2021年F1第6戦アゼルバイジャンGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った変更等について解説する。第3回では、レッドブルRB16B、フェラーリSF21、メルセデスW12のリヤウイング比較を行う。
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アゼルバイジャンでの最速マシンは、まちがいなくレッドブル・ホンダだった。その肝となったのが、ライバルたちとは異なるダウンフォースレベルだった。
バクー市街地サーキットは、市街地と言いながらも実際にはモナコとモンツァを合わせたようなコース特性だ。そのため超低速区間と超高速区間の最適セッティングを、高いレベルで見つけなければならない。メルセデスとフェラーリがリヤのダウンフォースを軽めにしたのに対して、レッドブルは重いリヤウイングを選択した。メインプレート下方が、大きく湾曲した仕様である(緑色のふちどり参照)。
こうすることでプレートの角度をモナコ仕様ほど立てなくてもダウンフォース増大が見込め、同時にドラッグは極端に増えずに済ますことができた。
対照的にフェラーリとメルセデスは、角度も湾曲もそれほど大きくない仕様を投入した。レッドブルに比べプレートが平らな分、プレート上方と下方を流れる気流の速度差は、そこまで大きくない。ダウンフォースも大きくない分、ドラッグも抑えられる。予選一発はこれで十分な速さが見込めるが、長丁場のレースを戦い切るのは厳しい。予選で速かったフェラーリは、予想どおりレースで失速した。
フェラーリはフリー走行で低ダウンフォースと中間の両仕様を試し(4枚の写真中、1枚目と3枚目が低ダウンフォース仕様)、最終的に薄いリヤウイングを採用した。今季のSF21はトラクション性能に優れ、ダウンフォースに大きく頼らずともリヤタイヤの温度を素早くウィンドウに入れることができる。そのことも考慮しての、選択だった。
しかしレースではすぐにリヤタイヤにグレイニングが発生し、シャルル・ルクレールは序盤で順位を落とした末に、9周目でのタイヤ交換を余儀なくされた。
メルセデスも同様の症状に悩まされたが、原因は違っていた。W12は基本的にタイヤの持ちが良く、バルセロナのような高速コースではその特性が有利に働く。しかしモナコやバクーの低速区間では、タイヤに熱が入らず苦労した。
なのでメルセデスのエンジニアたちは基本的には、リヤのダウンフォースをつける方向でセッティングを進めた。ところが初日フリー走行では、それだけダウンフォースをつけてもタイヤ温度は期待したほど上昇せず、特に低速のセクター2での遅さが顕著だった。
そのためメルセデスは、ハミルトン車ではリヤのダウンフォースを削り、ボッタス車はそのままにする両面作戦に出た。しかしレースでのハミルトンはルクレールほどではないがリヤタイヤの劣化に苦しみ、11周目にピットに向かった結果、レッドブル・ホンダの2台にオーバーカットされてしまった。