今回も速かったかと言うと、少し違う感じでしたね。非常にトリッキーなコンディションで、いつものウエットドライビングの常識が通用しない状況で、ある意味、そのなかでノープレッシャーなストロールが『のびのび』と走ることができたように見え、チームメイトのセルジオ・ペレスを上回ってポールポジションを獲得しました。

 トルコGPでは、どこを狙ってセットアップしていたかということで雨量と合わせて結果は変わりました。ウエットレースではドライバーの技量も大きく関係しますが、今回の予選では、そのなかでもクルマの方向性、ウエットでの良し悪しが大きく関係していたイメージですね。

 ドライバーのタイムもそうですが、特に今回の予選タイムの大きな差を見ていると、どこを狙ってクルマのセットアップしているかでタイム差が極端についていました。ほぼドライ用セットのまま走っているチーム、完全に雨用セットに振っているチーム、その中間にセットしているチームとで、タイムが分かれていたと思います。

 路面が乾いていくと読んでいるチームならば、マシンの足回りを少し硬めにして、ドライ寄りにセットアップしていると思います。その逆ならば、サスペンションのダンパー、スプリングやロールバーなどを柔らか目にセットアップして、ダウンフォースを付け気味にしていきます。サスペンションのジオメトリーも大きく変更しているチームもあったと思います。

 雨用セットというのは、車高を上げてサスペンションを動かし、ダウンフォースもつけていくというのが、わかりやすい一般的なイメージです。ですが、今のフォーミュラでは車高はそこまで大きくは変えないと思います。タイヤ表面のブロックが高いウエット用タイヤに合わせる程度にするくらいですかね。

 もちろん、あのようなトリッキーで特殊なコンディションなので、うまく・早く走行ラインを見つけたドライバーは予選も速かったです。今回の予選では、通常のウエットでの走行ラインとはまったく違うラインを通っていましたね。ウエットラインというのは、カートでも同じラインで走行をするのですが、アウト〜アウト〜インで、立ち上がり重視でコーナーを回ることが多いんです。

 ですが今回の場合は、コースのアウト側がまったくグリップしなかったのだと思います。本来であれば雨はそもそもグリップせず、横方向のグリップが極端に下がります。ですのでステアリングを切る量を少しでも小さくしたいです。そこでアウト〜アウト〜インというラインを通ります。

 マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)は、通常のウエットのときにはそういった外側ラインで走行しているのですが、今回はドライに近いラインを選んでいました。イン側のエイペックスを外さず、むしろイン側の縁石を使ってマシンの向きを変えていました。今回は新しく舗装された路面で、雨になったときにアウト側がまったくグリップしなかったからです。舗装されたばかりの路面は雨になるとオイルが浮いてくるので、特にアウト側は使えません。

 いつものウエット路面とは違い、すごく特殊なライン取りというのが興味深かったですね。ですが、逆に言えばラインがひとつしかなかったので、決勝ではオーバーテイクが難しそうでしたよね。本当にあの状況は追い抜きができないと思います。

 予選に関しては、そんなライン取りをいち早く見つけたドライバーと、チームがどんなセットアップをしたかで大勢が決まった印象でした。完全ウエットかドライ寄り、もしくはその中間、どこにセットアップを振ったかで結果が分かれただろうし、あとは、そのマシンが元々ウエットに合うか合わないかということですかね。ウエットに合わないマシンというのはなんとなく存在するので、その3点が結果を極端に左右しました。

 決勝レースの序盤も、雨量が多いフルウエットの状況ではレーシングポイントの2台は速さを見せていました。ですが、路面が乾いてくるとメルセデスのルイス・ハミルトンが速くなっていました。

 序盤はスタートからレーシングポイントの2台が速かったですね。メルセデス勢に関してはハミルトンはスタートこそ良かったものの、その後コースアウトしてしまい順位を下げ、バルテリ・ボッタスに関しては接触もあって1コーナーでスピンしてしまいました。その段階では、今回は本当にメルセデスが不調なのかとも思ったのですが、やはり最後はハミルトンでした(苦笑)。本当に凄かったですね。

 あのトリッキーな路面コンディションのなかで、レースをノーミスで終えるというのは、ほぼ100パーセント不可能です。ハミルトンも今回は何度かコースアウトしていました。あまりにも繊細なドライビングが要求されるなかで、ラインを外してオーバーテイクすることが求められるような状況です。

 しかし、ラインを外すとまったくグリップがなくて、コーナーの進入でイン側を差そうとしてもブレーキがロックして飛び出してしまいます。立ち上がり後のストレートで完全に抜ききってしまえば良いのですが、ブレーキングで抜きにいくのがほぼ不可能な状況でのレースだったので、本当に難しかったと思います。レースの中盤、ようやくDRSが使用できるようになり、ストレートでのオーバーテイクがしやすくなりました。

 そのなかでもびっくりしたのがハミルトンとペレスですね。ハミルトンは乾き始めた路面のなか、インターミディエイトで50周という、かなり長い距離を走りました。本当に最近のハミルトンの真骨頂というか、冷静に展開を読んでいますよね。レース中の展開を把握するのはチームとの共同作業ですが、その状況をチームがハミルトンにきちんと伝え、ハミルトンは冷静に天気や路面状況などを計算しながら、レース前半は無駄な争いをしないということに頭を切り替えることができたのだと思います。

 ハミルトンはメルセデスのマシンが、フルウエットのときにあまり強くないということを理解していたと思うので、勝負どころは路面が乾いてきたときだと判断したはずです。そうなると後半勝負になるので、タイヤを持たせる作戦に途中から切り替えられます。ですが、それはチームとの細かい情報交換でその作戦にしたと思うので、結局はメルセデスのチーム力ですよね。

 とは言っても、どのドライバーもハミルトンのようにタイヤをあそこまで保たせられるかというと、そうではありません。クルマの状況にもよるのですがタイヤを保たせられないドライバーもいます。今回ですと、メルセデスのマシンがフルウエットでは単にあまり速くなかったのか、それとも若干ドライ寄りのセットアップをしていたから、フルウエットの路面では速さがなかったのかは不明です。

 もちろん、僕はチームの人間ではないので詳細は定かではないですが、少なくとも路面が乾くにつれてハミルトンのマシンは息を吹き返していました。ただし、路面が乾いてくるとスピードも上がるので、タイヤが壊れる(摩耗が限界を迎える)早さも増していきます。そういう状況のなかでハミルトンのマシンは、ほかのマシンよりも良い状況、タイヤを守れる状況になっていました。

■次のページへ:雨のなかでの縦方向のドライビングと進化したハミルトンの強さ


関連のニュース

F1 関連ドライバー

F1 関連チーム