インディカー・シリーズのレースは距離が長く、作戦がものを言うケースが少なくない。ピットで陣頭指揮を採る人=ストラテジストの重要性は極めて高い。
今年の場合、チーム・ペンスキーのジョセフ・ニューガーデンが二度も作戦の良さで勝利を手に入れている。
デトロイトではウエットタイヤが有利になるタイミングを見事に読んだ結果、ニューガーデンをトップに立たせることに成功。テキサスの勝利も同様で、トップを走って逃げる力のない中、燃費セーブを行わなくても戦えるよう上位陣とピットタイミングを変えたのが正解だった。
ニューガーデンのピットで作戦をコールしているのはティム・シンドリック。チーム・オーナーはロジャー・ペンスキーで、彼はチームの社長だ。前職はチーム・レイホールのマネジャー。
2回も作戦勝ちを収めたことで、作戦が“キレッキレッ” と思う人もいるだろうが、毎回作戦がパーフェクトで……というワケではない。今年は打率が高い、というだけだ。
「ロジャー(・ペンスキー)はウィル・パワーのレースをコールしているので、どっちが勝つかいつも張り合っている」とシンドリックは話しているが、彼はチームを司る社長の立場で、「3人のうちの誰かで勝ちたい」という発想をするようだ。
自分の担当以外がレースをリードしているような展開だと、敢えて自分の担当ドライバーにギャンプル的な作戦を採らせる。
つまりは、“自分の担当ドライバーを何としても勝たせたい!”とは考えないワケで、かつてシンドリックが担当していたパワーはそれが嫌だった。
ペンスキー御大がシンドリックと勝負を楽しんでいるとしたら、それは少々無邪気に過ぎる。シンドリックにはオーナーと真っ向勝負をする気など、最初からサラサラなく、雇われの身である彼にとっては、3人いるレギュラーのうちの誰かで勝つことの方が断然重要。チームとしての勝利数が増えれば世間の評価が上がるのだから仕方がない。
シンドリックの呪縛から離れ、オーナーのペンスキーにピットを仕切ってもらえることとなったパワーだが、ペンスキーのエースとして正当に扱ってもらえてはいないところが悲しい。
インディカーGPとインディ500でのペンスキーはエリオ・カストロネベスを担当するからで、パワーにはパートタイマーが充てがわれる。そのひとりであるジョン・ブースログとのコンビでパワーは念願のインディ500優勝を果たした。
しかし、今年の彼はブースログに担当をしてもらえていなかった。パワー、チーム・ペンスキーに正しく評価されていないのだろうか?
今シーズン、チーム・オーナーでストラテジストをしているのは、ブライアン・ハータ=マルコ・アンドレッティ担当、デイル・コイン=セバスチャン・ブルデー担当、チップ・ガナッシ=フェリックス・ローゼンクヴィスト担当、マイケル・シャンク=ジャック・ハーベイ担当といったところ。
アンドレッティ・オートスポートのライアン・ハンター-レイのケースのように、エンジニアがストラテジストを兼務するところもある。そのエンジニアは、武藤英紀を担当していたレイ・ガスリンだ。