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F1 ニュース

投稿日: 2022.05.01 12:54
更新日: 2022.05.01 13:06

【中野信治のF1分析/第4戦】低迷する7冠王者ハミルトンの苦悩。躍進角田の転換点とフェラーリの契約更新の目論み

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F1 | 【中野信治のF1分析/第4戦】低迷する7冠王者ハミルトンの苦悩。躍進角田の転換点とフェラーリの契約更新の目論み

 新規定元年でマシンの見た目が大きく変わった2022年シーズンのF1がついに始まり、昨年までとは勢力図もレース展開も大きく変更。日本期待の角田裕毅の2年目の活躍とともに、元F1ドライバーでホンダの若手育成を担当する中野信治氏が独自の視点でレースを振り返ります。今回は第4戦エミリア・ロマーニャGP。フェルスタッペンが今季2勝目を挙げたなかで、結果が出ずに苦しむハミルトン、そして大躍進した角田裕毅の姿が印象的でした。イモラ前に契約更新したサインツとフェラーリの裏読みも含めて今回、お届けします。

  ☆  ☆  ☆  ☆  ☆

 今シーズン初のスプリント方式で開催された2022年F1第4戦エミリア・ロマーニャGPですが、ドライとウェットの両方のコンディションが入り交じった週末になりました。まずドライコンディションでのレッドブルとフェラーリのクルマについてですが、見いていた感じとしてはフェラーリが意外にもスプリントレースの後半にタイヤのデグラデーションがレッドブルよりも大きくて、最後までタイヤが十分に持たないという結果になりました。

 フェラーリはそれまでのフリー走行を含めて、クルマの動きを見ていても決して悪くはありませんでした。ですので、今回はフェラーリが悪かったというよりも、レッドブルのクルマがすごく良かったなという印象です。レッドブルは詳細は分かりませんがマシンのアップデートをしてきているので、それがポジティブに働いているという部分があるかもしれません。

 それにイモラ・サーキットはそれこそオーストラリアに比べるとコーナーのRが大きくなく、ステアリングの舵角も少ないですし、ステアリングを切っている時間も短いこともレッドブルのマシンに向いているかなと思います。同じ低速のコーナーでも、Rの小さい、ブレーキングをして一気に向きを変えてコーナーに入っていく場所が多いコースになるとレッドブルの方が良いのかなと思いました。

 第2戦のサウジアラビアでもそうでしたが、Rの小さなコースではレッドブルとフェラーリの差が縮まって互角に戦うイメージがあります。ステアリングを切っている時間を短くして走らせたいというマックス・フェルスタッペン(レッドブル)の走らせ方もありますし、レッドブルのマシンコンセプトもそのような感じに見えるので、それが今回はピタッと合ったのだと思います。

 レッドブルのアップデートにはマシンの軽量化が含まれているということでしたが、どこをどういじって軽量化したのかが分かりません。おそらく単純な軽量化、単にクルマが軽くなったから速くなるかと言われるとそうではないので、軽量化をする過程で何かをしているのだと思います。

 その軽量化も今回有利に働いたということと、何よりコース特性がレッドブルに合っていたということ。それがここまでの4レースで違うタイプのサーキットを走行してきましたが、レッドブルとフェラーリのマシンの好き嫌いが何となく分かってきて腑に落ちました。イモラではアルファタウリも速さを見せていたので、レッドブルとアルファタウリは似たようなアプローチでマシンを作っているように思いました。

 その一方で、そろそろ復活してくるだろうと思っていたメルセデスが今まで以上に苦戦していたのも今回の大きな出来事でした。ウエットコンディションで濡れている路面ではすごく乗りにくいということは初日から見て取れました。特にそういった状況下で、ルイス・ハミルトン(メルセデス)の走りの雰囲気や無線でのコメントを聞いていると『自分で何とかしよう』『この状況でクルマを乗りこなそう』というような意欲が、同じクルマに乗っているチームメイトのジョージ・ラッセルに比べると少し低いように感じました。もちろんメルセデスのマシンも良くないですが、モチベーションが下がっている雰囲気をハミルトンからは感じ取れました。

