8月19日、WRCラリージャパンの今季開催中止が発表された。8月に入っても新型コロナウイルスのパンデミックが収束せず、スタートまで3ヵ月となったタイミングで苦汁の決断を迫られた形だ。ラリージャパン2020実行委員会の高橋浩司会長は、中止決定の理由を次のように説明する。
「WRCに携わるドライバーやチームクルーなど、多くの外国人関係者の来日の目処が立たないことが、最大にして唯一の理由です。来年には東京オリンピックが控えており、政府はスポーツ選手や関係者に対して特別な措置を検討しているようです。しかし、ラリージャパンは少なくとも300人の外国人を迎えなくてはならず、そこまで大規模なイベントに対応する措置を11月までに整えることは困難だと判断しました」
8月19日は、名古屋の中心部で予定されていたセレモニアルスタートの3ヵ月前にあたり、高橋会長は以前からその日を最終決定のタイミングと考えていたという。
「決断をこれ以上引き伸ばしてしまうと、物流やWRCのカレンダー再構築への影響が大きくなりすぎますし、国内外のエントラントや我々運営サイドの経済的なロスも増大してしまいます。そのような理由から、中止の決断に至りました」
高橋会長によれば、開催地域の自治体に対する配慮もあったようだ。
「11月の段階で愛知、岐阜の両県で緊急事態宣言が出ている可能性もあったと思いますし、そうした地域での活動が制限されているなかで、我々の実行委員会にも入っていただいている各自治体様がラリージャパンだけはOKとはできないと思います。直接的な理由ではありませんが、そういったリスクもありました」
F1日本GPの開催中止が6月中旬に発表され、開催実行委員会も厳しい状況にあることを充分認識していた。しかし、状況が好転したときにきちんとラリージャパンを開催できるようにと、全力で準備を進めていたという。
「競技の部分に関しては、ロードブックや書類の制作など9割くらいはできていました。ラリーガイド1も発行していましたし、競技をやるという部分ではまったく問題ないレベルに至っていました。一方で、プロモーションや現地で何かをやるというアクティビティの準備がかなり遅れていたのはたしかです。11月にどれくらいお客さんを入れて、どれだけチケットを売り、どれだけ盛り上げるかというのをちょっと見通せなかったので、仮に開催できたとしても、その部分は感染状況を見ながら決めていかなければならなかったでしょう」
移動制限もあり、ゴールデンウイークから夏にかけてはまったく身動きがとれず、「見せる」「伝える」ための準備が予定よりも遅れていたことを高橋会長は素直に認める。と、同時にコロナ禍において、観客を入れる前提での感染防止策を粛々と検討していた。
「たとえばマスクの着用が必須だとしたら、ラリージャパン専用デザインのマスクを作り、それをチケット代わりにするなど、いろいろな策を考えていました。ただ、サーキットのように指定席は作れないので、ソーシャルディスタンシングの確保というのがラリーでは最も難しい」
「面積あたりの人数を決めることはできますが、ラリーカーが走ってきたら、みなさん自然と前の方に集まってしまうと思います。そうした部分に関する対策の決定的なものはまだ打ち出せておらず、もし来年も収束していなかったとしたら、同じような問題に直面する可能性もあるため、来年に向けて議論を続けていく必要があります」