フェルスタッペンとハミルトンの息詰まるチャンピオン争いに、期待の角田裕毅のF1デビューシーズンと話題の多い今シーズンのF1を、元F1ドライバーでホンダの若手ドライバー育成を担当する中野信治氏が独自の視点でお届けします。今回は第18戦メキシコGP、そして第19戦ブラジルGPの2戦で注目すべきポイントを解説。いよいよ佳境となってきたチャンピオン争いと近年のF1の放送、報道の魅力について中野氏が語ります。
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南アメリカ大陸での2連戦、まずは少し前のレースになってしまいますが、簡単に第18戦メキシコGPを振り返りたいと思います。まずは予選で角田裕毅(アルファタウリ・ホンダ)の予選Q3でのアクシデントが話題になりました。当初はセルジオ・ペレスとマックス・フェルスタッペンのレッドブル・ホンダ2台を妨害してしまうという内容の報道でした。
角田選手はパワーユニットを交換しているのでグリッド降格のペナルティが決まっているなか、予選でQ3に進出して、そこでチームメイトの(ピエール)ガスリーを助けるべく、ガスリーの前を走行してトウ(スリップストリーム)を使わせて、その後、後続のアタックしているドライバーの邪魔にならないように避けました。
そこで後ろからペレスが来ていましたが、角田選手は避ける場所がなかったのでコース外に出ていった、というシンプルな行動だったと思います。ただ、そこでペレスがミスをして、その後ろでアタックしていたフェルスタッペンにも影響を与えてしまいました。
予選後のペレスは『裕毅に近づきすぎてダウンフォースを失った』というコメントを報道で見ましたが、ペレスのオンボード映像を見る限り『それは違うな』と思いました。どちらかと言えば、ペレスには角田選手の姿が見えたけど、アタック中だったので気を取られてしまい、コーナーに入っていく最大のグリップを得なければいけないところで縁石と白線の路面ミューの低いところにわずかに乗ってしまい、リヤが滑ってしまったように見えました。
ですので、避けた角田選手がペレスの目に入って集中力を失ったといいますか、ラインが半分ずれてしまったように僕には見えたので、角田選手にまったく関係がないかと言われると、関係あるのかもしれないですが、ただ角田選手としてはやれることやったわけです。あえて言うなら、コーナーが連続するS字区間に入ると避ける場所がないので、少しペースを上げてS字を抜けた後に避けるよう、チームが角田選手に指示した方が良かったかもしれないですね。
角田選手としてはあの状況でできる最大限のことはやったと思うので、その後にいろいろ言うのは、単純にドライバーはそれぞれの立場で自分のミスと認めたくないので、何かのせいにしたがる、といった心理状態ですよね。ペレスは母国GPだったので、自分がミスしたことを何らかのせいにしたかった状況も多少、あったと思います。
そのペレスの後方のフェルスタッペンも、前を走る2台がコースオフしている状況では、当然、攻められる状況ではありません。アクセルを抜いてしまうのは仕方がないことですが、予選後にはレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表が結構、吠えていました。
やはりチームとしてメルセデスにフロントロウを取られてしまったので、チーム代表として自分たちのドライバーを守り、モチベーションを保たないといけないので、チームを守るために発した言葉だと思います。そういったチーム代表の言動というのは、今シーズンはホーナーだけでなく、メルセデスのトト・ウォルフ代表も同じように繰り広げています。
彼らは、見ている人たちをどう自分たちの味方にしていくかということを常に考えて行動しています。今回の件は一般のファンの人たちが少し反応しすぎていて、メディアもそれが分かっいて大事のように書き立てますが、その一連の流れがすべて織り込み済みのように思いましたね。F1ならではの話題の盛り上げといいますか、多くの一般の人へも注目をさせる報道という感じでした。
その後はSNSなどで『それは違うんじゃないか?』という角田選手を擁護するような意見が増えてきました。そうなるとチーム首脳たちはすぐに訂正や説明をするという、そのあたりもうまいですよね。どうしたら周りを味方にしていけるかという、今はドライバー以上にチーム代表の発言が注目されていて、彼らのひと言があれだけメディアに取り上げられる。チーム代表たちも、当然それを意識して話をしていると思います。代表たちは、自分たちの役割が終わったと思ったら『間違っていた』と認めてしまえばいいだけの話ですが、角田選手的には今回、そこに巻き込まれてしまったという感じですね。
そのメキシコGPのレースでは、スタートで3番グリッドのフェルスタッペンがメルセデス2台を抜いて圧勝しました。スタートしてから1コーナーまで若干距離があり、フェルスタッペンの蹴り出しもよく、その後に若干スリップストリームを使うことができて自分のクルマを加速させることができました。
メキシコGPの1コーナーは右左の連続コーナーになっているので、1コーナーでは外側が有利です。並走していけば外側が次のコーナーのイン側になるので、そういった意味ではフェルスタッペンは結構思い切って突っ込んでいけて、ブレーキングを遅らせることができる立場にいました。
1周目はタイヤも冷えていてブレーキもロックしやすいので、すごく難しかったと思いますが本当にうまいブレーキングで、ブレーキロックを寸前で抑えながら、インにつけるスピードではなかったですが、それでもなんとかコースに踏みとどまって首位をキープするというフェルスタッペンの気迫、集中力は見事でした。
メキシコに関しては、マシンもメルセデスよりレッドブル・ホンダの方がサーキットに合っていてパフォーマンスがよく見えましたね。メキシコは特に高地ということもあり、空気密度が低くなってダウンフォースが減るので、ダウンフォースの出方なども含めて、もともとハイダウンフォース仕様で走っているレッドブル・ホンダに分があるように見えます。メルセデスはローダウンフォース仕様のセットアップの方が合っている感じがします。
その一方、連戦となった第19戦ブラジルGPはハミルトンが大逆転で優勝しましたが、メルセデスのクルマの動きがそれまでと違ったように見えました。外から見ていても、走行ラインや走っている場所がなんとなく他チームとは違うということが見て取れました。一番『今回のメルセデスは違うな』と思ったのが、予選後のフェルスタッペンとのデータの比較を見たときです。ステアリングの切り方や舵角、修正の仕方などが全然違っていて、いつもと逆のように見えました。
今回はハミルトンがエンジン交換をして、ストレートでは新しいエンジンが強力で速くて当たり前、みたいな報道を目にしていて、その影響で予選でもタイム差を広げてポールポジションを獲ったという印象が強かったのですが、予選のデータを見ると小さいコーナーでもメルセデスは速かった。これまでの傾向から、マシンの回頭性は絶対的にレッドブルが良いはずですが、ブラジルではレッドブルよりメルセデスの方がステアリングの舵角が小さく、わずかに修正しながらコーナーに入っていました。
メルセデスは舵角が少ないうえによく曲がっている状況で、特に今回の予選に関してはかなりリヤを軽くして(リヤのダウンフォースを付けない方向で)走っていました。走行ラインも違っていて、その部分でクルマのセットアップのアプローチ方法を少し変えたのかなという風に見えました。
インテルラゴス・サーキットはバンクも結構付いているので、小さいコーナではバンクをうまく利用して走っているようにも見えましたし、新しくアプローチを変えたクルマのセットアップに、ハミルトンが短い時間のなかでドライビングを合わせこんできた結果、これまでと違ったラインでの走らせ方になっていたのかなとも思いました。