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海外レース他 ニュース

投稿日: 2022.07.14 16:11
更新日: 2022.07.14 16:12

乱戦状態のインディカーで地力を見せる常勝ペンスキー。シーズン後半戦でライバルたちの巻き返しは?

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海外レース他 | 乱戦状態のインディカーで地力を見せる常勝ペンスキー。シーズン後半戦でライバルたちの巻き返しは?

 2022年シーズン、NTTインディカー・シリーズを代表する強豪チームのチーム・ペンスキーは前年よりも1台減らした3台体制で戦っている。

 昨年はトラブルなどで勝利を逃し第10戦ミド・オハイオがシーズン初勝利だったが、今年の彼らは第9戦として開催されたミド・オハイオまでで早くも6勝を挙げてきている。常勝ペンスキー復活、とも表現できる状況なのだ。

 シーズン開幕前にはチーム・ペンスキーのエンジニアリング弱体化が心配されていた。
 ポルシェのIMSA及びWEC向けスポーツカーの開発に昨年スコット・マクラフランを担当していたベテランエンジニアのジョナサン・デューグッドを据えた後、ニューガーデンの担当エンジニアだったギャビン・ウォードをアロウ・マクラーレンSPに引き抜かれてしまったからだ。

 ロジャー・ペンスキーがチームの陣頭指揮から離れ、インディカー・シリーズとインディアナポリス・モータースピードウェイの運営にシフトした状況下、彼のインディカーチームは大きな試練に晒されたわけだ。

 しかし、社長のティム・シンドリックはこの危機を見事に切り抜けた。

パワーと握手するティム・シンドリック
パワーと握手するティム・シンドリック

 ニューガーデンにはシボレーのシャシー開発陣営でヘッドを務めていたエリック・レイクトゥルを招聘し、マクラフランには昨年までシモン・パジェノーを見ていたベン・レッツマンを充てがう体制としたのだ。

 ドライバーとエンジニアのペア三つのうちのふたつが新しくなったというのにこれだけ勝ち星を重ねているのだから、彼らの3カー体制は非常にうまく機能していると見るべきだ。

 ところが、6勝していても今シーズンのペンスキー勢に以前のような強さは感じられない。それは彼らがインディ500でまったく振るわなかったことも影響しているだろう。

 ウィル・パワーが予選で辛うじてファスト12に入ったが、レースでは3人揃って優勝争いに一切関係のないポジションを走り続けるしかなかった。

 すでに2回しリーズチャンピオンになっているニューガーデンだが、今シーズンは勝てなかったレースでのパフォーマンスが良くない(バーバーが15位、インディ/ロードコースが25位、インディ500が13位)。3勝もしているのにランキングは3番手だ。

3度目のチャンピオンを狙うジョセフ・ニューガーデン
3度目のチャンピオンを狙うジョセフ・ニューガーデン

 通常の年なら、3勝したらチャンピオンになってても不思議はないというのにである。昨年のチャンピオン=アレックス・パロウは3勝だった。ニューガーデンは今シーズンの残り8戦で何回勝てるだろうか。

 マクラフランはミド・オハイオで2勝目を挙げた。ランキングは7番手と勝利数に見合わない位置に甘んじている。

 参戦2年目のニュージーランド出身ドライバーはまだ安定感に欠けている。それでも経験豊富なチームメイトたちとともに仕上げたマシンでの走りは着々とレベルアップしており、シーズン後半戦に勝利を重ねる可能性は秘めている。

開幕戦で初優勝を飾り、ミド・オハイオでも勝利したスコット・マクラフラン
開幕戦で初優勝を飾り、ミド・オハイオでも勝利したスコット・マクラフラン

 現在のシリーズリーダーはマーカス・エリクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)だ。昨年2勝しているスウェーデン出身の元F1ドライバーだが、今年はまだダブルポイントのインディ500で優勝したのみ。しかし、他のレースで実にコンスタントに上位フィニッシュを重ねてきている。

 チップ・ガナッシ・レーシングには安定感ではエリクソン以上のものを持っているスコット・ディクソンとアレックス・パロウがおり、彼らは今シーズンは未だ勝利がないというのに2勝のマクラフランよりもポイントスタンディングで上位につけている(パロウが4番手で、ディクソンが6番手)。

 意外にも安定感を見せてランキング2番手にいるのは、チーム・ペンスキーのウィル・パワーだ。開幕から4戦続けてトップ4フィニッシュして見せ、デトロイトで優勝。今回のミド・オハイオを含め、後方スタートから上位フィニッシュを重ねるなど、彼らしくない粘り強いパフォーマンスによって大量ポイント獲得を実現してきている。

 そのパフォーマンスは素晴らしく、後方からの追い上げは見ていて非常にエキサイティングで新たなファンを獲得しているほどだが、歴代2位のポールポジション獲得回数を誇る彼をもってしても今年のPPはまだ1回しかない。

