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F1 ニュース

投稿日: 2022.03.24 21:35
更新日: 2022.03.25 15:50

【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第2回】成長したケビンが最高のカムバック。クルマの速さは本物

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F1 | 【F1チームの戦い方:小松礼雄コラム第2回】成長したケビンが最高のカムバック。クルマの速さは本物

 2022年シーズンで7年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。2回目のプレシーズンテストを前に、ニキータ・マゼピンの後任としてケビン・マグヌッセンがチームに復帰することが決まり、ハースは求めていた経験豊富なベテランドライバーとともにシーズンを戦えることになった。

 迎えた開幕戦では、そのマグヌッセンがトラブルを抱えながらもミスのない走りで予選Q3に進み速さを披露。決勝でも5位入賞を果たし、ハースに2シーズンぶりのポイントをもたらした。昨年シーズンを諦めてクルマの開発に力を注いだことが実を結んだ形だ。そんなバーレーンGPの現場の事情を小松エンジニアがお届けします。

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2022年F1第1戦バーレーンGP 
#47 ミック・シューマッハー 予選12番手/決勝11位
#20 ケビン・マグヌッセン 予選7番手/決勝5位

 タイミングとしては前回のコラムを書いた直後ということになるので少し遡りますが、ニキータの後任としてケビンがチームに戻ってきてくれました。チームとしてケビンを選んだのは、やはりF1経験があるということが一番です。ウチには基準になるドライバーが必要なので、F1でしっかりとしたレース経験があり、速さがあることをわかっているというのは必須でした。

 そしてケビンはチームのことをよく知っていますし、彼の性格的にもシンプルにレースで結果を出したいだけなので、今のチーム状態にはぴったりはまると思いました。なので、いろいろな面でうってつけです。チームの反応は大多数が驚くと同時に喜んでいました。昨年チームに加わったばかりでケビンを知らないメンバーのなかにはアントニオ・ジョビナッツィに来てほしいと思っていた人たちもいましたが、開幕戦の結果でなにも疑問がなくなりましたよね。

 その開幕戦を振り返っていこうと思います。まずは予選についてですが、僕たちはQ3を戦う想定で最初からプランを立てました。数値的にはQ1をソフトタイヤ1セットで通過できる予想だったのですが、大きなミスや黄旗でQ1敗退ということだけは避けたかったので2回走ることにしました。結果的にはケビンもミックも1度目のアタックのタイムで大丈夫でしたが、開幕戦なので慎重にQ1を通過することを優先しました。

 Q2では2アタックの予定でした。ミックは残念ながら2度目のアタックを上手くまとめられずに12番手でQ2敗退となりました。競争力のあるクルマで速いチームメイトと走るということは、それなりにプレッシャーになるので、今回はこれを上手く処理できなかった感じですね。ミックにとっては少なくともF1ではこれが初めての経験なので、この状況を自分のなかでどう消化して対応するのかというのが当面の課題になります。

ミック・シューマッハー(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP ミック・シューマッハー(ハース)

 一方のケビンは、非の打ち所のない予選をしてくれたと思います。油圧関連の問題があって、Q1の2回のアタックの間にもオイルを補給していたのですが、状況は悪化するばかりでした。Q2の1回目のアタックを終えた段階で、どう考えても走れるのはあと1周あるかないか。Q2でもう一度アタックをすれば、仮にQ3に進出できたとしても、まったく走れないことが予測されました。幸い1回目のタイムがよかったので、このタイムでQ2を通過する可能性にかけて、アタック後はガレージでセッションが終わるのを待ち、無事に7番手でQ2を通過しました。

 Q3では新品タイヤを2セット持っていたものの、この問題で1周走れるかどうかだったので、セッション終盤までガレージで待機。そして最後の1回のアタックにかけて、残り時間3分15秒になったところでケビンをコースに送り出しました。しかし心配していた通りアタックラップ中のターン8を通過したところでオイルレベルが完全に低下し、油圧も下がっていきました。油圧がある一定のレベル以下になればパワステもなくなりますし、ギヤボックスも壊れます。とにかく危険なのでアタックをいつやめさせるか、コーナー毎にランオフエリアの状況を頭に浮かべながらデータを見ていました。

 だからこそ最終コーナーを通過してくれた時はホントにホッとしました。とにかく壊れる寸前だったのでコントロールラインを通過してすぐに1コーナーでクルマを止めるように指示を出しました。最後のアタックではケビンもミラーでオイル漏れを見ており、リヤタイヤが滑っている感じもしたとのことです。こんな状況でしたが最高の仕事をしてくれたと思います。

 アタックの前にはパワステを突然失う可能性もあることを伝えましたが、彼は一言「わかった」と言ってまったく動揺もせずに出ていきました。予選後には「アタックさせてくれてありがとう!」なんて逆に感謝されましたが、僕は「いやいや、パワステがなくなるかもしれない危険な状態でこんなアタックをしてくれてこちらこそありがとう」って。ケビン本当に成長したなぁって思いました。予選結果は7番手だったわけですが、Q2のタイムを考えるとバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)を抑えて6番手も可能だったと思います。フェラーリ、レッドブル、メルセデスのビッグ3に次ぐ位置なのでとても嬉しかったです。

ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP ケビン・マグヌッセン(ハース)
ギュンター・シュタイナー代表&ケビン・マグヌッセン(ハース)
2022年F1第1戦バーレーンGP予選 7番グリッド獲得を喜ぶギュンター・シュタイナー代表&ケビン・マグヌッセン(ハース)

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