5月になりNTTインディカー・シリーズは一段と盛り上がりを見せる。インディアナポリス・モータースピードウェイに舞台を移し、まずは前哨戦とも言うべきGMRグランプリが行われた。
通称インディGPとも呼ばれるこのレースは、昨シーズンはコロナ禍のレーススケジュール変更で3レース行われたが、今年は5月と8月の2戦がスケジュールされた。
レイホール・レターマン・ラニガンの佐藤琢磨は、過去のインディGPでは決して結果は芳しくないのだが、2004年F1アメリカGPで3位表彰台に乗ったのは、このインディアナポリスだ。それももう17年も前になる。
F1で初表彰台、インディ500では2度の優勝と、インディアナポリスに愛されたドライバーは、今年どのような結果を残すのか。インディアナポリスに来てから、琢磨にサインやセルフィーをねだるファンは格段に多く、インディ500チャンピオンの認知度のすごさを改めて思い知った。
やはりそのファンの期待に応えるべく、琢磨としてもここで好結果を残したいはず。今年は開幕から4戦、スッキリしないレースが続いている。インディ500に向けチームの士気を高めるためにも、インディGPで弾みをつけたいところだ。
しかし、その思惑とは裏腹に琢磨はこのレースもFP1からペースが悪かった。金曜日のFP1では17番手、FP2では20番手と厳しい順位。1周70秒あまりのこのコースでは、差も着きにくく、0.1秒の違いで大きく順位も左右するが、そのタイム差以上に琢磨はマシンのフィーリングに満足していなかった。
そして予選の前に「このままでは大きく20番手のままだし、リスクはあるけど、マシンを大きく変えようということになりました」と意気込んだ。
予選ではブラックタイヤで3ラップ、レッドで2ラップが慣例だが、そこをあえてブラック4ラップ、レッド2ラップとしてタイムアタックにのぞんだ。ブラックでは全体で5番手で上位進出の可能性もあったが、レッドでは9番手で総合17番手のグリッドとなった。
あと6/100秒速ければQ1を通過できたのだが……。スコット・ディクソン（チップ・ガナッシ）やアレクサンダー・ロッシ（アンドレッティ・オートスポート）、ウイル・パワー（チーム・ペンスキー）もQ1を通過できなかったことを思えば、相変わらず接戦のインディカーだと感じる。
「変えたマシン感じを確かめたくて4ラップしましたが、クルマはいい方向になっていたと思います。本当にちょっとの差でしたね。レースは燃費の計算上3ピットしないといけないみたいだし、そのあたりをよく考えて明日のレースに臨みたいと思います」と琢磨。
17番手からのレーススタートだったが、ターン1～2の波乱をうまくかわして14番手までポジションアップした。イエローコーションの再会の後にロッシにかわされて15番手となり、そこから序盤のバトルが始まった。
ロッシを追うペースにならなかった琢磨はアンダーカットでポジションを上げるべく、早めに11周目にピットインしてコースに戻った。残念ながら今回はピットでも、インパクトレンチを飛ばしてしまうミスもあった。
その後、後続も続々とピットに入るが、順位が落ち着いてくると、琢磨はアロウ・マクラーレンSPのフェリックス・ローゼンクヴィストとパト・オワードにサンドイッチされる格好となる。
ローゼンクヴィストはブラックタイヤを履いており、せっかくレッドのタイヤに変えてペースを上げる目論見だった琢磨は、勢いを削がれる形となってしまった。
35周目の2度目のピットの後は、ラップリーダーのロマン・グロージャンが後方から追い上げてきて、ターン1では強引にインから抜かれる羽目に。
両者にとってはここでバトルする意味はないのだが、一時1周ビハインドになってしまった琢磨は、自力でグロージャンを抜き返して周回遅れから脱した。だが序盤の遅れやトラフィックの中でのタイムロスは、レース終盤まで取り返すことができず、85周のレースを16位のまま終えた。
「今シーズンはなんかこう苦しいレースが続きますね。いろいろタイミングも悪いし、ミスもあった。立てた戦略通りには走ったけど、順位は上がりませんでした。本当に残念です……」と意気消沈。
「もう切り替えて逆回り！（笑）。インディ500で頑張りましょう！」と空元気なのか、本気なのかわからないが、笑顔で重い空気を吹き飛ばした。
