2021年シーズンで6年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。アメリカ大陸最後のレースとなった第19戦ブラジルGPでは、今季3回目のスプリント予選が行われた。過去2戦以上にタイヤ選択が別れたが、ハースはいい判断を下せたという。舞台となるインテルラゴス・サーキットの攻略は容易ではないが、ドライバーふたりはFP1から慌てずにしっかりと取り組めたとのことだ。
コラム第19回は、前編・後編の2本立てでお届け。前編となる今回は、ブラジルGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
────────────────────
2021年F1第19戦ブラジルGP
#9 ニキータ・マゼピン 予選20番手/スプリント予選20番手/決勝17位
#47 ミック・シューマッハー 予選19番手/スプリント予選19番手/決勝18位
メキシコGP終了後、ブラジルに向けて貨物を空輸で送るのですが、メキシコシティの悪天候のせいで輸送が遅れてしまいました。通常は火曜にはすべてガレージの設営を終えて、水曜の朝からメカニックはクルマの作業に入ります。エンジニアはフライアウェイの場合、水曜の朝からサーキットで仕事をするのが通常ですが、今回は連戦のため最初からオフィスの準備が整うのは水曜の午後だろうと予測していました。
しかし、今回はクルマなどを乗せた貨物が木曜日の午後2時までサーキットには到着しないという連絡を受けました。ウチを含めた4チームが同じ状況だったと思います。それでもウチのみんなは一致団結して、この酷い状況で本当に素晴らしい仕事をしてくれました。エンジニアの働くオフィスもなんと30分後の2時半にはほぼできあがっていましたし、メカニックたちは午後4時あたりにはクルマの作業を開始できました。
その後ももの凄い勢いでクルマを組み上げて、なんと貨物の紐をほどき始めてから7時間後の夜9時にはエンジンがかかりました。今回はフロントサスペンションも総取り換えだったのでさらに大変だったにもかかわらずです。
エンジンがけの目標は常にFP1開始の24時間前(ブラジルGPの場合は木曜日12時半)です。こういうタイミングで準備をしないと、エンジンをかけてもし問題があった場合に対応がおせおせになってしまうからです。しかし、今回はどうしようもありません。幸い夜9時にエンジンをかけて無事何も問題がなかったのでよかったです。
そしてその後はクルマのセットアップや車検など、普段木曜に終わらせるべき仕事をすべて通常のタイムリミットである夜中12時半までに終えました。ホントにこれはチーム一丸となってやった成果でとても嬉しかったです。レッドブルなどは水曜の時点でウチよりずっといい状況だったのに(クルマはもう水曜からあり、オフィスも木曜の朝一にはできていて、エンジンを待つのみだったと聞いていました)、彼らが終わった時間は日付が変わった金曜日の朝1時半だったようです。
さてブラジルGPでは今季3度目のスプリント予選が行われました。過去2戦のイギリス、イタリア以上にタイヤ戦略が別れる結果になりましたが、当時の状況を踏まえて振り返っていこうと思います。午後4時半に始まるスプリント予選では路面温度が30度台まで下がることが予測されていたので、最初からソフトタイヤでいけるかもしれないという可能性を考えていました。ですからFP2ではソフトで走り、スプリント予選よりも気温と路面温度が高い状況でタイヤがどれくらい持つのかをしっかりと試しました。その結果、これなら路面温度がぐっと下がるスプリント予選はソフトで行けると確信しました。
もちろんソフトを使う狙いはスタートと1周目のグリップの高さです。実際ミックのスタートはとてもよかったですし、1周目にはウイリアムズを攻められていたので狙い通りでした。しかし残念ながらここで彼らを抜く速さはなかったので、この唯一の機会を活かすことはできませんでした。
その後のタイヤのタレに関しては、路面温度が予想どおり下がったこともあり予測の範囲内だったので、いい判断を下せたと思います。過去のスプリント予選に比べて、タイヤ選択がこれまで以上に分かれたのは、やはりこの路面温度によるものだったのでしょうね。