トヨタのWRC世界ラリー選手権育成ドライバー、勝田貴元がWRカーのヤリスWRCで世界選手権に出場する可能性が高まってきた。その根拠となるのは、インターネットのモータースポーツサイトに掲載された、トヨタWRCチームのスポーティングディレクター、カイ・リンドストロームの発言だ。
フェルナンド・アロンソが今年10月のWRC(第13戦)スペインに、ヤリスWRCで出場するかもしれないという噂が立ち、それに対し、「もし、スペインで4台目のヤリスWRCを走らせるとしたら、そのシートは貴元に与えられるだろう」と答えたためだ。
そこでWRC第8戦イタリア(ラリー・イタリア・サルディニア)の現場で、チーム代表のトミ・マキネンに質問をぶつけてみた。今年、貴元にそのチャンスはあるのかと。
するとマキネンは、「個人的にはあると思う。今年に入ってからの貴元の成長は著しく、とくにWRC2ポルトガルでの力強い戦いは印象的だった。あのレベルに達していれば、WRカーをドライブしても問題ないと思う。これからトヨタの承認を得なければならないが、ヨーロッパラウンドで彼を走らせたいと思っている」と答えた。
次に、サルディニアにはいままでどおりフォード・フィエスタR5で出場していた貴元に、「スペインでヤリスWRCに乗るという記事が出回っているが」と直撃したところ、次のように述べた。
「僕もそのニュースを読みましたが、最初に思ったのは『いつかアロンソとチームメイトになったら面白いな』ということでした(笑)。本当にそうなったら、すごいことですよね。それはさておき、WRCでヤリスWRCに乗れるチャンスがあれば、もちろん乗りたいです」
貴元はすでに何度かヤリスWRCをドライブしており、フィンランド国内戦ではあるが、実戦デビューも果たしている。
「初めてWRカーに乗ったのは、昨年のラリー・フィンランドの後で、15分くらい走りました。その後、年末にフィンランドのグラベルで2日間テストをしましたが、そのときはかなりの悪天候で路面はウエットでした。そして、今年の3月にはフィンランド国内選手権のヨエンスー(イタ・ラリー)にヤリスWRCで出たのですが、ものすごい雪で、しかも先頭走者だったので雪かきが大変でした」
ヨエンスーでの貴元は、ラッセル車(除雪用車両)のごとく新雪をかき分けながらの走行を強いられ、格下のR5マシンに迫られた。しかし、最終ステージで意地のアタックを敢行。WRカーデビュー戦を優勝で飾った。
そして今年5月、同じくフィンランド選手権のリーヒマキ・ラリーでも貴元はヤリスWRCをドライブ。路面はグラベル。当初、WRカーは貴元だけの予定だったが、急きょヒュンダイがワークスカーのi20クーペWRCを送り込み、育成ドライバーのヤリ・フッツネンにステアリングを委ねた。トヨタとヒュンダイの若手育成ドライバーによるWRカー対決が実現したのだ。
「フッツネン選手はフィンランドでは非常に将来有望なドライバーと考えられていますし、僕もリスペクトしている選手のひとりです。その彼と、クルマこそ違いますが、同じWRカーで戦えたのは、とてもいい経験でした。比較対象がないと、自分がいまどのレベルで走っているのか、なかなか分かりませんからね」
リーヒマキはWRCラリー・フィンランド以上の超高速グラベルラリーで、しかも悪天候により路面コンディションは良くなかった。フッツネンは過去に何度か出場の経験があったが、貴元にとっては初めて挑むラリー。ヒュンダイのワークスドライバー候補生を相手にどこまで戦えるのか、注目が集まっていた。
ラリーが始まってみると、貴元は周囲の予想以上に速く、最初のステージでベストタイムを記録。以降、全8ステージのうち7本でベストタイムを刻み、最終的にフッツネンに12秒の差をつけてフィニッシュ。ヤリスWRCでのグラベルラリー初戦を、見事優勝で飾った。