モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは、『ニッサンR89C』です。
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1986年からル・マン24時間レースへの参戦をスタートさせたニッサンのグループCカープロジェクト。このグループCカープロジェクトに大きな転機が訪れたのは、1989年のことだった。
ニッサンは1988年まで主にマーチの市販シャシーを用いてレースを戦っていた。しかし、1989年にローラとタッグを組み、新たに開発するエンジンとの最適化を図った専用シャシーの設計を依頼。そうして誕生したのが『ニッサンR89C』だった。
R89Cは、ニッサンとしては初となるカーボンモノコックの車両であった。さらに、R89Cの開発責任者で、エンジンの設計を行った林義正の要望で、エンジンの搭載方法にストレスドマウント方式を採用したマシンでもあったのだ。
要となるエンジンは、林が新設計した3.5リッターV8ターボのVRH35型を搭載する。ニッサンは、1988年まで1987年に登場したVEJ30型とVEJ30型に林が手を加えたその改良版、VRH30型でグループCレースを戦っていた。
しかし、そもそも基本設計に誤りがあったこともあり、手直しではなく林がイチから設計したVRH型の投入に至ったのだった。
こうしてニッサンの新生Cカー、R89Cが生まれた。しかし、R89Cは走り始めからいきなり問題が発生する。ローラの製作したカーボンモノコックの工作精度が甘く、まっすぐ走ることが困難なレベルだったのだ。
急遽、ニッサン側で手を加えて、実戦に耐えるレベルに仕立て直して対処したものの、想定していた性能を発揮することは出来なかった。
R89Cは、さまざまな問題を発生させながらも国内戦ではなく、世界スポーツプロトタイプカー選手権（WSPC）のディジョン戦で実戦にデビューする。
その後、ル・マン24時間レースでは、序盤戦でトップ3を争う快走を見せるなど活躍を見せる。さらにドイツ国内の選手権、スーパーカップでは優勝も記録した。
結果こそ残らなかったものの、R89CのハイライトのひとつとなったのがWSPC第5戦のニュルブルクリンクだった。R89Cはこのレースで、あえて燃費を無視した戦略だったものの、当時、“最強”と目されていたザウバー・メルセデスC9を引き離して、レースをリードする。
最終的に完走とはならなかったが、R89Cは速さだけであれば世界の強豪とも戦えることをアピールしたのだった。
この快走を見せた翌年、ニッサンはR89Cで発生した問題に対処するため、シャシーはローラベースながら半分以上をニッサン製とし、カウルもニッサンのオリジナルとした国内最強Cカー『ニッサンR90CP』を生み出すことになる。
R89Cは、その後の『R91CP』、『R92CP』と続いていく“ニッサンR90CPシリーズ”誕生への礎となった1台といえるだろう。
