スペイン・バルセロナで2019年9月19~22日に開催されたユーロフォーミュラ・オープン(EFO)第8大会、佐藤万璃音(モトパーク)は決勝レース1で10位に終わったものの3レースを残してドライバーズチャンピオンを決めた。
ヨーロッパのジュニア・フォーミュラで日本人ドライバーが年間王座を獲得するのは、2005年フォーミュラ・ルノーでユーロ・カップとイタリアの両シリーズを制した小林可夢偉以来のこと。
さらに旧F3規格のシリーズに絞れば、2001年イギリスF3で年間王座を獲得した佐藤琢磨以来となる。戴冠直後の佐藤に現地バルセロナでチャンピオン獲得までの道のり、そして将来の展望を聞いた。
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――2019年に向けて、当初はモトパークとFIA-F3選手権へ参戦予定でしたが、チームのエントリーが却下され、DTMドイツツーリングカー選手権と併催される予定だったFEMフォーミュラ・ヨーロピアン・マスターズ(旧FIAヨーロピアンF3選手権)への参戦を決めました。しかし、FEMはシーズン開始を待たずに消滅。最終的にEFOへの参戦へと至りましたが、どのような気持ちで過ごしていましたか?
佐藤万璃音(以下、万璃音):「FIA-F3参戦がなくなり、FEM参戦もなくなったのかと思っただけで、不安が先に立ったわけでもなく、『じゃあ、どのシリーズに参戦するのかな?』と思いましたね」
――EFOはクルマの基本構造こそ昨年までのユーロF3と同じとはいえ、エアロもタイヤも異なります。フランス・ポールリカールの開幕大会直前のプライベート・テストから、決していい滑り出しでもありませんでした。
万璃音:「決勝レース1はクルマの不具合もあり結果はよくなかったけれど、決勝レース2は順調に物事が進んで勝てました。ユーロF3で履いていたハンコックタイヤより、EFOで履くミシュランタイヤのほうが自分に合っていると感じましたね。チームのエンジニアリングも、つねにいい方向へ動いていたと思います」
――続く第2大会のフランス・ポーは雨に見舞われました。
万璃音:「決勝レース1は最低限の目標だった表彰台に立てました。決勝レース2はスタート直前に雨が降り始めてチームのタイヤ交換に関する判断は難しかったと思うし、あとになって分かったこととはいえ、エンジンに不具合の予兆もありました」
万璃音:「順調な週末ではなかったし難しい週末でしたね。しかも、ポーでは同じモトパークのリアム(ローソン)も(角田)裕毅もジュリアン(ハンゼス)も速かった。チームメイトと比較して出遅れた感じはありましたけど、2レースとも最低限のポイントを手にできたことは長い目で見ると大きかったですね」
――ドイツ・ホッケンハイムの第3大会では素晴らしいパフォーマンスでした。
万璃音:「決勝レース1はポール・トゥ・ウイン。決勝レース2はポールポジションからのスタートながら、一瞬の気の緩みで裕毅に抜かれてしまいました。でも、チャンピオンシップで競っている3人のなかでは、もっともトラックエンジニアとのコミュニケーションがうまくいっていたし、苦手なホッケンハイムで2レースともポールポジションを取れたことは、自分のなかではけっこう大きかった」
――角田選手やローソン選手に比べて、佐藤選手はF3で2年間のアドバンテージがあるから、やはりふたりには負けられないと?
万璃音:「周りからは“佐藤は勝って当たり前”と見られるだろうし、それは普通の感覚だと思います。それがプレッシャーになりはしないけれど、ふたりには勝たないといけないと多少なりとも感じていた」
――その気持ちが顕著に表れたのは第4大会のベルギー・スパでした。
万璃音:「そうですね。ホッケンハイム終了後にドライバーズチャンピオンシップの首位に立ちました。その先のオーストリア・レッドブルリンクとイギリス・シルバーストン2大会、EFOとFIA-F3は開催日程が重複していましたけれど、当時は裕毅やリアムがEFOとFIA-F3のどちらを優先するのか分かりませんでした」
「個人的には彼らはEFOでスーパーライセンス・ポイントを稼ぐだろうと思っていました。結果的に僕は2連勝。ふたりがレッドブル育成ドライバーだからというのではなく、単純に僕は彼らより2年間多く時間を使っているから、その差はあったと思います」
――スパではまったく負ける気配を感じませんでした。
万璃音:「スパではクルマの調子もよかったし、担当トラックエンジニアと僕はいつもリアムや裕毅より一歩先にいました。だから決勝レースでは彼らに対してアドバンテージを持っていました」
「まあ、言い方はどうかと思いますが(角田とローソンが絡んでリタイアした)レース2は“ラッキー”でもありました。とはいえ、ふたりがリタイアしなくても勝てるだけのクルマを僕は持っていた。あのスパでさらに選手権の得点差を広げられたのはすごく大きかったです」
――ポールポジションを取れなかったとはいえ、第5大会のハンガリー・ハンガロリンクも2連勝。FIA-F2に参戦中の松下信治選手がスポット参戦しましたが、負けることもありませんでした。レース1は2番グリッドでレース2は3番グリッドからのスタートながら、いずれもホールショットを奪って逃げきりました。
万璃音:「開幕大会のポールリカールからスタートにはずっと自信があったんです。リアムと裕毅はF3は1年目でクラッチに慣れていないのかもしれない。でも、僕はコンスタントにいいスタートを切れていました」