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海外レース他 ニュース

投稿日: 2020.08.25 18:34

ITRの救世主!? ドイツ産業界集結の燃料電池シリーズ『ハイレイズ・リーグ』概要を発表

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海外レース他 | ITRの救世主!? ドイツ産業界集結の燃料電池シリーズ『ハイレイズ・リーグ』概要を発表

 DTMドイツ・ツーリングカー選手権で2018年までメルセデスベンツのファクトリーチーム運営を担い、現在はABBフォーミュラE選手権で、同じくメルセデスのワークスチーム活動を担当するHWA AGが、8月18日にドイツ・シュツットガルトで大規模なオンライン・プレスカンファレンスを開催し、2023年の創設を予定する水素を動力源とする燃料電池搭載車による新たな“ゼロエミッション”レースシリーズ『ハイレイズ・リーグ』の概要をアナウンスした。

 HWA共同創業者で、DTMを運営するITR.e.Vの元代表でもあるハンス-ベルナー・アウフレヒトや、ドイツを代表する自動車関連技術企業デクラ社のクレメンス・クリンクCOOらが出席したカンファレンスでは、このハイレイズ・リーグのコンセプトが初披露され「水素を使用した世界初のレーシングシリーズとなる」ことが宣言された。

 そのシリーズパートナーには車両開発を担うHWA AGを筆頭に、デクラ(車両検査機器/セーフティ)、シェフラー(パワートレイン、電装系)、ADAC(ドイツのASN)、DMSB(ドイツ・モータースポーツ連盟/セーフティ)、そしてeスポーツを世界的に統括するWESA(ワールドeスポーツ・アソシエイション)など、そうそうたる顔ぶれが名を連ねる。

 使用されるマシンの全体的なコンセプトワークや車体開発はHWAが主導し、パフォーマンス指標として最高出力800PS以上、パワーウエイトレシオは2kg/PS以下、最高速250km/h以上、0-100km/h加速3秒以下という高い性能目標が掲げられる。

 その源となるのは最大700barの高圧タンク内に蓄えられた水素で、車両前方から取り入れられた空気をコンプレッサーで圧縮し、水素との化学反応により発電。その電気で4輪に搭載されたインホイールモーターを回し、この4輪モーターがトルクベクタリングやブレーキ回生の役割も担う。

 そのブレーキ回生の仕組みも「国際的なモーターレースで唯一のタイプ」と謳われ、発生したブレーキダスト(つまり標準的ブレーキシステムも併用)は放出することなく車内に取り込まれ、レース後に環境負荷の低い方法で処分されるという。

 また、その減速時に高性能小型バッテリーセルに保存される回生ブレーキの電力回収にも工夫が凝らされ、車両の空力性能を著しく制限してダウンフォース量を抑えることで、長いブレーキングゾーンを確保。これにより「リソースを節約しながらエネルギー回収の効率を上げるだけでなく、追い越しが容易になりトラック上でのアクションが保証される」ことも狙われている。

シリーズパートナーには車両開発を担うHWA AGを筆頭に、デクラ(車両検査機器/セーフティ)、シェフラー(パワートレイン、電装系)、ADAC(ドイツのASN)、DMSB(ドイツ・モータースポーツ連盟/セーフティ)、そしてeスポーツを世界的に統括するWESA(ワールドeスポーツ・アソシエイションなど、そうそうたる顔ぶれが名を連ねる
シリーズパートナーには車両開発を担うHWA AGを筆頭に、デクラ(車両検査機器/セーフティ)、シェフラー(パワートレイン、電装系)、ADAC(ドイツのASN)、DMSB(ドイツ・モータースポーツ連盟/セーフティ)、そしてeスポーツを世界的に統括するWESA(ワールドeスポーツ・アソシエイションなど、そうそうたる顔ぶれが名を連ねる

 エントラントの意向により量産車とのリンクなど、デザインの自由度が残されるプロトタイプ風ボディを架装するシャシーには、天然繊維複合材が用いられるほか、再生可能な原材料から開発された特別なタイヤは摩耗を大幅に抑えることで、ブレーキダストなどと同様に細かい粉塵汚染を抑制し、再生可能エネルギーを基に精製された100%クリーンな水素と合わせ、事実上の『ゼロエミッション』モータースポーツを実現する。

 また、世界的な人気の高まりを見せるeスポーツの分野とも積極的なリンクを展開し、チームはリアルとバーチャルでそれぞれ1名のドライバーを走らせ、ともに実際のチャンピオンシップポイントが加算される方式を採用。そのパートナーとして指名されたWESAは、今後も最高水準の仮想環境の構築とシムレースの開発に従事することもアナウンスされている。

 実際の車両は2021年を通じて開発作業が進められ、2022年にはテスト走行を開始。2023年にドイツ国内で最初のチャンピオンシップを開催し、2025年にはグローバルな選手権規模への発展を見込んでいるという。

 この発表が行われた週末には、ドイツ・ラウジッツリンクで2020年シーズンのDTM第3戦が開催されており、そのパドックでハイレイズ・リーグの可能性を問われた現ITR.e.V代表のゲルハルト・ベルガーは「モータースポーツの未来に関連するすべての革新とコンセプトに大きな関心をもっている」と、今季限りでのアウディ撤退に揺れるシリーズの今後を念頭に、期待の言葉を述べた。

「モータースポーツの持続可能性、とくにプロフェッショナルなシリーズの存在目的を明確に示し、量産車の開発とテクノロジーの先駆者であり続けるためには大きな変革を必要とする時期に来ている」と続けたベルガー代表。

「(ハイレイズ・リーグの)タイムスケジュールは野心的だが、コンセプトは理にかなっている。水素技術が将来的に中心的役割を果たすと確信している」

 この8月31日に2021年規定の提示締め切り期限を迎えるDTMは、GT3をベースとしたアップデート・フォーマット“GT3+”の採用が有力視されているというが、ディーゼルを含む内燃機関からEVなどの電動車両への方針転換を迫られている欧州自動車産業の背景や、シリーズパートナーに連なる面々を踏まえても、ドイツとしてもEVの先、『次なる一手』を見据えた動きの一環である、と言えそうだ。

パフォーマンス指標として最高出力800PS以上、パワーウエイトレシオは2kg/PS以下、最高速250km/h以上、0-100km/h加速3秒以下という高い性能目標が掲げられる
パフォーマンス指標として最高出力800PS以上、パワーウエイトレシオは2kg/PS以下、最高速250km/h以上、0-100km/h加速3秒以下という高い性能目標が掲げられる


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