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コラム ニュース

投稿日: 2021.02.08 12:06
更新日: 2021.02.08 12:07

カリブ海の島国バルバドスの荒々しくも最高なモータースポーツ【サム・コリンズの忘れられない1戦】

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コラム | カリブ海の島国バルバドスの荒々しくも最高なモータースポーツ【サム・コリンズの忘れられない1戦】

 スーパーGTを戦うJAF-GT見たさに来日してしまうほどのレース好きで数多くのレースを取材しているイギリス人モータースポーツジャーナリストのサム・コリンズが、その取材活動のなかで記憶に残ったレースを当時の思い出とともに振り返ります。

 今回は2005年にカリブ海の島国バルバドスのブッシー・パーク・サーキットで行われたCMRCカリビアン・モーターレーシング・チャンピオンシップの一戦です。急遽取材に訪れたコリンズでしたが、“もっとも楽しいレースデーのひとつ”になったと振り返ります。

* * * * * * * * *

 同僚からの助けを求める電話が鳴ったとき、私はオフィスのデスクに向かっていた。彼は「バルバドスに来てほしいんだ」と言った。いつ行けばいいいのか尋ねると、彼は「今だよ!」と答えた。

 その日に出発予定だったジャーナリストが直前で行けなくなり、土壇場で私が招集されたのだ。私は普段からパスポートを持ち歩いていたので、店へ行って服を数着買い、遠く離れた島国で行われるモーターレースについて記事を書くために出発した。

 およそ2時間後にはロンドンのガトウィック空港で、ビーチと強いラム酒がよく知られている休暇の島バルバドスへのフライトに搭乗していた。バルバドスのモータースポーツといえば、いくつかのラリーが開催されていることは知っていたが、サーキットレースについては何も知らなかった。

 バルバドスに到着すると、空港でWRCの専門家である同僚と、知らない人々のグループと会った。彼らは地元のレーシングドライバーとイベントプロモーターで、なんと私の歓迎パーティを開催してくれたのだ。私はすぐに次から次へとビールをたらふく飲まされた。

 やがて私は荷物を置くためにホテルに送られ、その後は魚が特別なやり方で料理されているバルバドスでも有名なエリアに連れて行かれた。チリ、ライム、レモンと奇妙な卵で十分に味付けされた鯛かティラピアを、非常に高い温度で揚げたものが出された。それはとてもおいしかった。

 そのエリア全体はスラムのようだったが、何百人もの人々で一杯でだった。私はかなり上流に見えるイギリス人一家と、地元を良く知る人々と一緒に座っていた。2匹目の魚を食べ、多くのラム酒を飲んでからやっと、食事を共にしていた相手がバルバドスの総督と首相だったことに気づいた!

 彼らは、バルバドスを国際的なモーターレースの主要開催地にしたいと話した。年間を通して気候が良く、高級志向な休暇の旅先であることから、モーターレースは経済を大きく後押しするように感じられた。

 実際に島にはふたつのモータースポーツ施設があることがわかったが、両方とも大幅な改良が必要だった。

 私は週末に、ブッシー・パーク・サーキットで行われるCMRCカリビアン・モーターレーシング・チャンピオンシップを訪れて、コース上でカリブ海地域一帯のトップのマシンが競うのを見ることになっていた。

 次の日に訪れたブッシー・パークと名付けられたサーキットは、1970年代に建設され、その後10年ほど放置されていたが、1990年代よりふたたび使用されるようになった。それでもサーキットの外見は、打ち捨てられたような雰囲気があった。

 2キロメートルのコースは、ガードレール以外のものはほとんどなく、路面はひどくバンピーで(バルバドスの道路はすべてかなりバンピーだが)、ピットはただの木造の小屋だった。

 このコースには、“国際的な”レースを開催する能力はないように見えた。

カリブ海の島国バルバドスのブッシー・パーク・サーキット
カリブ海の島国バルバドスのブッシー・パーク・サーキット

 サーキットを私と一緒に見ているもうひとりのイギリス人は、ドバイ・オートドロームの設計者であることがわかった。

 彼はコースをFIA国際自動車連盟の基準に適応させるための改修を依頼されたのだ。私たちは非常に仲良くやっており、地元の人間のほとんどは良い意味でクレイジーだということで意見が一致した。

 ブッシー・パークのコースを見た後、私たちはもうひとつのコースであるボークルーズ・レースウェイに行った。

 もともとはスプリントラリーの会場として建設されたのだが、オーナーはコースをモーターレース用にも改修したがっていた。可能ならばNASCARのショートトラックにしてアメリカやヨーロッパのレーサーたちを引き付けたいということだった。

 両方のトラックを見ている間、非常に暑い日だったが飲み水がなかった。しかし冷たいビールだけは終わることなく出てきたのだった!私は夜に海岸沿いのバーでレースプロモーターたちと会う約束をし、ホテルで短い休息をとった。

 約束の時間まで2時間の余裕があったが、あまりやることもなかったので、そのバーへ行ってみることにした。ホテルを歩いて出てタクシーに乗り、バーに向かった。タクシー運転手が私に話し始めた。

 彼のなまりがとても強いので理解するのに苦労したが、彼が私に「WRCはスーパー2000のレギュレーションを採用すると思いますか?」と尋ねていることがわかった。

 そのような質問をされてとても驚いたが、タクシー運転手にとってこれは普通の会話のようだった。

 バーに着くと、私はカクテルを注文した。天気が良く、私は海を眺め、新聞を手に取って読んだ。

 一面には地元のレーサーのひとりのマシンの大きな写真が載っていた。小さなイベントだと思っていたが、全国紙にこれほど大きく取り上げられていることにまた驚いた。

 レースプロモーターのビジー・ウイリアムズがバーに到着したので、私はタクシー運転手のことを話し、新聞を見せた。彼は笑って、バルバドスではモータースポーツが最も人気のあるスポーツなのだと説明した。

 実際に国中がモータースポーツに夢中になっており、ブッシー・パークでのレースデーには2万から2万5千人の観客の入りが予想されるという。それはバルバドス全人口のざっと10パーセントにあたる。

 もし日本の人口の10パーセントが富士スピードウェイにレースを観に行ったら、1260万人の人出になってしまう!私は驚愕した。

 この風変わりな小さな島でモータースポーツがそれほど人気だとは思えなかったが、私はレースデーの朝にそれが真実であることに気付かされた。

 私はバルバドス時間の午前9時に始まるF1イタリアGPを観たかったのだが、ホテルの部屋のテレビでは放送しているチャンネルがなかった。そこで午前8時に起きて、イギリス人のサーキットデザイナーと一緒に近くのスポーツバーまで歩いて行った。そこならレースを観られると言われたのだ。

 私たちが到着すると、バーに入ろうとする人々の非常に長い列があったが、幸いにもその先頭に行くよう手招きされた。

 おそらく500〜600人の人たちがバーに入るのを待っていた。そして誰もが何かしらのF1のウエアを着ていた。バーのなかはファンで賑わっていた。

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