レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る

ラリー/WRC ニュース [PR]

投稿日: 2021.07.30 07:46

飛距離50m以上。WRカーの“異常な世界”/ラリージャパンを楽しみ尽くすための『必勝法』Vol.2

レースを愛してやまないファンの方々へ
autosport web Premiumが登場。

詳細を見る


ラリー/WRC | 飛距離50m以上。WRカーの“異常な世界”/ラリージャパンを楽しみ尽くすための『必勝法』Vol.2

 ラリーカーのピラミッドの頂点に立っているのがWRカー。そのパフォーマンスとオールラウンダーぶりはまさに“モンスター級”。ファインダー越しに、そして取材を通してそれを感じてきたWRCジャーナリスト/フォトグラファーの古賀敬介さんが、とくにマッスルなところを解説してくれました!

* * * * * *
 F1マシンをスポーツ選手にたとえるなら、陸上競技の100m選手。平坦な道、短距離という限られた条件で最高の力を発揮するF1マシンは、モータースポーツ界の花形選手と言えます。

 では、WRCのトップマシン、WRカーはどうかと言うと、十種競技の選手といったところでしょうか。短距離、長距離、どちらもいけるし、走り幅跳びも得意。その気になれば50m以上飛べてしまいます。

 街中や山道も普通に走れるという意味では駅伝ランナー的でもありますし、山のなかの荒れた未舗装路をグイグイ突き進む姿はトレイルランナーでしょう。浅瀬ならば川だって渡れるし、雪や氷の上でのダンスも得意だから、水泳やウインターゲームの選手でもあります。

 つまり、本当の意味で万能なレーシングマシンと言えます。

 ベースは街中でもよく見かけるコンパクトカーですが、中身はサイボーグレベルまで改造されていて、身体能力の高さは異常なレベル。GTマシンと比べても遜色ありません。それでいて、サスペンションとタイヤを変えるだけでどんな路面でも全開で走れるWRカーは、まさにキング・オブ・レーシングマシンなのです。

ジャンプの飛距離は50m以上。“飛型”にも車両特性が出る?

 WRカーはジャンプがとても得意。フィンランドやスウェーデンといった超高速の未舗装路ラリーにはジャンピングスポットが多くあり、その気になれば50m以上飛べます。

 ただ、アルペンスキーのダウンヒルのジャンプと同じで、あまり飛びすぎてもタイヤの駆動力が地面に伝わらず、タイムロスになることもあるので、あえて飛ばない選手もいます。また、着地に失敗してコースオフすることも、衝撃でクルマが壊れることもたまにはあります。

 50mというと本格的なプールの1本分ですし、新幹線で言うと2両分の長さ。それを土や雪の上で軽々飛んでしまうWRカーも、ステアリングを握っているドライバーもアンビリーバボーです。

2019年、WRCフィンランドでのジャンプ。この高さ、そして飛距離はド迫力
2019年、WRCフィンランドでのジャンプ。この高さ、そして飛距離はド迫力

最大ホイールストローク300mm以上?

 WRカーは足が長い。もちろん、股下ではなく、ストロークのことで、グラベル仕様だとホイールストロークは300㎜以上あります。

 ジャンプ中はビヨ〜ンと伸びて、まるでバギーのような姿に。だからこそ、ジャンプの着地や荒れた路面でもタイヤがしっかりと地面を捉え、クルマが前に進むのです。石などが当たっても大丈夫なように、かなり頑丈に作られてもいます。

 ターマック(舗装路)ラリーでは車高がグッと低くなり、ストロークも短くなります。それでも段差や路肩がある一般道を走るため、サーキットマシンと比べたら足はかなり長いのです。

グラベル仕様のフロント足回り。サスペンションストロークが長い
グラベル仕様のフロント足回り。サスペンションストロークが長い

こちらはターマック仕様。車高が低く、ストロークも短い
こちらはターマック仕様。車高が低く、ストロークも短い

雪上でも舞います

「WRカーは雪道でも走れます」というのはかなり控えめな表現で、雪道では未舗装路と同じかそれ以上のスピードで全開走行が可能です。

 スノーラリーの平均速度は全WRCイベントのなかで例年トップ3に入るほど。それを可能にしているのは、ハリネズミのようにびっしりと金属製のスタッド(びょう)が埋め込まれた「スタッドタイヤ」を履いているから。雪面のグリップ力は驚くほど高く、雪上でのWRカーの走りは非常にダイナミックなんです。

夜間、雪のなかを走るWRカー。雪上でも、結構なスピードが出る
夜間、雪のなかを走るWRカー。雪上でも、結構なスピードが出る

水泳も得意。じつは吸気口を切り替えている

 グラベルラリーではウォータースプラッシュと呼ばれる川渡りも頻繁にあります。バンパーレベルくらいの水深でも全開で通過するなど、WRカーは意外と水泳も得意。

 ただ、エンジンが水を吸い込んでしまうため、一時的に吸気口を切り替えてクルマの前部から水を吸い込まないようにしないと、ミスファイアしてエンジンが吹けなくなったり、最悪の場合、止まってしまったりすることもあります。

 2015年WRCメキシコでは貯水池に落ちて水没したマシンもありましたが、引き上げて水抜きし、翌日は競技に復帰。水陸両用車もビックリの耐水性? ですね。

大迫力のウォータースプラッシュ
大迫力のウォータースプラッシュ

フォーミュラ並みの鬼加速

  WRカーのエンジンは1.6L直列4気筒直噴ターボ。いわゆる“テンロクターボ”ですが、その公表最高出力は380馬力以上、最大トルクは425Nm以上ととんでもない強心臓です。

  自然吸気エンジンにたとえると、排気量4Lクラスのパフォーマンスがあります。それがあのコンパクトで約1200kgという比較的軽いボディに搭載されているのですから、運動性能は圧巻です。

  しかも、駆動方式はフルタイム4WDなので、元F3ドライバーでもあるトヨタの勝田貴元選手によれば、ゼロ発進時の加速感は「ガツン」と鋭く、フォーミュラ以上に感じるそうです。

その加速は走り出しから“ガツン”と来るという
その加速は走り出しから“ガツン”と来るという

GT500並みの空力マシン

 WRカーは空力モンスター。リヤにはカーボン製の大型ウイングが追加され、フェンダーは大きく張り出し、バンパー下部にはディフューザーが。フロントはバンパーやフェンダーがダウンフォースを得やすい形状になっていて、カナードは上下2枚が標準仕様。まさにコンパクトGTカーと言える出で立ちです。

 このエアロパーツのおかげもあり、時速200km近いグラベルのコーナーでもクルマは非常に安定しています。競技の性格上、クルマが岩壁や木に当たることも多いので、エアロパーツはスペアがたくさん必要です。

張り出したフェンダー、そして大型のリヤウイングがWRカーのルックスを平凡ならざるものにしている
張り出したフェンダー、そして大型のリヤウイングがWRカーのルックスを平凡ならざるものにしている

当然、空力開発のための風洞試験も行なわれる(写真は風洞テスト中のヤリスWRC)
当然、空力開発のための風洞試験も行なわれる(写真は風洞テスト中のヤリスWRC)

ラリージャパンを楽しみ尽くすための『必勝法』Vol.2(PDFが開きます)
ラリージャパンを楽しみ尽くすための『必勝法』Vol.2(PDFが開きます)

●ラリージャパン公式ホームページ:https://rally-japan.jp/


関連のニュース