2021年F1第18戦メキシコGP、第19戦ブラジルGP、第20戦カタールGPで各チームが走らせたマシンを、F1i.comの技術分野を担当するニコラス・カルペンティエルが観察、印象に残った点などについて解説する。今回は、カタールでレッドブルがメルセデスのウイングに対する抗議を行わなかった背景、RB16BがW12に速さで劣っていた理由について考察する。
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前戦カタールGPの週末、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表は、「メルセデスのリヤウイングは不正だ」として、提訴する考えを表明していた。だが最終的にレッドブルは、FIAへの提訴を見送った。なぜなのか。カタールの予選後にFIAが新たなたわみ試験を実施したことを受けて、メルセデスがより剛性の高いリヤウイングに付け替えたと、レッドブルは主張する。一方メルセデスは、使用しているのはブラジルと同じリヤウイングであり、やましいところは何もないと反論した。
ホーナー代表は「その証拠に彼らの最高速は、若干歯止めがかかった」と言う。実際、ブラジルとカタールでのメインストレートエンドでの最高速を比較すると、W12とRB16Bの速度差は、9.2km/hから3.4km/hに縮まっている。
では両サーキットの、すべてのストレートでのデータ比較ではどうか。イギリスのレースサイト『The Race』でのマーク・ヒューズ記者の考察を見てみよう。
ブラジルでのマックス・フェルスタッペンは、直線区間でハミルトンより0.23秒遅かった。これは両者のラップタイム差の52.5%にあたる。一方カタールでは、その差は0.25秒に広がっている(ラップタイム差では54.9%)。つまりホーナー代表の主張とは裏腹に、ブラジルよりカタールの方がメルセデスはストレートでより優位を築いていた。しかもハミルトンはカタールでは、ブラジルで投入した5基目エンジンではなく、古い4基目を使っていた。さらにホーナー代表の言い分によれば、リヤウイングもたわまないものを使っていたことになる。
なぜそんなことになったのか。考えられる理由のひとつは、レッドブル側にありそうだ。彼らはカタールの週末、リヤウイングに問題を抱え、フェルスタッペンとセルジオ・ペレス共に、より頑丈で、ハイダウンフォースのウイングに付け替えていたのだった。そのため直線速度が伸びなかったということだ。
ただしRB16Bがカタールで負けていたのは、ストレートだけではなかった。直線区間で0.25秒遅れをとった以外に、コーナー区間で0.205秒遅かったのだ。メルセデスに比べて、ハイダウンフォース仕様だったにもかかわらずである。
これについてはレッドブルマシンがフロントリミテッド、つまりフロントタイヤに負荷のかかりやすい特性だからという説明が、最も説得力がありそうだ。カタールは高速コーナーが連続するレイアウトで、レッドブルは他のマシンよりいっそう厳しく、左フロントタイヤの摩耗とオーバーヒートの両方の症状に見舞われたようだ。
今季のレッドブルはハンガリーとトルコでも、メルセデスに比べてマシンバランスの改善に手こずっていた。セッションごとに路面グリップが良くなっていったことは、レッドブルには逆効果となって、さらにフロントが厳しくなった。カタールでフェルスタッペンがハミルトンとなんとか互角に戦えたのは、中盤にハードタイヤに履き替えてからだった。
データを検証する限り、W12のリヤウイングの傷は、たわみによるものというより、単なる塗装の剥がれとか、そちらの可能性の方が高いのではないか。メルセデス自身、予選でのハミルトンの圧倒的な速さには、率直に驚いていた(トラックサイドエンジニアリングディレクターのアンドリュー・ショブリンは、「事前のシミュレーションでは、あれだけのタイム差が出るなどまったく想定外だった」と、予選後に語っている)。
ちなみにカタールでのレッドブル・ホンダは、対メルセデスだけでなく、他のチームに対しても速さを失っていた(メキシコでの0.655%が、ブラジル-カタールの連戦では0.519%に低下)。一方メルセデスは同じ比較で、0.693%から1.123%まで、その優位を広げているのである。