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F1 ニュース

投稿日: 2022.03.17 19:10
更新日: 2022.03.17 19:19

【中野信治のF1分析/開幕戦プレビュー】2022年マシンの難しさと見どころ。最大限の期待をしたい2年目の角田裕毅の成長

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F1 | 【中野信治のF1分析/開幕戦プレビュー】2022年マシンの難しさと見どころ。最大限の期待をしたい2年目の角田裕毅の成長

 新規定で見た目も中身も大きく変わった2022年シーズンのF1マシン。2回のテストを終えても各チームの新車の出来は読みにくい状況のまま、いよいよ今週末に開幕戦バーレーンGPを迎えることになった。日本期待の角田裕毅(アルファタウリ)の2年目の展望、そしてテストで見えた今季の戦いのポイントを、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でお届けします。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 まず2022年シーズンのF1はマシンのレギュレーションが大きく変更になりました。新しいマシンの印象としては、昨年ショーカーが発表されたときには、どちらかというと、これまでのF1とは違った意味で近未来的なマシンで新しいイメージでしたが、開幕前のバルセロナテスト、そして2回目のバーレーンテストで走行したマシンを見ていて、それこそ全体的な雰囲気として1980~90年代の前半ぐらいのクルマに戻ったような印象を受けました。低くて横幅が広く見える昔のF1のイメージですよね。

 もちろん、いろいろな部分では技術的に進化をしているし、細かいところの形状まですごく技が効いているのですが、パッと見はシンプルで無駄のない感じの印象で僕はすごく好きです。僕なんかはその1980~90年代の前半のF1マシンを見て憧れていた世代なので、そういった意味ではその頃に戻ったような錯覚をしてしまうような印象でした。フェラーリの赤と黒ベースのカラーリングもちょっと懐かしく、それこそ当時の記憶が蘇ってきます。当時はアイルトン・セナとアラン・プロストの時代で、それこそ自分がF1ドライバーになりたいと思う前に「かっこいいな」と憧れて見ていた時代のF1なので、あのころの映像や記憶がすごく蘇ってきました。

2022年F1バーレーンテスト1日目 カルロス・サインツ(フェラーリ)
2022年F1バーレーンテスト1日目 カルロス・サインツ(フェラーリ)

 そんな新世代のF1マシンですが、テストでは思っていたほどトラブルは少なかったと思います。ただ、今シーズン流行りになっている『グランドエフェクト(車体の下面と地面の間を流れる空気流の利用してダウンフォースを得ること。空気流が速ければ早いほど、車体上面との差が大きくなりダウンフォースが強くなる現象)』や『ポーパシング(ポーポインジング/バウンシング)現象』という言葉もあるように、新しくなったレギュレーションによって発生している症状に各チーム悩まされています。

『ポーパシング(ポーポインジング/バウンシング)』についてですが、僕が持っているイメージでは、グランドエフェクトカーはマシン下面に空気を通し、その空気の流れをいかに早くするかが重要です。空気の流れを速くするイコール空気の通る隙間を細くしないといけません(ベンチュリー効果)。その処理をすることで空気の流れが速くなり、空気の流れが速くなればなるほど負圧が発生するので、それを利用してマシンを下に押さえつけ、車体の上面と下面の圧力差で地面に押さえつけるようなイメージでダウンフォースを生み出すのが、いわゆる『グランドエフェクト・カー』です。

 ベンチュリー効果と言われる、空気のトンネルを作ってダウンフォースを生み出し、後ろにクルマを近づきやすくなることで接戦を増やすいうイメージで今年のレギュレーションは作られていますが、結局、今年のクルマはストレートで速度が上がると車体上面のダウンフォースが強くなって車高が下がり、もちろんチームもストレートでは車高は下げていきたいのでどんどんと車高が下がっていき、車高がある一定の限界を超えると、今度は車体下面が地面に付いて空気が流れなくなってしまいます。

 その瞬間、今度はダウンフォースがなくなってしまうのでフロントが少し浮き上がってしまいます。そこでフロントが浮き上がるとまた空気が入り込んでまたマシンが沈みます。それが繰り返えされることで、たとえばバンプで跳ね続けるような挙動が起こってしまい、いわゆるバウンシング、ポーパシング、ポーパシングの現象になってしまいます。