ランキング2位につけるウィル・パワー
ランキング2位につけるウィル・パワー

 ニューガーデン(デトロイト)、マクラフラン(セント・ピーターズバーグ)もPPは9戦までで1回ずつの獲得。過半数を上回る6勝を記録していながら彼らの戦いぶりに決定的な強さを感じることができないのは、予選成績が芳しくないこともその理由だろう。

 予選で苦しんでも決勝で上位に進出してくるのはドライバーの高い能力だけでなく、ピット作業の速さと確実さ、作戦力の確かさなどによるもの。その辺りは研究、人材補強、訓練でカバーができるものなので、ライバル勢の更なる奮起を期待したい。

 特に、”ピットワークはペンスキーがナンバーワン”という時代が何十年も続いている点は、ペンスキーがたゆまぬ努力を続けているためもあるが、ライバルチームのコミットメントが不足しているからに他ならない。

 9戦のうちの7レースでシボレーエンジンユーザーが勝っているが、今年になって急にシボレーエンジンがパワフルになったわけではない。マッピングの改善によるドライバビリティ向上、各ドライバーの好みへの細かな対応がユーザーたちに好評で、彼らのパフォーマンスアップに貢献しているようだが、シボレー勢の活躍はそれ以上にユーザーチームの実力アップが貢献してのものだろう。

 その一方でホンダエンジン搭載勢が苦戦しているのは、彼らのチーム力が地盤沈下しているためで、相対的にペンスキーのレベルが上がり、勝利を重ねている。

600勝を祝うロジャー・ペンスキーとペンスキーのドライバーたち
600勝を祝うロジャー・ペンスキーとペンスキーのドライバーたち

 チップ・ガナッシ・レーシングはペンスキーより1台多い4台をレギュラーとして走らせている。元NASCARチャンピオンのジミー・ジョンソンを除くドライバー3人が作業分担、情報収集、情報交換を高いレベルで行っているが、今年の彼らはファイアストンタイヤの新コンパウンドへの対応で出遅れた感があり、あと一押しの足りないレースをいくつも経験してきている。

 17年続けて1勝以上してきているディクソンは未だ勝ち星がなく、昨年のシリーズチャンピオンであるパロウも今シーズンは優勝が未だない。それでも、ガナッシ勢はシリーズで最も重要なレース=インディ500で圧倒的な強さを見せつけ、5人エントリーさせたうちの1人であるエリクソンが優勝を飾った。

 スポット参戦したベテラン、トニー・カナーンも3位でゴールしてみせた。ポールポジションはスコット・ディクソンが通算5回目の獲得を果たし、予選2番手だったアレックス・パロウとともにフロントローからレースをリードし続けた。

 彼らふたりはミスと不運で後退を喫したが、ガナッシ勢が200周=500マイルのレースを牛耳り、2012年以来となる優勝を記録した。彼らのドライバーたちは持ち前の粘り強さを発揮してランキング上位に名前を連ねている。

 シーズンは残り半分を切ったが、これからガナッシドライバーたちが巻き返す可能性は十分にある。チーム・ペンスキー、さらにはアロウ・マクラーレンSPも交えてのタイトル争いがどう展開していくのか、非常に楽しみだ。

 ホンダ勢ではアンドレッティ・オートスポートも苦戦している。ロマン・グロージャンをデイル・コイン・レーシング・ウィズRWRからエンジニア付きで獲得したものの、彼の初勝利は未だ実現されていない。

 本家だけで4カー体制、メイヤー・シャンク・レーシングの2台をも含めると6台もになるマルチカー体制は彼らの想定していた通りの相乗効果を確保できていないのだ。

 コルトン・ハータとアレクサンダー・ロッシが1回ずつのPP獲得を果たし、ハータはインディアナポリスのロードコースで1勝を挙げているが、多くのコースで以前よりチーム全体としてのパフォーマンスが低いものになっている。

 ドライバーランキングのトップはロッシによる8番手で、次がシモン・パジェノー(メイヤー・シャンク・レーシング)の9番手。ハータはギリギリでトップ10の10番手だ。

 思い通りの戦いができないことでチーム内にはフラストレーションが充満しているのか、ミド・オハイオでのレースではチームメイト同士による接触が頻発していた。ドライバー間の信頼関係が失われてはマシン作りもスムーズには進んでいかないだろう。

 9戦で9人のPPウィナーが誕生し、レースでの勝者は6人に上っている。群雄割拠、実力伯仲による超混戦と見ることもできるが、有力チームが実力をフルに発揮し切れていないがための乱戦状態……というのが2022年シーズンのインディカーシリーズ前半戦ではないだろうか。

 そうした中で高い地力を誇るチーム・ペンスキーが勝利を重ねてきた。シーズン後半戦では彼らが実力を伸ばしてトップチームとしての存在感を以前のように強力無比のものとするのだろうか。

 それとも、ガナッシを筆頭とするライバルたちが実力を急進させ、逆襲を始めて王座を奪って行くこととなるのか。

 シーズン後半戦にスケジュールされているショートオーバル3戦はタイトル争いで重要な意味を持つことになる可能性・大だ。ダブルヘッダーであるアイオワでポイントを一気に荒稼ぎした者がポイント争いで一気に優位に立つことも考えられる。


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