元F1空力スペシャリストで、ワース・リサーチの創設者であるニック・ワースが、オーストラリア最高峰RSCレプコ・スーパーカー・チャンピオンシップで2018年から導入された“Gen2”規定『ホールデン・コモドアZB』の開発に深く関与していた事実に際し、ホモロゲーション登録作業の承認で「抜け穴を活用した」と発言したことが、豪州現地のパドックや関係者内で波紋を拡げている。

■ダウンフォースが測定基準値の2.5倍に

 フォード・マスタング、シボレー・カマロ、そして2026年新規参戦トヨタGRスープラ・スーパーカーの3車種が集う“Gen3”新時代を控える同シリーズだが、その前夜となる旧規定時代に名門トリプルエイト・レースエンジニアリング(T8)から空力開発を依頼されたワースは、今回『The Hard Compound』のYouTubeチャンネル内で当時の真相を明かし「ホモロゲーション手続き中にダウンフォースレベルの増加を隠すシステムを利用した」と述べ物議を醸している。

「おそらく、この話を聞いて不快に思う人もいるだろう。なぜなら、我々がいかにルールを悪用して規定の抜け穴を突いたかを、皆に話すつもりだからだ」と明かしたワース。

「トリプルエイトから、オーストラリアのスーパーカーにおけるロジャー・ペンスキーとフォード(ディック・ジョンソン・レーシング/DJR)の台頭を喰い止めるために声を掛けられた。面白かったのは、いかにして大きな前進を遂げたマシンを作るかということだった。そして私にはアイデアがあった。というのも、彼ら(シリーズ技術部門)がマシンの性能を検証する方法には欠陥があり、それがホールデンにとって壊滅的な影響を与えていたからね」

 現在はアメリカ・ノースカロライナ州コンコードで稼働する世界最大級の風洞設備『ウインドシア』にて、性能均衡化策となる風洞テストを実施しているRSCだが、当時はオーストラリア国内に点在する飛行場の滑走路で一定速のもとダウンフォースとドラッグを計測するストレートラインテストを実施。この『VCAT(車両制御空気力学試験)』を経て、開幕前に車両ホモロゲーション認証のプロセスを進めていた。

ニック・ワースは、旧規定時代に名門トリプルエイト・レースエンジニアリング(T8)から『ホールデン・コモドアZB』の空力開発を依頼された
2018年はDJRチーム・ペンスキーの『フォード・ファルコンFG-X』(2列目)との対決構図だった

 そんななかワースが用いたカラクリは、コモドアZBのダウンフォースレベルを隠すため、ホモロゲーションプロセスでのみ使用するブレーキダクトを用意。その後、ダクトをレース仕様に換装するとマシンは空港の滑走路テストより大きなダウンフォースを発生するというものだった。

「彼ら(スーパーカー)はひとつミスを犯した。それは独自のブレーキダクトを使用していたことだ。それは実際レースのボディワークで使用していたブレーキダクトとは異なっていた。だから私は『これはチャンスだ』と考えたんだ」と続けるワース。

 これまでF1時代からCFD(流体解析)を活用した空力開発で名を馳せてきたワースは、1990年代初頭にマーチで働き、その後シムテックを設立。F1キャリア晩年ではマノー/ヴァージンとの契約騒動で物議を醸しながら、北米ではアンドレッティ・オートスポートのインディカーやフォーミュラEのプログラムに協力し、プロトタイプではアキュラのLMPも製作した。

「我々が行ったのは、当然CFDプログラムを実行することだった。あらゆる作業において、彼らが車両の計測に使用したブレーキダクトとロードセル(荷重変換器センサー)のモデルを構築し、それらのCFDモデルと実際のブレーキ冷却システムを装着したボディワークのCFDモデルを用意した」

「これにより、標準的な負荷計測用のブレーキダクトと、レースシステム仕様を採用した場合の性能差が大きくなる要因を探し出す技術を手に入れたんだ」

 結果、ワースは実際のダウンフォースレベルはホモロゲーション時に計測されたレベルと比較して「2.5倍」だったと告白し、当時T8にはその事実を伝えていなかったことも明かした。

「彼らがそれを取り外し本物のアイテムを装着した途端、ダウンフォースは文字どおり測定基準値の2.5倍になった。我々は彼ら独自の計測システムを活用し、ライバルに打ち勝つ技術を開発することでこれを実現したんだ」

「トリプルエイトのドライバーたちが初めて我々のクルマをドライブした際、彼らは『このクルマはホモロゲーションに合格するはずがない』と言った。『あり得ない。ただ、地面に張り付いている』ってね(笑)」

「ちょっとした冗談だが、スーパーカーの関係者の中には、この話を聞いたら少し歯ぎしりをする人もいるかもしれない。なぜなら、私はこれまで誰にもこの話をしたことがなかったからね。もちろん、トリプルエイトにもこの話をしたことはないよ」

F1時代からCFD(流体解析)を活用した空力開発で名を馳せてきたニック・ワース
「標準的な負荷計測用のブレーキダクトと、レースシステム仕様を採用した場合の性能差が大きくなる要因を探し出す技術を手に入れた」とワース

■トリプルエイトが声明を発表。「チームにとって非常に不快なもの」

 このワースの発言は、当時エースとしてコモドアZBをドライブしていた現T8代表ジェイミー・ウインカップの怒りを買い、シリーズ“7冠”の元王者は「今後、ワースがスーパーカーのピットレーンで作業をすることを二度と許すべきではない」と述べた。

 その2018年は自身の後継者的な立場として台頭してきた“SVG”ことシェーン-ヴァン・ギスバーゲンとチームメイトを組んたウインカップだが、戦績としてはT8がチームタイトルを獲得したものの、当時DJRチーム・ペンスキーの次世代エースに抜擢された現インディカーレギュラー、スコット・マクラフランに敗れ、ドライバーズチャンピオンシップでそれぞれ2位と3位に終わっていた。

 ウインカップとT8の共同声明の書き出しには『今週、ト​​リプルエイトが過去に利用していたサプライヤーが、長年行ってきた作業についてコメントし、地元メディアはチームにコメントや裏付けとなる証拠を提供する機会を与えることなく、無謀にもその件について報道しました』と記された。

『これらのコメントはチームにとって非常に不快なものであり、誤って解釈された場合、チームにとって非常に重要な私たちの誠実さに疑問が生じる可能性があることに深く失望しています』

『トリプルエイトはつねにスーパーカーのテストプロセスを尊重し、統括団体と協力して技術的な均衡を達成するために最善を尽くしてきました。これに反する人物や企業とは一切関係を持ちません。ニック・ワースがポッドキャストで述べていることが正しいとすれば、彼は二度とスーパーカーのピットレーンで働くことを歓迎されるべきではありません』

『トリプルエイトの懸命に働くスタッフとファンの皆さまへの敬意から、この状況に率直に向き合うことが重要です。私たちは、今季2026年だけでなくこの先の未来もレースに参戦し、皆さまに生涯忘れられない思い出をお届けすることに集中していきます』

当時、具現化はしなかったが後半戦に向けV6直噴ターボへの換装計画(左下)も進んでいた
エースを務めたジェイミー・ウインカップ(左)と、ワース・リサーチとの協業を主導した当時のT8責任者であるローランド・デーン

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