「これからは、ちょっとやそっとのことがあっても乗り越えられるような気がします」

 明るい声音でそう語るのは、全日本ラリー選手権やKYOJO CUPで走る平川真子。その活躍が認められた平川は、WRC世界ラリー選手権が行う『ビヨンド・ラリー女性ドライバー育成プログラム』に日本でただひとり選出され、ポーランドにあるラリーの名門チームMスポーツの本社にて、9月16日から18日まで3日間のトレーニングキャンプに参加した。

 このトレーニングキャンプは、第12戦セントラル・ヨーロピアン・ラリー(CER)への出走権をかけた審査を目的としたもので、参加した15人のなかから3人が選抜される。その出走権は、惜しくも他の選手の手に渡ったが、平川にはその結果よりも多くの貴重な経験からくるポジティブな記憶が刻まれたようだ。

 帰国直後の平川に、WRCとしても初の試みとなったトレーニングキャンプの内容や、初の海外ラリー経験で感じた手応えなどを聞いた。

■一瞬泣きそうになったり。キャンプは初日から大忙し

 まずは、帰国直後の平川にトレーニングキャンプの率直な感想を聞く。

「一番の感想はやっぱり『楽しかった』です。あと、今回のプログラムのタイトルである『ビヨンドラリー』という意味がすごくわかるトレーニングキャンプで、私もそれが実践できたと思います」

 開口一番のポジティブな言葉には、自身の成長を実感している様子が感じられる。キャンプに向かう前は、「不安と緊張が半々だった」というが、行きの飛行機から偶然にも“トレーニング”は始まっていたという。

「飛行機がドイツで乗り換えでしたが、ポーランドへの便が翌日に変更になり、荷物もない状態で一泊過ごさなきゃいけなくなりました。英語も苦手ですし、そんなトラブルもありながらですごく大変でした」

「キャンプに参加するみなさんとの初めましての会がディナーの場で、他に日本人はひとりもいない状況でした。今回は自分で頑張っていきたいという思いがあったので、通訳の方もいませんでした。それでも少し心細くて、一瞬泣きそうになったりもしましたが何とか耐えて、気合と笑顔で乗り切りました」

 いきなりのアクシデントやコミュニケーションの難しい状況の中、14人のライバルを含む各面々と合流した平川は、ついに翌日から3日間のキャンプに臨んだ。

「世界はまだまだ広い」。平川真子がWRC女性選手育成キャンプで可能性を実感。兄・亮からのメッセージも
『ビヨンド・ラリー女性ドライバー育成プログラム』に参加した15人

 15人のドライバーは3日間、実績のあるドライバー/コドライバーやFIAメンバー、WRCプロモーターらに評価され、その評価を元にWRCの出場権が3人に与えられる。運転技術はもちろん、体力量やクルマへの知識、メディアへのアピール力までを審査するべく各プログラムが進められていった。

「1日目は、シャトルランや体幹のトレーニングといった体力テストと、メカニカルに関しての筆記テストがあり、実技ではタイヤ交換のスピードやシートベルトの脱着を含めた乗り降りのスピードを測かるといった基本的なテストがありました」

「その後に『みんなが応援したくなるようなドライバーになるには人間的にどのような成長が大事なのか』という自己PRについても学びました。実際に聞かれたことに対して自分が思うことをアピールするプログラムもあったのですが、私は翻訳機を使いながらでした……そこはあまりポイントを稼げなかったなと思います」

 初日は基礎能力を測るプログラムに取り組んだ平川。アピールテストではあまり良い手応えが得られなかった様子だが、各選手の経歴は多岐に渡るため、座学が中心の一日目は当然、キャリアや文化の違いで14人それぞれの得意不得意が出たことだろう。そして二日目からは、いよいよ走行テストがスタートした。

「世界はまだまだ広い」。平川真子がWRC女性選手育成キャンプで可能性を実感。兄・亮からのメッセージも
『ペースノート』についての座学を受ける様子
「世界はまだまだ広い」。平川真子がWRC女性選手育成キャンプで可能性を実感。兄・亮からのメッセージも
タイヤ交換を実践する平川真子

■初めての4輪駆動にワクワク。ラリー3は「すごく乗りやすい」

 キャンプの折り返しとなる2日目は、ターマック(舗装路)のテストが実施。15人の参加者が、2台のフォード・フィエスタラリー3を交代で乗りながらタイムアタックを行っていく。

「2日目はターマックのショートサーキットを走るテストで、3周を確認で走ってから、5周のタイムアタックのような感じでした」

「私自身、左ハンドルも四輪駆動も乗るのが初めてだったので、『大丈夫かな』と思いながらでしたが、意外と左ハンドルでの操作は気にならなくて、もう純粋に四輪駆動を楽しみながら走ることができました」

「今回は、隣にプロドライバーが乗って審査してもらったのですが、『ブレーキングやシフトチェンジがアグレッシブでとても良かった』とコメントをいただいて、素直に嬉しかったです」

 ラリー3マシンの良さを感じながら走行ができた、と語る平川の口調はかなり明るい。KYOJOでの経験も豊富な分、ターマックには自信があったというが、それでも「ピッチングがかなりあるクルマなので、動きすぎた感じはありました」と、課題もあった様子だ。

「世界はまだまだ広い」。平川真子がWRC女性選手育成キャンプで可能性を実感。兄・亮からのメッセージも
ターマックのショートコースを走る平川真子(フォード・フィエスタラリー3)

 続く3日目は、今回のトレーニングキャンプの最終テストとなるグラベルの走行へと移る。

「約1キロの普通の道(グラベル)で、レッキも行いましたが走行時にノートを読んでもらうわけではなく、またプロのドライバーに同乗してもらって走るというかたちでした」

「ターマックでは走順が最後の方でしたが、この日は逆転して初めから2番目の出走でした。ステージはかなりの泥道で、ここまでドロドロの道は走ったことがないほどでした。それでもラリー3はよく動いてくれて、すごく乗りやすくて楽しかったです」

「最初に走ったのがフィンランドの選手(スビ・ユルキアイネン/WRC第12戦出走権の獲得者)で、プロの方にはその選手と同じように走れていたよと言われたのですが、みんな走っていくうちに路面も良くなっていったみたいでしたね」

 こうして終えたトレーニングキャンプ。今回は、先述のユルキアイネン、ベルギーのリシア・ボーデ、ドイツのクレア・シューンボルンという3人が出走権を手にすることとなり、平川にとっての育成プログラムはここで終了することとなった。

「世界はまだまだ広い」。平川真子がWRC女性選手育成キャンプで可能性を実感。兄・亮からのメッセージも
グラベルの走行テスト。写真は3人に選出されたリシア・ボーデ

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