 今年のマシンはそのあたりの車高の管理が難しく、今年のレギュレーションでサスペンション自体も変更になっていて、イナーター(イナーシャダンパー/サードダンパー)も使えずシンプルな構造に変わっているので車高の管理がとてもしづらい状況です。そんな理由が重なり合うことでポーパシングのような症状を引き起こしています。

 テストで走行しているマシンを映像で見ていても、揺れていることが分かるかと思います。ドライバーのヘルメットも揺れていて前はきちんと見えているのだろうか、頭は痛くないのかなど、今年のマシンはいかにポーパシングと呼ばれるフロントのピッチングを抑え、車高をどう管理するかということがキーポイントになると思います。

 また、タイヤの18インチ化もドライバーにとっては車体のレギュレーション変更と同じくらい影響が大きいはずです。18インチ化に伴い、物理的に車体の四隅にあるタイヤとホイールが大きく重くなっています。ですので、ドライバーだけでなくレース中のタイヤ交換もメカニックは結構大変になると思いますし、ドライビング面では、タイヤマネジメントやデグラデーションという部分では、どこまでが18インチ化による原因なのか、それともマシンが原因なのかは各チームとも正直まだ掴めていないと思います。

 タイヤの使い方の部分に関してはまずは当然、これまでの13インチと比べると18インチになってタイヤのショルダー部分が薄くなっています。ショルダー部が薄くなることでタイヤのサイドウォールを動かし方、さらにタイヤのグリップの限界がまた違うところになってきます。タイヤのグリップの感じ方としては、以前のタイヤはサイドウォールが動き出しそうな先にもグリップがありましたが、今はその時差みたいなものがなく、サイドウォールがそれほど大きく動かず、その前に限界がきてしまいます。

 僕は実際に今のF1マシンに乗っていないのでグリップ自体が上がっているのか下がっているのかは分からないですが、ただ、他のカテゴリーでの経験や理論的に、ショルダー部が薄いタイヤはサイドウォールの動きが少ない分、今年のF1タイヤに関してもグリップの感じ方や限界は感じやすい気がしています。アクセルを踏んだときのリヤのナーバスさは変わらないと思いますが、その後のコントロールは意外としやすいはずです。

 あと、今年のマシンについては、メルセデスがロケット技術などを応用した『ゼロ・サイドポッド』を新しく投入してきたりして各チームの勢力図がまだ分からないですよね。それこそホンダも昨年は『ホンダジェット』の技術を取り入れていましたが、本当にモータースポーツの技術の多様性は今の時代に合っていると思います。ひとつの物事を追求したり形を作っていくうえで、それまで自分たちだけでやっていたことだけではなく、いろいろな分野の技術や考え方をうまく取り入れつつ、良いものを短い時間で作っていくという考え方に変わりつつあります。

 今年のメルセデスのサイドポッドが良いか悪いかというのは置いておいて、僕はこの多様性はすごく面白いなと思います。メルセデスのマシンのパフォーマンスについてルイス・ハミルトンのコメントは明るくないですが、これも例年のことと言えばそうですし(苦笑)、実際、どこまで爪を隠しているのか分かりません。いずれにしても、レギュレーションが変わってもクルマの大きな変化はないんじゃないかと思われていたなかで、蓋を開けてみるとメルセデスだけでなく、レッドブルなどの他チームも含めて、これだけ形が違ってきた。昨年以上にマシンが個性豊かですし、新鮮で面白いと感じます。

 そこにはひとつ要因があり、バジェットキャップ(予算制限)も大きいのですが、下位のチームほど風洞やウインドトンネルなどを使用して開発する時間を長くしてもらえるということもあり、昨年は下位で苦しんでいたチームも結構、冒険したようなフォルムのクルマを作っていたりしています。ただ、本当にどこが正解なのかというのがまだ見えていないことが、見ている側のワクワク感を高めてくれています。

 メルセデス自身も自分たちが今、どのポジションにいるかは正直、あまり良く分かっていないと思います。メルセデス陣営のコメントも昨年と同じくネガティブなので(苦笑)、昨年までの流れで言えば、もうここからシーズンは始まっているんだなと思います。

●開幕戦から表彰台を期待できる角田裕毅の2年目の進化。仕上がりの良さが伺えるアルファタウリ


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