2021年F1第6戦アゼルバイジャンGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った点について解説する。第1回では、ルイス・ハミルトンが誤って触った“ブレーキマジックボタン”を取り上げる。
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大波乱の展開だったアゼルバイジャンGP。首位を快走していたマックス・フェルスタッペンがタイヤバーストで戦線離脱し、苦戦を強いられていたルイス・ハミルトンにも勝機が巡ってきた。しかし終盤のリスタートの際、ハミルトンはステアリングのボタン操作を誤り、ブレーキロックさせてターン1を直進していった。一体何が起きていたのか。
メルセデスのステアリングは、前後のブレーキバランス変更のために、いくつかのボタンとダイヤルを備えている。ステアリングの写真右側、黄色矢印で示したダイヤルと、ステアリング下方の左右のボタンで、前後のブレーキバランスを調節する。
赤矢印の『BMIG』と表示されたダイヤルは『Brake Migration』を意味し、リヤのエンジンブレーキの効き具合を調節する。
今回話題となったマジックボタンは、ショートカット機能を持たせたボタンだ。このボタンを押すだけで、プリセッティングされた複数のパラメーターに従って、ブレーキバランスが一瞬でフロント寄りになる。スタート前のフォーメイションラップや、セーフティカー先導で周回を重ねているときに使用される。フロントタイヤとブレーキディスクの温度を、適正ウインドウ内に留めるのが目的だ。
通常、ブレーキバランスは、フロント51%付近に設定されている。それがブレーキボタンを押せば、一気に86.5%まで前寄りになる。
ハミルトンのマジックボタンは、ステアリング裏側の上方に付いている(2枚目写真青矢印参照)。一方ボッタスのそれは、ステアリングの表側、『BW』(Brake Warming)と表示されたボタンだ(1枚目写真緑矢印)。
他チームのマシンにも、もちろんマジックボタンに類似したものはある。たとえばレッドブルは、DRSパドルにその機能を持たせている。フォーメイションラップやセーフティカー先導中、DRSは使用できないため、誤用の恐れがないからだ。
ドライバーは通常フォーメイションラップの最後、あるいはセーフティカーがピットに戻る周回に、マジックボタンをオフにする。ハミルトンも再スタート直前に、確かにオフにした。しかし、セルジオ・ペレスとの1コーナーまでの攻防中に、誤って再び押してしまったのだった。