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海外レース他 ニュース

投稿日: 2021.06.29 15:52
更新日: 2021.06.29 20:37

ニュルブルクリンクのお馴染みスーパーマーケットの店主に聞く、サーキットと街の関係

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海外レース他 | ニュルブルクリンクのお馴染みスーパーマーケットの店主に聞く、サーキットと街の関係

 6月3〜6日、今年もADAC・トタル24時間レース(ニュルブルクリンク24時間)が開催されたドイツのニュルブルクリンク。毎年ドイツメーカーの威信をかけた戦いが展開される一方、日本含め世界中から多くの挑戦者が参加するレースだ。そんなニュルブルクリンクは、その他にも数多くのレースを開催しているが、街全体がニュルブルクリンクと寄り添い、共生している。ニュルから北に10kmほどに位置する小さな街、アデナゥ(離れているとはいえ、北コースが通っている)にある一軒のスーパーマーケット『REWE(レーヴェ)』も、ニュルとともにある店のひとつだ。

 ニュルブルクリンクのグランプリコースと北コースを組み合わせたコースで争われるニュル24時間。難攻不落のコース、変わりやすい天候などその特異性から多くの車両が参戦し、また例年では20万人以上のファンがドイツを中心に世界中から集まる。ただ、新型コロナウイルスの影響で2021年は最大1万人の観客動員が実現したものの、例年と比べると今年も寂しいレースとなった。

 そんなニュルのパドックから北に10kmほどの距離にある小さな、美しい街がアデナゥ。そのはずれにある、ノルドシュライフェのエクスミューレに近い場所にあるのが、スーパーマーケットのレーヴェだ。ファンはもちろん関係者がレースウイーク中の買い物に立ち寄るほか、レースが終わった月曜日には、日本に帰る関係者やファンが立ち寄り、お土産を買っていくことも多い。

 レーヴェ自体は、ドイツ2位の規模のスーパーマーケットチェーン。ケルンに本拠があり、サッカー・ブンデスリーガの1.FCケルンの胸スポンサーでもお馴染みだが、このアデナゥ店はレーヴェ・メラニー・コッホGmbH + Co. KGという社名。2019年までならば日本人も多く賑わっていた店内だが、当然2021年は日本人の姿はほぼなく、24時間のレースウイーク中の店舗前には、数多くのバーベキューグッズが山積みになって販売されているものの、ほぼ地元の買い物客でひっそりしていた。そんな静かな今年のニュル24時間後の月曜日に、レーヴェ・コッホの代表取締役を務めるメラニー・コッホさんと創業者である実父に、話を聞いた。

レーヴェ・メラニー・コッホとコッホ親子
レーヴェ・メラニー・コッホとコッホ親子

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──経営されているレーヴェについて教えてください。
メラニーさん:
レーヴェはドイツ全国に展開する大手スーパーマーケットチェーンで、私が2歳だった1976年に、レーヴェのフランチャイズ店として父が開業しました。当時は別の場所にありましたが、81年に店舗拡大につきこの地に新店舗を建設し、2000年には道路を挟んだ向かいにドリンク専用の店舗を新設する等、徐々に拡大し、弊社店舗敷地は2700㎡となりました。私は1999年からこの店舗に就職、2011年に父から店舗を引き継ぎ二代目となり、それと同時に店名を私のフルネームを入れたレーヴェ・メラニー・コッホGmbHに変更しました。

──世界的に有名なニュルブルクリンクのお膝元にあるスーパーマーケットということで、ふだんのシーズン中にはさまざまな国からの買い物客であふれているのではないでしょうか。
メラニーさん:
ここに生まれ育った者は、みな幼い頃からレーシングカーのエンジン音や自動車とともに自然に育ちます(ニュルのインダストリープールでは毎日のように世界の自動車メーカーの開発車両がテスト走行しており、それはアデナゥの町でも毎日のように見られる)。当店の店舗の真裏はブライトシャイトというコーナーです。今はコロナ禍で非常に少ないですが、通常ならば春から秋にかけて世界中からニュルファンが多くこの小さな街であるアデナゥを訪れ、賑わう様子は、子供の頃から見慣れた光景ですね。

