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F1 ニュース

投稿日: 2022.04.05 08:30
更新日: 2022.04.05 08:37

【中野信治のF1分析/第2戦】限界の先が難しい2022年F1マシンの特性。DRSゾーンを譲り合う奇妙で痺れる首位バトル

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F1 | 【中野信治のF1分析/第2戦】限界の先が難しい2022年F1マシンの特性。DRSゾーンを譲り合う奇妙で痺れる首位バトル

 新規定元年でマシンの見た目が大きく変わった2022年シーズンのF1がついに始まり、昨年までとは勢力図もレース展開も大きく変更。日本期待の角田裕毅(アルファタウリ)の2年目の活躍とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。今回は第2戦サウジアラビアGP。予選の大クラッシュ、そして決勝終盤の優勝争いが大きなトピックになりました。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 2022年F1第2戦サウジアラビアGPについてお伝えしたいと思いますが、今回はまず、予選Q1のターン10でミック・シューマッハー(ハース)が大きなクラッシュに見舞われました。ターン10まではS字コーナーが連続していて、どうしても手前のコーナーからスピードの乗せていきたいコーナーです。ですので、クルマがアンダーステア気味になってもこの連続コーナーでは縁石ギリギリを攻めなくてはいけません。

 クラッシュしてしまったシューマッハーのラップのデータも見ましたが、かなりプッシュしていました。その前のアタックラップよりも速いセクタータイムを刻んでいて、ターン9まではコンマ1~2秒ほど速く走り、本当にフルプッシュでクルマの限界ギリギリを使っていました。

 2022年のF1マシンは縁石に乗る角度や量を見誤ってしまうと、18インチタイヤの影響か、今年のクルマのサスペンションセットアップが硬いことが原因か、新レギュレーションによるグランドエフェクトによるエアロの影響なのかは分かりませんが、クルマのバランスの崩れ方がかなり大きいです。2021年までの『これくらいの縁石の乗り具合だったら大丈夫』という感覚とは、かなり状況が異なっています。

 シューマッハーのクラッシュは、明らかにフルプッシュでタイムを上げようとして攻めていました。そこで若干のアンダーステアを出してしまい、縁石に乗る角度が良くなく弾かれてしまった感じでした。最初にターン9でフロントが縁石に乗った瞬間に大きく姿勢を崩していたので、縁石に乗ったときのダウンフォースの抜け方、縁石でのクルマの反応が予想以上に大きかったのでしょう。そこでアンダーステアが出てターン10の縁石に乗った瞬間にウォールに向かってクルマが向きを変えてしまいました。

【動画】ミック・シューマッハーの予選のクラッシュシーンとその後のインタビュー

 他チームと比べてもハースのマシンは足(サスペンション)が硬く感じるので、余計に縁石に乗ったときの反応が大きかったのかなと思いますが、ただあの周のシューマッハーは本当にフルプッシュでした。セクタータイムやスロットルの踏み方が前のアタックラップよりも遥かに上がっていたので、トライした結果なので仕方がないことです。

 ターン10の縁石自体、多くのドライバーが乗りたくなる縁石ではあります。スピードを乗せていくためにはコースを目一杯使っていきたいので、縁石ギリギリまでをコースと考えてコーナーを抜けていきます。ですので、どのクルマも結構縁石に乗ってはいますが、かなり慎重に縁石を使っている感じに見えました。そういった意味では、予選で縁石をうまく使ったのがセルジオ・ペレス(レッドブル)でした。自信を持って走れているような縁石の使い方をしていましたね。

 サウジアラビアGPの予選ではレッドブルではペレスがマックス・フェルスタッペンの前に行き、メルセデスではジョージ・ラッセルがルイス・ハミルトンより上位につけました。これはマシンのセットアップ許容範囲やスイートスポットが狭くなっているという印象もありますが、ブレーキの使い方やステアリングの切り方を丁寧にできるドライバーの方がクルマの限界を引き出しやすいのだろうと感じます。

 2021年までのF1マシンだとそのクルマの限界の少し先を攻めて走るイメージでしたが、2022年のF1マシンは限界の向こう側まで行こうとした瞬間に、コントロールを失ってすべてが終わってしまうような印象です。たとえば昨年はフェルスタッペンやハミルトンが100パーセントを超えたところでタイムを出して競っていましたが、今年はそういったアタックの仕方だと逆にタイムが落ちてしまう印象で、チームメイト同士の差も特に予選のアタックの際にはクルマの限界に合わせて縮まる傾向が見られます。

 逆に言うとクルマの限界を超えて、その向こう側の絶妙なところを使うのがすごく難しい。そこは特殊な才能を持っていないと厳しいと感じるので、今年のクルマはそのような限界域に関しての変化が見られます。ですが、まだ新しいレギュレーションになったばかりなので、クルマのドライビングやセットアップが煮詰まっていない段階なので、そういった状況になっている点もあるかと思います。

 ただ、それを考えてもペレスの予選のアタックラップは素晴らしかったです。セクター1~2ではほぼフェルスタッペンと互角で、セクター3でペレスが上回りました。タイヤの使い方という部分では、セクター1~2を優しく乗っている分、セクター3でタイヤのグリップがまだ生きているペレスがフェルスタッペンを逆転しました。対してフェルスタッペンは逆にセクター1~2で向きを変えようとして早めにアクセルを踏んでリヤタイヤをいじめていたので、セクター3でペレスに負けてしまいました。予選ではペレスの良いところがすべて出たのかなと思います。

 ハミルトンとフェルスタッペンは予選で『タイヤがグリップしない』ということを言っていました。僕は実際に走っていないので本当のところは分かりませんが、限界を超えるためにはクルマにも自信を持って攻めないといけないので、アウトラップで『あれっ!?』というようなクルマの挙動を感じていて、ハミルトンも無線で訴えていましたが、その違和感を感じた瞬間、ドライバーはメンタルと技術のバランスが狂ってしまいます。

 特に今回のジェッダ・ストリート・サーキットは超高速コースでダウンフォースが少ないサーキットです。ダウンフォースが少ないセットアップなのでブレーキングも難しく、そのブレーキングで乱れてしまうとすべてが崩れてしまい、限界を超えると修正が効かずにすぐにサイドウォールにぶつかってしまうのでアタックが難しいサーキットでもあります。

 もうひとつ、今回のサウジアラビアGPではサーキット近郊の石油施設にミサイル攻撃が発生しました。そのことはドライバーの気持ちの面に影響があるのではという声も聞きますが、F1ドライバーにでもなれば、マシンに乗ってしまえば気にはならないと思います。今回の件はFIAとF1も『安全を保証できる』ということでドライバーとも協議のうえでスタートしてます。ドライバーも頭の中で整理をつけた状態でないと参戦していないと思うので、ミサイル攻撃はあまりレースに関係なかったかなと思います。

2022年F1第2戦サウジアラビアGP ジェッダ・サーキット近郊の石油施設がミサイル攻撃を受けて炎上
2022年F1第2戦サウジアラビアGP ジェッダ・サーキット近郊の石油施設がミサイル攻撃を受けて炎上

●DRSゾーンを譲り合いながら、ギリギリのオーバーテイクバトルを見せたフェルスタッペンとルクレール


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