将来F1のエンジニアとして働くことを目標にイギリス・ラフバラ大学に留学している現役大学生の木村さん。前回のブログでは、木村さんが2018~2019年にハースF1初のインターン生としてチームをサポートしたときの経験談をお届けいたしました。第5回目となる今回は、実戦でのインターンのなかで特に印象に残っている出来事をふたつご紹介します。
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現地イギリスからお送りしておりますこのブログ連載も今回で第5回目となりました。新型コロナウイルスの流行もあり、1年間で5回というスローペースな連載となっていますが、残り数回改めてよろしくお願いします! 前回に引き続き、今回もハースF1チームでお世話になったインターンのなかで印象に残っている出来事をいくつか紹介させていただきます。
■2019年カナダGP
まず、僕のなかで一番記憶に残っているレースは2019年のカナダGPです。これは良い記憶ではなく、ある意味教訓のような形で忘れられないレースになっています。2019年シーズンの前半戦は予選で一発の速さを見せることはあったものの、レースでの安定感には欠けており、なかなか結果が付いてこないなかで第7戦のカナダGPを迎えました。
ロマン・グロージャン(以下ロマン)は土曜日のフリープラクティスでのクラッシュもあり、なんとか予選Q2には進んだものの苦しんでいたなかで、ケビン・マグヌッセン(以下ケビン)はQ3に進められるであろうペースを安定して見せていました。しかし、Q2最後のアタックで大きなクラッシュをしてしまい、マシンのリヤの大部分を壊してしまいます。
このクラッシュによる修復作業のペナルティが影響し、ケビンは結局ピットレーンスタートで日曜日のレースを迎えることになってしまったのですが、これに伴って低ダウンフォース方向へとセットアップの変更を施しました。
これは最後尾から直線での追い抜きを想定したリスクもあるセットアップ変更だったのですが、これがうまくいかず、レースの終盤ではケビンが「キャリアのなかで最悪のクルマだ」と無線で言い放つ事態になってしまいました。この言葉を僕はイギリスにあるファクトリーのレースサポート室で無線を通じて聞いていたのですが、このときは本当に落ち込みました。
というのも、レース用に変更したセットアップの多くの部分を、僕がシミュレーションをベースに提案したものだったので非常に責任を感じました。もちろん、ドライバーも含めリスクを承知でチームとしての最終決定がなされているのですが、事前のシミュレーション解析の段階で、もう少しなにかできることがなかったのかなと反省し、色々な部門のエンジニアからアドバイスを頂きながらレース後すぐに検証作業を行いました。
やはり、コンピューター上でのシミュレーションはあくまで机上での解に過ぎず、そのなかには含まれない、経験から分かるサーキット独特の特性や、ドライバーの特徴などもしっかりと考慮する必要があることを改めて感じました。当たり前のことかもしれませんが、その後のレースからは、それまで以上に意識をしながら仕事を進めることができたキッカケとなったので強く印象に残っています。
ちなみにケビンはレースが終わった直後、無線を通じてチームのメンバーに向けて謝罪をしていました。ドライバーも、ごく普通かそれ以下の身体能力を持った僕には計り知れない極限状態でレースをしているので、明らかな不満点があったときに強い言葉が出てしまうのも理解できます。
ですので、エンジニアとしてはそういった言葉に一喜一憂せず、何が悪かったのか、どうしたら改善できるのかということをしっかりと冷静に検証し、次回以降のレースに活かすことが大事だなというメンタル面での学びもあったので、総合的には良い経験になりました。