更新日: 2024.12.03 10:38
逆境を乗り越え4連覇達成。トヨタGRがラリージャパンで見せた王者の意地【奇跡の逆転を振り返る】
毎年多くのドラマが生まれるWRC世界ラリー選手権だが、2024年シーズンのマニュファクチャラー選手権争いが決着する瞬間は、同シリーズの半世紀以上にわたる歴史の中でも指折りの熱いシチュエーションだったに違いない。本稿では、今季最終戦として行われた『ラリージャパン』の競技最終日にして今年最後のSSとなったパワーステージでライバルを逆転し、4年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得したTOYOTA GAZOO Racingワールドラリーチーム(TGR-WRT)の戦いを振り返っていく。
■相次いだフィニッシュ目前の悪夢
2022年と翌23年にドライバーズタイトルを獲得した最年少王者カッレ・ロバンペラが、シリーズ8冠王者であるセバスチャン・オジエと同じくパートタイム参戦となるなど体制を新たに2024年シーズンを迎えたトヨタ。開幕2戦の勝利をライバルであるヒョンデに奪われた同陣営だったが、マニュラクチャラー選手権では緒戦から僅差ながらもリードを奪った。
しかしオジエが今季初勝利を挙げ、ロバンペラによるケニアでの優勝に続くシーズン2勝目がトヨタにもたらされた第4戦クロアチアで、2チームの順位が入れ替わる。そして同ラウンド以降、TGR-WRTはタイトル争いにおける最大のライバルであるヒョンデ・シェル・モービスWRTの後塵を拝し続けることに。
トヨタはこの期間中にいくつかの悲劇的な出来事に襲われた。そのなかでもとくにダメージが大きかったのは、第9戦フィンランドと第12戦セントラル・ヨーロッパの2ラウンドだ。前者は初の母国優勝が目前に迫っていたロバンペラが最終日にクラッシュしてリタイア。後者も同じく、首位でラリー最終日に入っていたオジエがクラッシュを喫しリタイアとなり、大量得点のチャンスを逃してしまった。
■勝田とオジエのタイヤがパンク
トヨタのお膝元である愛知県豊田市が拠点となるラリージャパンは、今季2024年もシーズン最終戦として実施された。
母国ラウンドを前に、トヨタはロバンペラが4勝、オジエが3勝を挙げるもドライバーズチャンピオン獲得の目はなくなっていた。一方、マニュファクチャラー選手権は母国日本での逆転の可能性があり、直前の第12戦では同イベントでシーズン5度目の表彰台を獲得したエルフィン・エバンスと、今季から導入された“スーパーサンデー”で最大得点の7ポイントを稼いだ勝田貴元の活躍により、ライバルとの点差を17ポイントから15ポイントへと縮めていた。
こうして始まった最終決戦はトヨタにとって試練の幕開けに。初日のスーパーSSを終えて本格的なターマック(舗装路)ラリーに入ったデイ2の最初のステージで、オジエと勝田のマシンがタイヤのパンクチャーに見舞われ、双方ともタイムを失ってしまう。
一方、トヨタと覇を競うライバルメーカーも万全のスタートとはいかなかった。ヒョンデi20 Nラリー1の1台が同日のSS5でクラッシュして戦列を離れ、この日本ラウンドで悲願のドライバーズチャンピオンを決めたティエリ・ヌービルもSS3でスローダウン。2022年のラリージャパンウイナーは、この日の終わりまでマシントラブルに付き合わねばならず勝田とオジエ以上に大きな後れを取った。
両陣営がそれぞれ小さくないダメージを負うなか、ラリーをリードしたのはヒョンデのオット・タナクだった。2番手エバンスに20秒9もの差を築いてデイ2を終えた2019年王者は翌日のデイ3も速さを見せ、その差を38秒にまで拡げてみせる。一騎打ちの後ろに目を向ければ、競技3日目を総合5番手のポジションからスタートしたオジエが同3番手に浮上しており、勝田も4番手と僅差の5番手に続き、アクシデントからの挽回を見せていた。
■553ポイントの同点で最終ステージへ
大量リードを持つ絶好調タナクが最後まで逃げ切ると思われたデイ4の朝、最終日のオープニングとなったSS17で発生したクラッシュがタイトル争いの流れを変える。2日間にわたって首位を守ってきたタナクがリタイアとなったことで、2番手のエバンスが新たなラリーリーダーとなり3番手につけていたオジエは総合2番手に浮上した。
これと同時に暫定のマニュファクチャラーズポイントも変化し、SS17時点ではワン・ツー体制を築いたトヨタがヒョンデを上回る計算に。その後、日曜日のステージが進んでいくなかで“スーパーサンデー”の獲得予想ポイントを加算すると、なんと、最終ステージを前に両陣営553ポイントで並ぶことが判明する。つまり決着は最終パワーステージで、ステージ上位5名に付与されるボーナスポイントに左右されることとなったのだ。
運命の最終ステージ、SS21『三河湖2 ウルフパワーステージ』ではアンドレス・ミケルセン(ヒョンデi20 Nラリー1)を先頭にアタックが行われ、2番手出走のヌービルが僚友のタイムを上回り暫定トップに立つ。その後勝田が2番手タイムを記録しMスポーツ・フォード勢が下位に沈んだため、オジエとエバンスのどちらかがヌービルのタイムを上回ると、トヨタのマニュファクチャラーズチャンピオンが決まる状況に。
そんななかベテランのオジエが、ヌービルのタイムを1.9秒上回るアタックを決め一番時計をマーク。さらにエバンスもステージ3番手に食い込み、TGR-WRTが逆転でマニュファクチャラーズタイトル獲得し同選手権4連覇を達成した。最終的な獲得ポイントはトヨタが561点、ヒョンデは558点だった。なお2024年のラリージャパンは、前年の覇者であるエバンスが大会2連覇で締めくくっている。