2021年シーズンよりマクラーレンへ移籍し、第14戦イタリアGPで3年ぶりの勝利を挙げたダニエル・リカルド。ここまで僚友ランド・ノリスに後れを取ってきたが、その理由のひとつとして、マクラーレンのダイレクターレースエンジニアリングを務める今井弘は「クルマが求めているものと、リカルドの元々のドライビングの差が大きかった」点を指摘した。
また9年ぶりの優勝を飾ったマクラーレンでは、この数年でチームの状況は大きく変わっており、今井エンジニア曰く「チームとして一丸となってやろうという姿勢がはっきりしている」という。イタリアGPのレース後も、マクラーレンは今回のレースで学んだことを次に活かすべく遅くまでデブリーフィングを行っていた。
────────────────────
──今シーズン移籍してきたダニエル・リカルドは、シーズン序盤に苦しんでいるように見え、本人も思いのほか慣れるのに苦労していたと語っていました。具体的にどの辺りで彼は苦労し、マクラーレン側も時間がかかっているなと思っていたのでしょうか?
今井弘ダイレクターレースエンジニアリング(以下、今井):彼のドライビングスタイルとマクラーレンのクルマを速く走らせるための要求がなかなかマッチしていなかった。もちろん、最初はなかなかうまくいかないことは、事前に想定はしていましたが……。
──それは具体的にどんなエリアですか?
今井:ブレーキングしてからターンインして切り込んでいくところの一連の動作です。もちろんF1のクルマを速く走らせるためにはエアロが重要なわけですが、いまのフェーズ、具体的にはブレーキングからターンインしていくところのエアロのパフォーマンスを最大化するためのベストな走らせ方が、クルマによって違う。そのあたりでこれまでダニエルが乗ってきたクルマと我々のクルマが違っていて、そのアジャストに時間がかかっていたんです。それはカルロス(・サインツ/現フェラーリ)がマクラーレンに来たときも同じで、最初の何レースかはいろいろ試行錯誤することがあったわけですが、ダニエルの方がおそらくクルマが求めているものと彼の元々のドライビングの差が大きかったんだと思います。(F1マシンというのは)考えながらドライビングしていると、どうしても遅くなります。ナチュラルに操れるようにならないと。
──この週末のリカルドのドライビングはどうでしたか? 優勝したという状況を考えると、もうかなり慣れてきていると思いますが、それでもまだナチュラルまでには至っていない?
今井:このコースは影響は出にくいサーキットだと思うんですよね。
──チームとしては2012年以来、9年ぶりの優勝になるわけですが、今井さんは2009年にマクラーレンに入って今年で13年目。ここまでチームを見ていて浮き沈みがありましたが、今はどのくらいの状況にありますか? 2012年の頃と比べて、いまの状況はどうですか。当時に近いと思っていいのか、まだもうちょっと足りないのか。
今井:比較できないです。全然違いますね。
──チームがここまで挽回してきたのにはいろいろな要因があると思いますが、そのひとつにはアンドレアス・ザイドル(チーム代表)が入ったことが挙げられると思います。彼が入ったおかげでスタッフたちの仕事のやり方が上手くいってるのかなと思うのですが。
今井:いいですよ。チームとして一丸となってやろうという姿勢がはっきりしてます。今日の喜び方も非常にワンチームな雰囲気が出ていたと思います。
──確かにチームが優勝して記念撮影した直後に、ザイドルがスタッフに向かってバンザイして、スタッフ全員がそれに応えていました。見ていて、本当にワンチームだなと実感しました。
今井:マネジメント、エンジニア、メカニック、サポートクルー、ケータリングスタッフも含めてワンチームという感覚が出ているんだと思います。