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F1 ニュース

投稿日: 2020.12.26 15:00
更新日: 2020.12.26 16:16

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回】2020年は「予想以上に苦しい1年」組織づくりを継続、新体制を樹立へ

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F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第19回】2020年は「予想以上に苦しい1年」組織づくりを継続、新体制を樹立へ

 2020年シーズンで5年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。最終戦アブダビGPを含め、中東3連戦はハースにとって厳しいレースが続いた。予想以上に苦しかったというシーズンが終わったばかりだが、チームも小松エンジニアも、すでに2021年シーズンに向けて動き始めている。そんなハースと現場の事情を、小松エンジニアがお届けします。

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2020年F1第17戦アブダビGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選17番手/決勝18位
#51 ピエトロ・フィッティパルディ 予選19番手/決勝19位

 アブダビGPを含む最後の中東3連戦は、ウチのクルマには厳しいレースでした。アブダビにはふたつの比較的長いストレートがあり、あとはほぼすべて低速コーナーです。これらは特に今年のクルマの弱点なので苦戦は予想されていました。

 金曜に走ったところやはり中・高速コーナーがほとんどないため、タイヤをうまく使えないというのが問題でした。ウチは予選の速さが残念ながらないので、決勝レースはなんとしても1ストップでいかなければチャンスがありません。しかしタイヤをうまく使えていなければとても1ストップには持ち込めないので、この観点から金曜の夜にすべてのセットアップ変更を行いました。

 この一環でダウンフォースもさらに付けたので直線では比較的遅くなると思っていたのですが、土曜日のFP3では想像していたほど遅くはなかったです。逆に、低速コーナーの続くセクター3では大きくタイムをロスしました。特に複合コーナーになっているバックストレート後のターン11・12・13や最終コーナーは遅かったです。もちろん、このクルマの持っている特性という面もありますが、残念ながら開発をしていないクルマの絶対的グリップ不足で限界でした。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第17戦アブダビGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 結果的にレースでも良いペースで1ストップをやり抜けるレベルのクルマに持っていくことはできませんでした。ケビンはハードタイヤでスタートしましたがジョージ・ラッセル(ウイリアムズ)についていくだけのペースはなく、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)に抜かれたところで一気にペースが落ちました。

 その後ピエトロにも抜かれてしまうほどだったので、31周目にピットインしてミディアムタイヤに交換しました。しかしこのミディアムにもかなり苦戦しました。タイヤ交換後に飛ばしすぎたというのもあるかもしれませんが、フロントタイヤの性能がガクッと落ちてしまい、最後の方はピエトロの方がペースが良かったくらいです。

 この段階でウチの2台は18番手・19番手を走っていました。こういうことを言うと真面目にやれと怒る方もいらっしゃるかもしれませんが、ケビンの最後のF1レースで、ダメになっているタイヤを最後までなんとか労わって18位完走しても、おもしろくありません。後ろに順位を争っているドライバーもいなかったので、新しいタイヤを履いて最後の数周だけでも全開で走ってF1マシンを楽しんでもらいたかったので、47周目に再度ピットインして新しいタイヤを履きました。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2020年F1第17戦アブダビGP ケビン・マグヌッセン(ハース)

 一方ピエトロは、この2戦でよくやってくれたと思います。バーレーンでの走りやフィードバックを踏まえて、アブダビでは新人扱いする必要はないと判断し、フリー走行では通常ロマンが行うのと同様のプログラムを組みました。残念ながらFP2でハードタイヤでの走行中にターン8のブレーキングでフロントタイヤをロックアップさせてしまい走行距離が減ってしまいましたが、それを抜きにすれば良く走ってくれました。

 レースではケビンと戦略を分けて、ミディアムでスタートする1ストップ作戦を採りました。セーフティカーが入るまでのペースも悪くなかったのですが、彼が一番苦労していたのはトラフィックのなかで走る際のタイヤマネージメントです。F1で2戦目ならば仕方ないレベルかと思います。

 しかし、ピエトロのレースで一番の問題だったのは実はパワーユニット(PU)です。レースが始まって数周の段階でエンジン関連の部品に異常が起きました。この問題を解決するためにはピットストップ中に余分な作業が必要になるので、ピットストップが7秒ほどかかることになってしまいます。

 タイムロスを少なくする為にVSC(バーチャルセーフティーカー)が出たタイミングでピットインしました。この時点ではまだ1ストップでいくつもりでしたし、ピエトロのハードタイヤの感触も良く、ニコラス・ラティフィ(ウイリアムズ)をターゲットにできそうでした。

 しかし問題は解決しておらず、「どんなに頑張っても47周までしか保たない」とPU担当のスタッフから言われ、2ストップ作戦に変更せざるを得なくなりました。アントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)に抜かれたタイミングで2度目のピットストップを行いましたが、再び長いピット作業を強いられたのでこの時点でラティフィとはもう戦えなくなりました。

 前戦では予選をちゃんと戦わせてあげることができず、今回はエンジン関連のトラブルと、ピエトロにはかわいそうなことをしてしまったなと思っています。しかし、彼はこの2戦でホントに良くやってくれたと思います。この経験が彼のこれからのキャリアに繋がってくれることを願います。

ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)
2020年F1第17戦アブダビGP ピエトロ・フィッティパルディ(ハース)


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