2020年F1第14戦トルコGPでは雨で濡れた難しい路面コンディションのなか、ふたりの王者のベテランらしいいぶし銀のレースを披露した。
そのひとりはルイス・ハミルトン(メルセデス)で、もうひとりはセバスチャン・ベッテル(フェラーリ)だ。ハミルトンは8周目に交換したインターミディエイトタイヤでチェッカーフラッグまで走りきって優勝。ベッテルはファイナルラップでチームメイトのシャルル・ルクレールが2番手のセルジオ・ペレス(レーシングポイント)にオーバーテイクを仕掛けて失敗したのに乗じて、4番手からひとつポジションを上げて、表彰台を手にした。
ふたりが今年のトルコGPで落ち着いたレース運びができたのは、過去に味わった苦い経験が糧になっていたと言ってもいい。
ハミルトンにとっての苦い経験とは、2007年の中国GPだ。ハミルトンは、トップを走行しながらもタイヤ交換のタイミングを見誤り、インターミディエイトタイヤをベルトが見えるまでひどく摩耗させてしまう。その状態でピットに向かったため、ピットロード途中のカーブを曲がりきれずにコースアウト。グラベルにはまってリタイアとなった。
「あのとき、僕はタイトル争いをしていたように、技術的には十分なレベルにあったと思う。足りなかったのは知識と経験だった」とハミルトンは振り返り、こう続けた。
「当時はまだチームに『ピットインするべきだ』って言える力がなかった。あのリタイアで僕は結果的にタイトルを失ったから、本当にいい勉強になった」
じつはこの年のトルコGPでもハミルトンはタイヤトラブルに見舞われていた。残り16周でタイヤ表面のゴムが剥離する『チャンキング』という現象によって最終的に右フロントタイヤをバーストさせ、上位争いから一転、5位に終わった。
その翌年のトルコGPでは周りが2ストップを選択するなか、3ストップで2位を獲得した。
「3ストップを選択したのは、ブリヂストンが昨年のようになってしまう恐れがあったから、エンジニアから安全策を採るよう薦められたんだ。優勝できなかったのは残念だけど、いいレースができたと思う」(ハミルトン)
この年、ハミルトンは最終戦のファイナルラップでの劇的なオーバーテイクでタイトルを獲得したが、それを可能にしたのは、2007年から2008年にかけてエンジニアとのコミュニケーションを密にしていたからだった。
その後もハミルトンはエンジニアとのコミュニケーションを大切にし、成長していった。それが一際光ったのが、今回のトルコGPだった。
「インターミディエイトに履き替えた直後はセブ(ベッテルの愛称)にもついていけなくて、どうなってしまうかのかと思ったけど、その後グレイニング(ささくれ摩耗)がひどい状態を過ぎたら、グリップが戻って、『イケる!!』って直観したんだ。だから、チームと話し合いながら、ステイアウトすることにした」(ハミルトン)