8月31日にベルギーのスパ・フランコルシャンで行なわれたFIA-F2第8戦レース1でBWTアーデンに所属する22歳のフランス人ドライバー、アントワーヌ・ユベールが大クラッシュに巻き込まれ命を落とした。
世界中が凍りついた衝撃的なクラッシュに関して、FIAは「詳細を調査中」としているが、9月6日(金)に発売される『オートスポーツNo.1514』ではこの事故に関して各方面へ取材を敢行。あの痛ましい事故はなぜ起こってしまったのか。“3秒間”に起きた悲劇の全容が見えてきた。
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一連のアクシデントによる戦慄のクラッシュは、ユベールの命を奪うという悲惨な結果を生んだ。モータースポーツだけでなく人生のなかでもよくあることだが、アクシデントの要因とはひとつに限られるものではなく、不運な出来事の連続が今回の信じがたいクラッシュを招いた。
スパ・フランコルシャンのレースではそのトラックの性質上、スタート直後の1コーナー=鋭角なラソースヘアピンでよく接触が起きる。
この日もチャンピオンシップ争いを繰り広げるニコラス・ラティフィのマシンは、気持ちが高ぶっていたミック・シューマッハーとの接触で右リヤタイヤがパンクし、直後にスローダウンした。
さらにグリッド後方では、数台のマシンのパーツを破損させる小さなインシデントも生じていた。
こうした状況に気づかなかったドライバーたちはフルスピードで走り続けた。2周目に入るとトライデント所属のフランス人ドライバー、ジュリアーノ・アレジがラディオンへの進入時に左リヤタイヤの内圧をすべて失い、コース左側に向かってスピンを喫してウォールに激突。
その際、リヤウイングとシャシーのパーツが破損し、コース上には破片が飛び散った。さらにアレジのマシンは後続車よりもはるかに遅いスピードでコース中央へと押し戻された。
破片が散乱する様子に気づいたアレジのチームメイト、ラルフ・ボシュンは自らのマシンを大幅にスローダウンさせて可能な限りコースの右側へと寄せざるを得ず、結果的にはその動きが後続のユベールを不意に襲う形となった。
2台のマシンのスピード差があまりにも大きかったため、その時点でユベールにできることはステアリングを右に鋭く切ることだけだったが、この必死な操作も虚しくボシュンのマシンの右リヤにわずかに接触した。
およそ250km/hで走行していたユベールは、このわずかな接触によってコース外へと押し出され、ラディオンの右側のタイヤバリアに激しく、だがその時点では死には至らないほどの勢いで激突した。
不運だったのは、タイヤバリアに弾かれたユベールのマシンが衝突の反動でコースへと押し戻され、そこに後方から来たファン・マヌエル・コレアがユベールのマシン側面に激しく突っ込んだことだった。
このアメリカ人ドライバーのマシンもまた、ラディオンコーナー入口に残っていたアレジのマシンの破片によってパンクしていたため、この時点ではすでにマシンを制御できない状況にあったのだ。
コレアはユベールのマシンが目の前に現れたとき、フルブレーキングによって回避を試みたが、その時点の車速は200km/h以上。衝突までの距離はおよそ50mしか残されておらず、回避する術もなく、フランス人ドライバーのマシンのコックピット左側面に激突し、ユベールのモノコックが真っ二つに分断されるほどの大クラッシュとなった。
衝突のあとコレアとユベールの2台の車両はもつれるようにタイヤバリアに突っ込み、コースの中央まで弾き返された。コレアのマシンがひっくり返る一方、ユベールのモノコックはドライバーの胴体が見えるほど滅茶苦茶に破壊された。これら一連の衝突はわずか3秒以内に起きた出来事だった。
他のドライバーが接触した2台とコース上に散乱していた破損パーツを無事に避けることができたのは奇跡的だったと言うほかない。
レースはすぐに赤旗が宣言され、全車がピットに戻った。このとき確認できたのは、ほとんどのマシンに小さなパーツの破片の当たった形跡があったことだ。だが、マシンに大きなダメージを与えるほどではなかったのは幸運だったと言える。
つまり今回のアクシデントは、
1:パンクによってアレジのマシンがタイヤバリアに激突。
2:コース中央にゆっくり押し戻されたアレジ車を見たボシュンがそれを回避するアクションを取った。
3:その後方にいたユベールは不意を突かれ、ボシュンのマシン右リヤに接触し、制御不能のままウォールに向かって突進。
4:そのすぐ後方からパンクチャーを起こしてステアリングが切れなかったコレアが接近。
5:コレアの走行ライン上にユベールが跳ね返ってきたことで激しい衝突が発生した。
“パーフェクトストーム(=複数の厄災が起こって破滅的な状態になること)”という言葉は、まさにこのようなときに用いられる言葉だ。先週の土曜日、スパ・フランコルシャンでアントワーヌ・ユベールに悲劇的な死をもたらした状況を表すのに最適な表現となっているのは何とも不運としか言いようがない。