モータースポーツの魅力といえば、ふたつの側面が挙げられる。
ひとつはドライバー同士の戦いだ。これは他のどのスポーツにも当てはまることだが、多くのファンがお気に入りの選手(ドライバー)を応援し、大いに盛り上がる。
もうひとつの魅力は、テクノロジー面での戦いだ。これはモータースポーツという競技における大きな特徴であり、この要素に魅了されるファンも少なくない。
F1世界選手権やWEC世界耐久選手権、WRC世界ラリー選手権などでは、モータースポーツという世界をある種の実験室として扱い、自動車メーカーが最先端の技術を研究・開発し、競い合っている。
そして、競技の現場で試され、培われた技術は、往々にして市販車を作り出す人間たちにとっても非常に役立ち、その一部は我々の日常生活にもフィードバックされている。
当然ながら、新しい技術を開発する際には常に未知の手法を試すことで発生するリスクを覚悟しなければならない。競技を続行できなくなったマシンはコース上で立ち往生するほかないという、モータースポーツの世界と同様に、テクノロジーの開発には、それ相応の代償を払わなければならないこともある。
実際のレースの世界では年を追うごとに競技車両の信頼性も高くなってきているとはいえ、研究開発にリスクはつきものであることは間違いない。
■ワンメイクで“実験”はされない
ここまでの話で認識していただけたと思うが、今日のFIA-F2選手権やFIA-F3選手権といった、マシンの開発競争が存在しないワンメイクシリーズにおいては、技術的な問題から生じるリスクは、エントラントにとってとても受け入れられるものではないのだ。
F3というカテゴリーでは、昨年まではシャシー(現実はダラーラシャシーのワンメイク状態ではあったが)、エンジンともにある程度、技術開発の余地は残されていたため、開発競争は存在していた。ところが今年から、F2と同様シャシー、エンジンが統一され、ワンメイクシリーズとなった。
まさにそのF2が昨年、マシンを一新している。ダラーラのシャシーにメカクロームのエンジンを搭載した新車が投入されたが、その信頼性が問題となったことは記憶に新しい。
堅実なエンジンを、等しく全員に供給することだけが求められている状況で、信頼性という点で妥協が許されるなどと誰が考えるのか。
グリッド上から動き出すことができず、何台ものマシンが止まったままになるという、スタート時において最も危険な状況を回避するために、スプリントレースであるにもかかわらずローリングスタートが導入されるようになって以降、昨年のF2のパドックでは論争が絶えなかった。
原因はエンジンとクラッチにあるということが明確でありながら、何度もレースの展開・結果が左右された。
さまざまな要素が絡み合った結果、信頼性に問題が生じたのかもしれないが、重要なポイントはふたつある。ひとつは市場が求める製品を作り出すうえで、必要とされる技術的な知識が不足していたこと。もうひとつはできる限りコストを抑えようとしたことだ。
ここで注目すべきは後者だ。というのも、独占供給する当事者は1ドルでも節約できれば、その浮いたコストがそのまま自らの儲けになるということを認識しているのだ。
無論、信頼性については細心の注意を払ったはずだが、顧客(チーム)に供給する製品としてふさわしいかどうか、ベンチテストとその後のコース上で実際に走らせてみる実践テストのプログラムを怠ったのかもしれない。
新規プロジェクトに投じる資金を節約しようとする場合、既存のもの全体、あるいはその一部を再利用したり、テストを省略したりする手法が考えられる。
いずれにしても、シーズン最初のテストでドライバーが実際にサーキットでマシンを走らせてみれば、欠陥が露わになる。
ときには初めて気温の高い状況で走行した際に問題が発生することもある。そのケースにおける理由は単純。気温が上がった状況でのテストを怠ったのだ。