いかにもアメリカンな、大胆にして豪快な企画が3月27~28日、テネシー州ブリストル・モーター・スピードウェイで実施される。舗装路面のオーバルコースにわざわざ土を運び込み、コースにびっしり敷き詰めてのダートオーバル戦をやるというのだ。
開催カテゴリーは、米NASCARの3大シリーズ戦のふたつ、最高峰のカップシリーズと上から3番目のカテゴリーであるトラックシリーズ。エキシビションではない。ポイントが懸かるシリーズ戦だ。NASCARにおけるダートレースは、トラックでは数年前まで1戦だけあったが、カップ戦は1970年以来だという。
ブリストルは最大30度もあるハイバンクのショートトラック(1周0.533マイル=約858m)。バンクにダートはちゃんと乗るのか? クルマが周回を重ねているうちに、とくにアウト側のダートが落ちてきて、コンクリートの舗装が出てきてしまうのではないか? などと心配になるところだが、ブリストルは20年ほど前、『ワールド・オブ・アウトローズ』(WoO)のレースを、土を入れて開催した実績がある。心配は無用のようだ。
NASCARのルーツがダートオーバル(砂浜のもの含む)だとはいえ、なぜいまダートでレースなのか。一番は、やはり話題性だろう。新型コロナウイルスはスポーツエンターテイメント業界にとって大打撃。さすがのNASCARも足の遠のいたファンをサーキットへと呼び戻す策が必要になり、テレビ局からも「何か話題を!」という切実な声があがっていた。そこへブリストルが「カップレースをダートで」と提案、NASCARがゴーサインを出したということらしい。
そして、彼らの狙いどおり、NASCARとブリストルには大きな注目が集まることとなった。例年、ブリストルでは春と秋、毎年2戦のNASCARのレースがある。秋のほうは高い人気を維持しているのだが、春は人気ダウンが近年著しかった。シート数が16万以上もあるというのに、コロナ前の2019年春の観客は4万人ほど。それだけのお客さんが集まるイベントはNASCAR以外にそうは存在しないが、ブリストルは器が大きすぎるため、見ためがガラガラ。そこで出された策がダートレースというわけだ。
ダートオーバルはアメリカでは日常的な存在で、アメリカ人にとってのその身近さは日本人には想像がつかないレベルである。アメリカには小さなオーバルコースが数え切れないほどあり、週末の昼夜にレースが行われている。自分で走って楽しむ人もじつに多い。「家族や友だちが出ているから、手伝いや応援に」とコースで時間を過ごしている。
それゆえ、「カップカーをダートで」という発想は、アメリカ人的にはまったくアリなのだ。いろいろ汚れるダートレースはトップカテゴリーとしての洗練性に欠ける面はある。ただ、NASCARとしては、ルーツのダートトラックならカッコつける必要もない。コンクリートのコースにダートを敷き詰めてのレース……というのもアメリカ人好み。このアイデア、アメリカではそんなに驚かれるものではない。野球やアメフトのスタジアムを使った、バイクのスーパークロスは1970年代から行われているからだ。
今回のコース作りには膨大な費用がかかる。しかし、そこは敏腕プロモーター『スピードウェイモータースポーツ』社の面目躍如。彼らの手にかかれば、こんなアイデアも簡単に実現してしまう。彼らはNASCARのビッグイベント開催コースを、ブリストルを含めて8つも持っており、3年前にはシャーロットの1.5マイルオーバルの内側に、アップダウンまであり、スタンドから一望できるロードコースを新設。夏のレースは従来どおりオーバルで開催し、秋はオーバルとロードを合体させた“ローバル”でのレースをファンにオファーしている。