2021年F1第10戦イギリスGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った点について解説する。今回は、メルセデスがレッドブル・ホンダとのギャップを縮めるべく投入したアップグレードを取り上げる。
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メルセデスが久々に、大型アップデートを投入した。シルバーストンに持ち込んだ新仕様は、主に車体両脇、サイドポッド周辺の空力パーツだった。まずバージボードから延長されたデフレクターは、より外側へと気流を導く(「アウトウォッシュ」を強調した)デザインとなった。フロントタイヤの巻き起こす乱流の影響を減少させることが目的だ。
ベネチア様式ブラインドに例えられるウイングレットは前後方向に延長され、より外側に、そしてより上方に気流が流れるように変更が施された。その前方にある垂直のデフレクターをほぼ半分の高さにしたことで、これらウイングレットの空力効果はいっそう増したはずだ(黄色矢印参照)。
またサイドポッド脇のデフレクターは、サイドポッド上部と一体化されたものから分割されたデザインになった(赤矢印参照)。その結果、先端が上向いたウイングとメインデフレクターがより効率よく気流を制御できるようになった。デフレクター下部の形状も見直されている(青矢印参照)。
メルセデスの技術陣は、フロアにも改良を施した。ディフューザーの発生するダウンフォース量を増大させて空力効率を上げることが、一番の目的だった。ただし今回のフロア周りの改良の大部分は、すでにライバルチームが以前に投入したものばかりに見える。
まずW12の特徴だった、フロアエッジの波打つような形状が廃止され、より直線的なデザインになった(緑色ライン参照)。さらにすぐ上のフラップがダブルになって、フロントタイヤの起こす乱流がフロア下に入り込むことを防ぐ効果が増したはずだ(赤矢印参照)。
それ以上に目立つのは、小さなデフレクターを何枚も追加したことだ。具体的には2グループに分かれた4枚ずつのデフレクターだ(黄色矢印参照)。とはいえこれらはメルセデスと同じローレイキコンセプトのアストンマーティンを含む、複数のライバルチームが何レースも前に投入したものばかり。なぜメルセデスはここまでフロア周りのアップデートを遅らせたのか、ちょっと理解に苦しむところだ。
(その2に続く)