5月28日に決勝レースが行われた第101回インディアナポリス500で日本人初の優勝を飾った佐藤琢磨と、1990年代に何度もインディ500へ挑戦した松田秀士がスペシャル対談を行った。
この対談は7月7日に発売される『佐藤琢磨 勝利への道』の企画のひとつとして行われたもの。ここでは、オーバルレースの特殊さを語った対談内容の一部をお届けする。
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松田秀士:8年前に初めてインディカー、特にオーバルに特化したときに、初めて走ったコースはどこでしたか。
佐藤琢磨:カンザスだったと思います。
松田:どう感じましたか。
琢磨:もう『すごいな』と思いましたね。350㎞/hくらいでアクセル全開のままバンクに飛び込んでいくというセンセーショナルな感覚はF1でもなかったし、今まで乗ったどのマシンにもないスピード感だし、本当にすごかったんですよ。
またちょっと怖さもありました。というのは、クルマを感じ取れなかったんです。オーバルは初体験だったので、アンダーステアもオーバーステアも分からなかったし、特にヘッドパッドに頭を預けて走るという経験がなかったので。それをやると、クルマの感覚が半分くらい消えてしまうんですよ。かといって、首を立てられるようなGフォースじゃなくて。パットがなかったら数周が限界ですよね。
それで、少ない情報量で少しずつクルマを感じることに慣れていくしかないんです。でもそこで難しいのが、ロードコースのように“リヤが出たから、カウンターを切ってクルマの姿勢も修正していこう”ってできないじゃないですか。オーバルでリヤが出ると修正は本当に大変だし、大抵の場合はその一瞬でスピンして壁にいってしまう。
だからその感覚を掴むまで相当時間がかかりましたね。しかもそれは単独で走っている時の話で、ここにトラフィックが入ってきて、タービュランスが出てきたら、2倍も3倍も難しくなる。オーバルは攻略するのにものすごく時間がかかりましたね。
松田:オーバルをモノにした、と感じられたのはいつぐらいですか。
琢磨:結局まだモノにできていないと思います。でも今回のインディ500優勝でひとつ制したな、という感じはありますよね。オーバルの初優勝でしたから。ただそれまでも、アイオワ(2011年)でポールポジションだとか『オーバルで最速というのは、こういう感覚なんだ』というのは知っていた。オーバルは新たに学ぶことがたくさんあるけど、最終的には4つのタイヤをどう使うか、という意味では一緒なわけです。
空気の流れを感じ取りながら、2台、時には3台以上が横並びになってハイスピードバトルを繰り広げていく。それは楽しかった。すごく楽しいと感じたのが最初のオーバルのレースだった。
それこそカンザスでは、残念ながら(武藤)英紀と当たっちゃいましたけど。あのレースは彼とふたりで5位、6位だったのかな、オーバルデビューの時から、けっこうな手応えは感じていました。シーズン100%はさすがにメンタル的にキツいと思うけれど、年に6戦くらいだと、すごくワクワクできましたね。