更新日: 2022.06.17 07:43
誰もが感じた確かな手応え。大きな飛躍を遂げた TOYO TIRESニュル24時間耐久レース、3年目の戦い
■TOYO TIRES、RING RACINGを相棒に新体制でニュル3年目を戦う
第50回ADAC・トタル24時間レース(ニュルブルクリンク24時間耐久レース)は、2022年5月26日〜29日にかけて争われた。瑞々しい新緑がまばゆいばかりに色彩を放つドイツの西北部に位置するアイフェル地方。初夏の訪れを感じさせるニュルブルクリンクで、TOYO TIRESの3年目の戦いが始まろうとしていた。
2020年に再スタートしたTOYO TIRESのニュルブルクリンクでのタイヤ開発プログラム。2022年はRing Racingとタッグを組み『TOYO TIRES with Ring Racing』としてチーム体制を一新。クラス優勝を目標に掲げて、トヨタGRスープラGT4の2台でSP10(FIA GT4クラス)に参戦する運びとなった。
『TOYO TIRES with Ring Racing』の総監督はRing Racing代表のウヴェ・クレーンが務める。ドライバーは83号車にアンドレアス・ギュルテン、ミヒャエル・ティシュナー、ハイコ・テンゲス、そして84号車には、ランス・ダービッド・アーノルド、ヤニス・ヴァルドー、トビアス・バスケスが揃い、総勢6名のドイツ人ドライバーでレースに臨む。
5月26日(木)午後には第1予選、続いてナイトセッションとなる第2予選が行われ、翌5月27日(金)には第3予選が行われた。83号車はSP10クラス2位(総合55位)、84号車はSP10クラス4位(総合62位)と、2台のトヨタGRスープラGT4は、順調にレースウイークを滑り出した。
過去2大会ではコロナ禍の厳格な規制が敷かれ、ノルドシュライフェでの観戦やキャンプは全面的に禁止、グランプリコースでは人数制限の上、ごく少数の入場者しか認められなかった。今年はそれらの規制が緩和され、第50回という歴史的な記念となるニュルブルクリンク24時間のスタートグリッドは、マシンが一体どこにあるのかが分からない程に大勢の人々で埋め尽くされ、息をするのも大変な盛り上がりを見せていた。
今年のニュルブルクリンク24時間レースへのエントリー台数は138台。速度差があるため3つのグループに分かれてのスタートとなった。総合優勝を狙うGT3マシンが属するSP9クラスとSP-Xクラスが第1グループ、『TOYO TIRES with Ring Racing』のトヨタGRスープラGT4が属するSP10クラスは第2グループとなる。SP10クラスにはBMW M4 GT4やアストン・マーティン ヴァンテージAMR GT4、ポルシェ 718ケイマンGT4 RS CSなどの強豪が揃い、激しい戦いが予想される。
ドライバーのスキルだけではなく、マシンとタイヤの性能や安全性が非常に重要とされるのがニュルでのレースだ。今年のニュルブルクリンク24時間レース本番を迎える前に、『TOYO TIRES with Ring Racing』はNLS(ニュルブルクリンク耐久シリーズ)の第1戦・第3戦にリハーサルとして参戦し、第3戦ではクラス優勝を飾った。
それに加えて、欧州内の様々なテストコースでのタイヤテストを実施。その結果を踏まえ、TOYO TIRESはミディアムハードを基本スペックとし、そのほかにニュル特有の低気温を予測してミディアムを合計250本、レインタイヤをパターン2種類、合計200本を用意して臨んだ。
今季はTOYO TIRES OEタイヤ開発部モータースポーツチームリーダーの富髙祐らが日本から加わり、TOYO TIRESの開発エンジニア陣が全力でサポートに当たった。富髙は「ドライタイヤもレインタイヤも“勝てるタイヤを造る”ことを目標とし、昨年の課題を細かく分類し、タイヤ特性を根本から見直しました」
「タイヤ特性値や車両のロガーデータを分析し、車両に合わせた設計を行ってきました。ドイツ現地にも赴いて、ドライバーからのフィーリングを収集し、開発スピードを加速させ、性能を向上させてきました。NLS第3戦でクラス優勝できて、確実にステップアップしていると強い手応えを感じています」と本番への熱意を研ぎ澄ます。
