2021年F1シーズンも序盤を終え、早くもタイトル候補が絞られてきました。ホンダF1の最終年、そして日本のレース界期待の角田裕毅のF1デビューシーズン、メルセデス&ルイス・ハミルトンの連覇を止めるのはどのチームなのか……話題と期待の高い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が解説。第6戦は波乱の展開で新鮮な表彰台の顔ぶれになったアゼルバイジャンGPの特殊性を中心にお届けします。
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2年ぶりにバクー市街地サーキットで行われた2021年F1第6戦アゼルバイジャンGPですが、バクーだからこそ起こるハプニングや、ドライバーのオーバーテイクやミスなども含めていろいろなことが起こり、アゼルバイジャンらしいレースになりましたね。バクー市街地サーキットはストレートが長くスピードが出ますし、オーバーテイクも可能でミスもしやすいコースです。これはモナコもそうなのですが、最近のサーキットでは見られないような場面が多く見られましたね。
予選ではターン3やターン15など、直角コーナーでのミスが多発しました。ランス・ストロール(アストンマーティン)とアントニオ・ジョビナッツィ(アルファロメオ)がクラッシュしてしまったターン15は一瞬、右にステアリングを切ってから左に曲がっていくコーナーで、しかも若干、下り坂になっているので、どうしてもクルマがアウト側の外に流されてしまいます。
バクーは見た目以上にアップダウンがあるコースで、路面のアンジュレーション(起伏)も大きい。なおかつ、ターン15にはスピードを乗せながら進入するので、ドライバーは多少スピードが出ていてもクリアできるように錯覚してしまうコーナーでもあります。ですが、実際のところは路面のμが低くコース幅も狭いので、ドライバーが持っているイメージよりもクルマを止めないといけないコーナーになっています。
ですが予選など、一発のタイムを出さないといけないときには、ほかのサーキットのイメージから『このくらいならいけるだろう』という、ドライバー目線では誘い水に乗ってしまうようなコーナーになっています。そこで実際にコーナーに進入すると、路面のアンジュレーションやアップダウンで『あっ、止まれない!』ということが今回もかなりありました。ターン15に関してはスピードを乗せていきたいコーナーなので、普通のサーキットならいつものイメージでクリアできるかと思いますが、実際はそんなことのない難しいコーナーです。
そのような見た目以上に難しいコーナーがバクーには多く、ドライバーが予想以上にクルマを止めてから曲がらないといけないコーナーがたくさんあります。予選で角田裕毅選手もクラッシュしてしまった前半部分のターン3もそうです。ターン3はブレーキングそのものが難しいといいますか、市街地サーキットは基本周りがごちゃごちゃしていているので、ブレーキングポイントが掴みづらいことが多いです。
ドライバーが持っているクルマのイメージと、実際にクルマが持っている限界が若干乖離しているといいますか、市街地サーキットなのにそこそこスピードが乗ってきてからのハードブレーキングなので、余計に乖離の幅が広がってしまうのだと思います。それが予選アタックなどでギリギリを攻めているときにミスしてしまうのは仕方がないことです。
バクーでは直線スピードを稼ぐために若干ダウンフォースが少なめのセットアップを施すので、ブレーキングは厳しいですし、直線が長いのでフロントタイヤが冷えてしまいます。その影響で余計に直線のあとのコーナーのブレーキングは厳しくなります。ダウンフォースが少ないことに加えタイヤがロックしやすいという、いろいろな難しい条件が重なっているわけです。
予選Q3は、角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)のターン3でのクラッシュによって最後は赤旗終了となり、シャルル・ルクレール(フェラーリ)がポールポジションになりましたが、多くのドライバーが最後のアタックをできていないので、結局どのクルマが速いのかはわかりませんでした。マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)がアタックできていればポールポジションを獲得していたのかなとも思います。ですので、あの予選結果がそのまま決勝に繋がるイメージはなかったですね。
その決勝レース、ポールポジションのルクレールがスタート直後からポジションを落としてしまいましたが、これはなんとなく想像できていましたね。やはりフェラーリのクルマのポテンシャルは今一歩、トップには足りていません。クルマはよくなっているのですが、決勝では攻めることができない感じですごく大人しそうに走っていましたし、まだダウンフォースが足りない状況なので決勝になるとタイヤが若干厳しくなってしまいます。モナコと違ってバクーは誤魔化しが効かないので、タイヤが摩耗したときのデグラデーションやクルマのバランスなどを含めて、フェラーリはメルセデスとレッドブル・ホンダに対してまだ厳しいところがあります。
今回、決勝でもうひとつ顕著だったのがセクタータイムの違いで、長いストレートがあるセクター3ではレッドブル・ホンダよりもメルセデスのほうが速い状況でした。ですが、これは単にセットアップのダウンフォース量の違いかなと感じています。自分たちのクルマが得意な方にセットアップを振り、どこでタイムを稼げるかということを考えたとき、メルセデスはダウンフォースを多くしてもセクター2ではそれほどタイムを稼げないと判断したのでしょう。ならばセクター2は我慢して、ほぼ直線しかないセクター3で稼いだほうがいいという結論に至ったのだと思います。
セクター2とセクター3のどちらかを重視するかはすごく難しいのですが、今回に関してはレッドブル・ホンダのほうがレースを有利に進められたのかなと思います。ダウンフォースが多いほうが決勝でタイヤも労れますし、直線に関しては前車のスリップストリームに入ればそれほど差はつきません。
レース展開としては、今回はフェルスタッペンとセルジオ・ペレスがワン・ツー・フィニッシュを決めるかと思いましたが、フェルスタッペンが左リヤタイヤのパンクによってリタイアしてしまいました。これは直線が長いこともあってタイヤへの負荷が高まったことも関係していると思います。タイヤへの負荷はストレート区間が一番大きくなるので、タイヤを追い込んでいくとああいったことが起きてしまいます。
ピレリの発表によるとデブリの影響が考えられるということですが、ランス・ストロール(アストンマーティン)も同じように左リヤタイヤがストレートでパンクしたので、そんなに同じ場所で同じ形でデブリを踏むのかなとも思うので、ちょっとなんとも言えないですね。フェルスタッペンはレース中もプッシュしていたので結構タイヤを酷使していただろうし、ストロールもタイヤを酷使するタイプなので、もしかしたら関連があるかもしれません。本当のところは我々にはわからないことです。
いずれにしても、フェルスタッペンのリタイアは残念ですし、チャンピオンシップを考えても優勝していればいい流れができそうな感じでした。ですが、これがレースと言えばそうですし、結果としてはルイス・ハミルトン(メルセデス)もノーポイントに終わりました。
ハミルトンは赤旗後の再スタートのとき、ステアリングのボタンに誤って触れたことでブレーキバランスがフロント寄りになって1コーナーを止まりきれなかったということですが、僕には明らかに突っ込みすぎで、ブレーキングタイミングが遅かったような感じにも見えました(苦笑)。