──2020年、2021年と新型コロナウイルスの影響で、日本のみならず、多くのファンやチームがこのニュルに来ることができませんでしたが、売り上げは影響がありましたか?
メラニーさん:
特にバーベキュー用品や食材を販売できず、売り上げは大幅に落ちてしまいました。アデナゥは人口3000人ほど。近郊の市町村を入れても1万6000人の小さな街というか、村ですね。その小さな地域に5店舗のスーパーマーケットがありますので、生き残り競争は非常に厳しいです。また、コロナ禍で営業自粛を余儀なくされた町の飲食店や宿泊施設は、特にかなり大きな打撃を受け、この先どうなるか心配をしています。

アデナゥのレーヴェ店内(写真は2014年撮影)
アデナゥのレーヴェ店内(写真は2014年撮影)

──他のレーヴェの店舗とは違う活動もなさっているとか。
メラニーさん:
当店は2009年までニュルにあったモータースポーツアカデミーのスポンサーでもありました。現在は少し休止しているプログラムですが、地元のモータースポーツ協会を通じて、モータースポーツのキャリアを夢見る子どもや若手を応援するスポンサー活動も行っています。いまやごく一般的な収入の家庭の子どもたちがモータースポーツ活動を続けることは非常に厳しい世の中になりました。夢があってもそれに向かうことさえ難しい。そんな未来ある子供たちを今後またサポートできればと願っていますし、モータースポーツと共存する街としては非常に大切なことだと思っています。

──他にも『ウチだけの特色』とされていることはありますか?
メラニーさん:
実は、当店はドイツでも1、2を争うウイスキーの名店だということをご存知でしょうか? ドリンクリカーショップの入口を入って右手には世界中のウイスキーを販売しており、ウイスキー好きのドイツ人の中でもちょっとした有名店で、遠方からこの田舎町へウイスキーを買いにだけいらっしゃる方もいます。日本のウイスキーも販売していますし、日本人の方がお買い求めになることもあります。

 私のソムリエの資格と父のウイスキーの深い知識を活かし、ニュルブルクリンクと地元アイフェル地方のウイスキー醸造所とともに『ニュルウィスキー』を作りました。すでにエディション3まで発売され、市販分はおかげさまですぐに完売してしまいました。今でもお問合せをいただくことが多いですので、次作を考えています。

 他にも数年前には、同様に地域のワイナリーとニュルと共同で『ニュルワイン』も販売し、こちらもお手軽価格で美味しいと好評を得ました。ニュルブルクリンクとはとても良好な関係にあり、ニュルを訪れてくださった方がお土産においしいお酒もお持ち帰りになり、ご自宅でご家族やご友人とともに楽しい思い出と味わって頂きたいとの思いで、みんなで一緒に作りました。

 アルコール売り場にはソムリエの資格を持った女性店員がおりますので、お気軽に声をお掛けくださいね。別料金となりますが、プレゼント用の包装にもご対応しています。現在はコロナの影響で中止をしていますが、通常はウイスキーの試飲も行っています。

──ニュルの近郊はラインやモーゼル等に多くのワイン醸造所がある、ドイツワインの有名産地のひとつでもありますね。
メラニーさん:
地元産のおいしいワインもたくさん取り揃えています。私たちが『レーシングドライバーのゼクト(スパークリングワイン)』と呼ぶアルコールフリーのゼクトも取りそろえていますので、アルコールが苦手な方のお土産にもぴったりですよ。レース前日に仲間と乾杯したいけれど、翌日の早朝からの走行のためにアルコールフリーのゼクトを、というご要望をレーシングドライバーからいただくこともありますので、常時数種類は置いています。表彰式用に買い出しに来られることも多いので、ゼクトやシャンパンはアルコールあり、なしともにマグナムボトルから小瓶まで常時いろいろな大きさを揃えています(笑)。

