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海外レース他 ニュース

投稿日: 2020.06.29 17:21
更新日: 2020.07.01 17:28

初NASCARで驚いたアメリカ流の取材法。記憶に残る“F1は妥協したバレエ”のたとえ【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

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海外レース他 | 初NASCARで驚いたアメリカ流の取材法。記憶に残る“F1は妥協したバレエ”のたとえ【日本のレース通サム・コリンズの忘れられない1戦】

 スーパーGTを戦うJAF-GT見たさに来日してしまうほどのレース好きで数多くのレースを取材しているイギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズが、その取材活動のなかで記憶に残ったレースを当時の思い出とともに振り返ります。

 今回は2008年のNASCARスプリントカップシリーズの第4戦としてアトランタ・モーター・スピードウェイで開催された“コバルト・ツールズ500”の前編。この年、初めてNASCAR取材に訪れたコリンズは、その文化の違いに驚きを覚えたようです。

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 2008年、初めてNASCARを取材をすることになった私はロンドンからの長いフライトを終えてアメリカ・ジョージア州のアトランタに到着したとき、かなり興奮していた。

 その日は空港近くにあるホテルに泊まり、ホテルのバーで何杯か酒をたしなみ、軽めの食事を取ってベッドに入った。翌朝を迎えるのが楽しみで、少年のようにわくわくして眠りについたのを覚えている。

 翌朝、私は夜明けとともに目を覚まし、窓の外を見て自分の目を疑った。大雪が降っていたのだ! 昨晩眠る前は暖かかったのに、2008年3月8日の朝は厳しい寒さで、雪が降っていたのだ。

2008年のNASCAR“コバルトツールズ500”は雪に見舞われた
2008年のNASCAR“コバルトツールズ500”は雪に見舞われた

 数時間待つと、雪も落ち着いてきたのでクルマでサーキットに向かった。ただ、アトランタ・モーター・スピードウェイも厳しい寒さだったし、湿度も高い状況だった。

 私にとって、これが初めてのNASCAR取材でパドックに知り合いはいなかったが、この日はいくつかインタビューを行う予定だった。ただ、降雪の影響でプラクティス(練習走行)や予選が中止やディレイを余儀なくされ、その先のスケジュールも不透明だった。

 そこで私はまずメディアセンターに向かった。インターネットに接続できる場所を確保して、インタビューが行えるか確認しようと思ったのだ。

 サーキットのメディアセンターは大抵、ピットの上にあり、ホームストレートを見下ろせるようになっている。ただアトランタのメディアセンターは、オーバルコース内側にある窓のない小さな建物にあった。

 メディアセンターに入っていくと、親切に対応してくれる(その上、とても美人な)何人かの女性たちが出迎えてくれた。しかし、メディアセンターは満員で座席に空きはないと言われてしまった。

 どうやら、このメディアセンターを使用するには事前の申請が必要だったようで、そのことを知らず手続きもしていなかった私の場所は用意されていなかったのだ。ただ幸いにも、私が直面しているトラブルを耳にしたメキシコ人ジャーナリストが席を譲ると言ってくれた。彼は決勝日にはサーキットを離れるのだという。

 ここで、なぜ私が2008年にNASCARを取材したのかを説明しておこう。この年は当時採用されていた車両規格“カー・オブ・トゥモロー(CoT)”が初めてフルシーズンを戦う年だった。

2008年のNASCARを戦ったトヨタ・カムリ(写真は第1戦デイトナ500時のもの)
2008年のNASCARを戦ったトヨタ・カムリ(写真は第1戦デイトナ500時のもの)

 しかし、このCoTはファンや関係者に歓迎されているとは言いがたい状況だった。まずマシンの外観がよくなかった。従来のマシンより角張った見栄えで、マニュファクチャラー独自の個性にも欠けていた。またチームとドライバーは走行性能が高くなく、空力性能もお粗末だと不満を口にしていた。

 当時、私がアトランタを訪れた理由のひとつは、NASCARにおける技術力向上の象徴だったCoTがもたらした影響について取材することだった。

 CoT規定のマシンはそれまでのような“ノースカロライナの納屋”ではなく、F1参戦チームと同等かそれ以上の規模を持つファクトリーで作られていた。チームは施設内にテスト用リグを備えていることがほとんどだったし、広大な製造エリアと先進のコンピューターの演算能力を活用したシミュレーションシステムも備えていた。

 独自に風洞施設を持っているチームはほとんどなかったが、かわりにNASCAR参戦チームの多くが拠点を構えるノースカロライナ・シャーロットには、フルスケールの風洞施設があり、これを時間単位で借りることができた。代表的な風洞施設であるウインドシア社のものは、F1チームも使うような最先端技術を備えていたほどだ。

■NASCARのエンジニアから見ればF1は“妥協したバレエ”


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