■ついに迎えた三度目の“本番”。クラス優勝を目標に走り出す
5月27日(土)16時ちょうど、23万人の歓声と熱気に包まれて、いよいよ24時間に及ぶ戦いの火蓋が切って落とされた。
レース序盤は順調に淡々と時が過ぎた。そして徐々にFCY(フルコースイエロー)やコード60の警告が出される箇所が増え始める。1周25.378kmのコース上ではあちらこちらで同時に複数の警告が出ており、それを細心の注意で厳守しなければならない。特に日没前から夜明け前までの視界不良の時刻には警告が見落とされやすいが、一度のミスがポジションを大きく落としてしまうことさえあるのだ。
順調に周回を重ねていた83号車と84号車の2台のトヨタGRスープラGT4は、ポディウムを狙えるポジションを保っていたが、日没頃に84号車にアクシデントが発生し、マシンはピット内へ運ばれて修復作業に入った。
一方の83号車は、レース開始後12時間頃まではクラス2位を保守していたが、複数回に渡ってのテクニカルトラブルに見舞われてしまい、その度に長いサービスストップが繰り返されることに。実質的に83号車、84号車の2台ともポディウムへのチャンスを失ってしまった。
しかし、『TOYO TIRES with Ring Racing』は何度トラブルが起きようが、諦めることなく、持ち前のチームワークを発揮してマシンを修復する。その甲斐あって84号車は明け方から再びコースへ復帰。ひとつでもポジションを挽回するため、全力で追い上げを開始した。
日中の最高気温が13度前後と気温こそ低かったものの、ドライコンディションが続いた今年のニュルブルクリンク24時間レース。5月29日(日)の夜明け前には2.5度まで下がり、5月末とは思えない寒さに震えた。明け方に少し雨が降った後、曇り空のまま夜が明け、アイフェル地方の森から上がる美しい日の出を拝むことはできなかった。
正午を迎える前から再び黒い雨雲が上空に立ち込める。コースの部分的に雨粒が落ちはじめ、急にピット付近が慌ただしくなった。スリックで走行中のマシンは、スピンやコースアウトが続出。長いコースなので、ピットまで辿り着くのもひと苦労だ。
降雨はコース全域ではないだけに、タイヤの選択が非常に難しいところだ。グランプリコースにも雨粒が落ちはじめ、瞬く間にどしゃ降りになったと思ったら、その後はハッツェンバッハ周辺に大粒の雹が降るという、これぞ『ニュルウェザー』がレース終了まであと2時間、寝不足と疲労がピークに達していたが、一瞬で気が引き締まる。
過去2年間にTOYO TIRESがニュルへ持ち込んだレインタイヤはまだ満足がいくものではなく、それが大きな課題のひとつとなっていた。そこでTOYO TIRESの開発陣は、ロガーデータやマテリアルの分析を徹底して行い、構造やパターン、コンパウドなど様々な要素を車両特性に合わせて設計したタイヤを持ち込み、この本番を迎えていた。
気まぐれな雨は上がり、晴天の中、長くもあり短くもあった24時間が経過した。時計の時刻は16時を示し、青空の下でチェッカーフラッグが大きくなびく。観客のスタンディングオベーションを受けながら、2台のトヨタGRスープラGT4は仲良くランデブー走行。83号車がクラス5位(総合43位)、84号車はクラス6位(総合65位)でゴールラインを無事に通過した。
時には厳しい場面もあったが、最後は『TOYO TIRES with Ring Racing』全員が笑顔で互いの健闘を称え、固い握手を交わした。トラブルやアクシデントに見舞われ、残念ながらクラス優勝という目標は来年へ持ち越しとなったものの、過去2年とは違う確かな手応えを誰もが感じていた。2023年のニュル24時間に向けて、TOYO TIRESの挑戦はすでに始まっている。
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■83号車トヨタGRスープラGT4ドライバー:アンドレアス・ギュルデン