 それはレース中の姿からも感じられました。後方から追い上げる展開で昔のハミルトンならもっとガツガツとオーバーテイクに行っていたと思いますが、今回は前のマシンをどかしてでも追い抜くという気迫は感じられませんでした。今の段階だけで評価することはできませんが、ハミルトンは自分の思いどおりにならない今年のクルマを頑張って良くしようとしていますが、開幕戦からの流れをみても、ラッセルが自分以上に良い走りを見せて全レースでポイントを獲得しています。ハミルトンは結果が出ないプレッシャーのなかで、ラッセルに勝てない言い訳、苛立ちみたいなものが走りにも出てしまっています。単にクルマがというよりも、ラッセルに対する見えないプレッシャーによってハミルトンは少し乱れている印象があります。

 経験を積んだベテランになると周りが広く見える一方で、自分自分のモチベーションを維持することが難しくなります。ハミルトンは7度も世界チャンピオンに輝いて、どのドライバーよりも多くのものを手にしてきました。そのハミルトンが今は本当に厳しく、今回のレースでは去年タイトル争いでシノギを削ったフェルスタッペンに周回遅れにされてしまうという衝撃的なシーンも起きてしまいました。そういった状況のなかでこれまでと同じモチベーションを維持できるかと言うと、それは実際は難しいことだと思います。

 クルマの方では、今回の予選で10年ぶりにメルセデスの2台がQ3に進出することができないという出来事がありました。予選に関してはアタックするタイミングなどいろいろな要因があるかと思いますが、メルセデスはポーパシング(バウンシング)が大きく、クルマのセットアップを柔らかめにするか硬めにするかということで迷っていたように見えました。ウエットであれだけ乗りにくそうだったので最終的に硬めでセットアップしたのだと思いますが、それが濡れた路面にイマイチ良い方向に行っていませんでした。

 ウエットでの速さ/遅さはマシンのセットアップを硬めにしているか柔らかめにしているかで何となく見ることができます。ポーパシングに対する処理の仕方を、クルマ(のサスペンション/足まわり)を柔らかくすることで対処しているのか、クルマを硬くして対処しているのかですごく差が出ます。

 今回のメルセデスはマシンが硬いので、ウエットの滑りやすい路面に対して神経質なマシンがさらに神経質になってしまい、アタックするタイミングも悪かったのだと思いますが、コース上に留まっているのがやっとな雰囲気で、本当にどうにもならないような感じでした。

 メルセデスはアップデートも導入したいのだと思いますが、中途半端なアップデートを入れたところでマシンは大きくは変わらないということが見えているのでしょう。さらにバジェットキャップ(予算制限)もあるので、中途半端なアップデートはしたくない。今のメルセデスがフェラーリとレッドブルの上に行くとなると、少しのアップデートでは差を詰めることができません。ですのでクルマのアップデートというよりも、大げさに言うと一から作り変える必要があると思うので、大きくマシンコンセプトを変える決断をどのタイミングでするかを考えているのだと思います。

 これまでも伝えてきましたが、今年のマシンはセットアップのスイートスポットが狭いので、どのマシンもサーキットによって合う/合わないということが起こります。オーストラリアではあれだけ速かったフェラーリが、今回のイモラではタイヤが保たないということもあるわけです。それだけシビアで難しい戦いですが、メルセデスはまだそのフェラーリやレッドブルと同じ段階まで来ていません。スイートスポット云々ではなく、その外側にいる、かなり厳しい状況です。

 見ている側もチャンピオンチームがここまで苦戦を強いられると辛いものがあり、このまま行くとチャンピオンになる前の昔のハミルトンに戻ってしまうような気がします。いろいろと言いたいことを抑えつつ、レース後にもトト・ウォルフ代表から『クルマが悪くてごめん』という謝罪をされていることからも、すべてに苦しんでいることが伝わってきました。

2022年F1第4戦エミリア・ロマーニャGP
マシンの不調と相まって、いつものアグレッシブさが見られないハミルトン

●雨上がりで乾きはじめた路面での今年のレースのポイントと難しさ。角田裕毅の真骨頂


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