アイフェルの醸造所で作られる『ニュルウイスキー』。左からエディション1、2、3。
アイフェルの醸造所で作られる『ニュルウイスキー』。左からエディション1、2、3。
ズラリと並んだゼクト(スパークリングワイン)
ズラリと並んだゼクト(スパークリングワイン)
コッホ親子とズラリと並んだウイスキーたち
コッホ親子とズラリと並んだウイスキーたち
アデナゥのレーヴェ店内。こちらはリカーコーナー(写真は2014年撮影)
アデナゥのレーヴェ店内。こちらはリカーコーナー(写真は2014年撮影)

──店内はチェーン店ながら、店員さんが制服ではなくニュルのTシャツを着ておられたり、一般的なレーヴェの店舗で販売されていないようなニュルグッズ等が並んでいて、かなり個性的な店舗ですね。
メラニーさん:
いまは多くの店舗でも自然・有機食品、地元産へのこだわりは当たり前ですが、父は創業当時からそれらを積極的に取り扱っていました。また、本来のフランチャイズ契約では仕入れる商品は決められていますが、優良店だけ許可された独自の商品販売展開で、ニュルグッズや地元の特産品、地元商店の委託品等も取り扱っています。ニュルグッズの販売に関して、本部からおとがめを受けたことはありませんよ(笑)。

──このお店ではニュルグッズが少し安いというのが日本人の中での噂ですが、本当なのでしょうか?
メラニーさん:
Tシャツ等は前年モデルのアウトレット商品を仕入れていますので、お安く提供できています。Tシャツ類は1シーズン前のものでも、デザインはほぼ変わらないものも多くありますので、サイズが合えばずいぶんとお買い得だと思います。それ以外の現行商品に関してはオフィシャルショップと同じ価格です。

──日本人が購入している品物の特徴はありますか?
メラニーさん:
日本人に限らずですが、コースのステッカーは地元住人にも人気ですね。地元の方の多くのクルマにも貼られています。ほかに日本人の方はお土産用でしょうか、レース後の月曜日にはお菓子をたくさんご購入いただいている方をお見掛けしますね。

──最後に日本人来訪者へのメッセージをお願いします!
メラニーさん:
2010年ごろから日本人のお客様が増えて嬉しいですね。特にNLS(ニュル耐久シリーズ)や24時間レースのレースウイークには、多くの日本人のお客様に買い物にいらしていただいています。礼儀正しく、フレンドリーというイメージを持っています。

 残念ながら、コロナ禍で日本人の姿を見かけることはほぼなくなり、とても残念ですね。コロナが落ち着いたら、またぜひニュルやアデナゥへいらしてください。ニュルグッズをたくさん仕入れてお待ちしています。

レーヴェ店内で売られるニュルブルクリンク公式グッズ。サーキット内でも買えるが、こちらでちょっとお安く買うこともできる。
レーヴェ店内で売られるニュルブルクリンク公式グッズ。サーキット内でも買えるが、こちらでちょっとお安く買うこともできる。
春〜夏までに食べたいシュパーゲル(ホワイトアスパラガス)。もちろんレーヴェ店内でも売られている。
春〜夏までに食べたいシュパーゲル(ホワイトアスパラガス)。もちろんレーヴェ店内でも売られている。ビールと合わせると最高だ。

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 家族全員が動物好きということもあり、動物愛護団体や地域福祉慈善事業に積極的に活動するメラニーさんとそのご家族。一期一会(Ichigo Ichie)という日本語が大好きだというメラニーさんは、モータースポーツを通じて、世界中の多くのひとびとと交流を持つのをとても楽しみにしているという。ここがワインやウイスキーの隠れた名店だということを知る人は少ないのではないだろうか。今後はお酒のお土産選びも楽しくなりそうだ。

 ドイツではスーパーマーケットや商店に入る際には『ハロー!』とひとこと挨拶するのが気持ちよくお買い物をするエチケット。ふたたびニュルブルクリンクに行き、レーヴェで店員さんを見掛けた際には、勇気を持って声をかけてみよう。


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