「2台のスープラが揃ってゴールできたことを誇りに思っています。SP10クラス5位入賞はちょっと残念でしたが、ラップタイムを見ると非常に力強いパフォーマンスを披露できたと思います。1年目からチームに加わり、スープラでドライブしていますが、3年間での成長には目を見張るものがありました。GT4マシンの車体は決して軽くはなく、ノルドシュライフェでの走行には必ずしも有利ではない中、タイヤの耐久性と機能性の向上を実感しました。過去2年分のフィードバックがきっちりと反映されていたことが、ドライビングにも表れていました」
「普段、ノルドシュライフェを職場とするドライバーとしての立場で、ニュルではタイヤに求められる必須事項があり、特に24時間レースではその評価点はさらに厳しくなります。逃げ水が出るような灼熱から明け方のかなりの低温時まで、どんな条件下でもきちんとしたパフォーマンスや機能性が求められますし、安全上の理由からもそれらをクリアするタイヤであることが求められます」
「ですから、些細なハンドリングからのフィードバックまで見逃さずに研究してくれたことを、今年のタイヤで走行してみて良く理解ができました。24時間レースの2週間前にウエットタイヤのテストを行った際に、これならニュルでどんな気候になっても大丈夫だと確信してスタートラインに立ちました」
■84号車トヨタGRスープラGT4ドライバー:ランス-デービット・アーノルド
「トヨタGRスープラGT4のドライブは初めてでしたが、1回目の走行からマシンとタイヤに魅了されました。レースウイークには色々とありましたが、私自身としては毎ラップをとても楽しくドライブしていました」
「チームはファミリー感たっぷりで、互いに声が掛けやすく、その場でマシンやタイヤの状況を確認して意見や情報交換することができました。ミディアムハードのスリックで私のスティントを担当したのですが、アウトラップから自分のスティントの最後まで、コンスタントに機能してくれました。外気温は4~8℃と低かったのですが、ストレスを感じることなく、ハンドリングにも素早い反応には感嘆しました」
「ノルドシュライフェで数多くのタイヤテストやレース走行してきましたが、開発3年目でここまでのレベルのタイヤを作ることは難しいことだと、私自身の経験からよくわかっています。彼らのピンポイントな質問がこの日を迎えるまでに物凄い情報量を処理し、準備してきたのかをすぐに悟りましたし、私も彼らの要求に応えようと必死になりました。この相思相愛こそが、私が望む開発プログラムの見本とする形なのです」
■『TOYO TIRES with Ring Racing』総監督/Ring Racing代表:ウヴェ・クレーン
「予選もよいポジションでしたし、レーススタートも上手くいきました。次第にトラブルやアクシデントが続いたのは残念でした。車両とタイヤともにパフォーマンスは素晴らしく、時にはクラストップや2位にポジショニングするなど、トップ3に入賞できるポテンシャルを見せていました」
「TOYO TIRESとの開発プログラムも3年目となりました。1年目は互いに学ぶことが多く、2年目はそれを糧に成長をはじめ、3年目となる今年は大きな飛躍を遂げられたと実感しています。スリックタイヤは他メーカーに劣らないレベルに成長していますし、ウエットタイヤもさらなるレベルアップを目指したテストやレースの日々が楽しみです」
■TOYO TIRES OEタイヤ開発部 モータースポーツチームリーダー:富髙 祐
「クラス優勝ができなかったことは、悔しいです。ただし、データや情報収集の面では大きな収穫があり、これを糧にして来年に向けての開発をすぐに開始します。今後は一般市販向けの製品に、得られた技術のフィードバックを行うことで性能向上を目指すことも、このニュルの開発プロジェクトの意義だと思っています。また、技術の向上とともに、欧州でのブランド認知度の向上にも貢献したいです」
■TOYO TIRES(トーヨータイヤ)製品サイトhttps://www.toyotires.jp
■Team TOYO TIRES JP(@teamtoyotiresjp) • Instagram写真と動画https://www.instagram.com/teamtoyotiresjp/