GP CAR STORY編集長にして過去に生きる男“M”と雑談していてよく話題に出るのが、最近のF1はパドルシフトでミスがないから面白くないということ。アイルトン・セナをこよなく愛する彼にとってF1のシフトはHパターンでなければならないのです。
確かに大昔、FJ1600でレースをやっていた頃Hパターンでシフトミスしてコンロッドがブロックを突き破ったことがあったような気がします……。こんにちは。3月よりオートスポーツ編集長をやっているありとみです。
どんなスポーツでも、ピンチの局面で選手にはミスが出るもの。普通にやれば何も問題なくこなせることが普通にできなくなる……そんな心理が見えるのもスポーツの面白さです。マシンの進化によってドライバーのミスが出づらくなるのは乗る側であれば歓迎ですが、観る側には予想外の展開が生まれる可能性が減るわけで、魅力を減じているともみることができます。技術の進化とともに歩むのが本分であるモータースポーツですから、エンターテイメントを優先して進化を止めることは本来ありません。
しかし、WRC世界ラリー選手権は今季から“ラリー1”に車両が一新されて「退化」を受け入れました。パドルシフトをやめてシーケンシャルシフトに。センターデフもなく昔のジープのように直結。当然アンダーステアが強くなりタイトコーナーはサイドブレーキを引かないと曲がりません。
リンクを介して人力でシフトするシーケンシャルでは、気合が入ればシフトアップにも力が入る様子が車載映像からも見えるし、サイドを引いてクイックに曲がる姿は華麗な曲芸のよう。ドライビングが明らかに難しくなり開幕戦では往年のトップドライバー、セバスチャン・オジエ(トヨタGRヤリス・ラリー1)、セバスチャン・ローブ(フォード・プーマ・ラリー1)のセブ対決になったのも納得できます。
さすがFIAの慧眼。コストを表向きの理由にしながら、アスリートの戦いを車載映像でもファンに存分に見せるためにこうした改革を実行したのではないかと、WRC取材の大家、古賀敬介さんに尋ねたところ、断じてそんな意図はないと否定されてしまいました。
あくまでハイブリッド化推進が目的で、そのコスト捻出のためにそれ以外のコスト削減できる部分として駆動系に着目されたとのことでした。
しかし、この変更によって求められるドライビングが変わって、曲がるクルマを高次元で安定させて走るスタイルではなく、自分で積極的に曲げるドライビングが求められることとなりフィンランド系のドライバーが復権する方向になったとのこと。その代表格だったTGRチームのヤリ-マティ・ラトバラ代表が真剣にドライバー復帰したいと考えていたという話にも頷けます。
ドライバーファーストの全日本スーパーフォーミュラ選手権も、速さの追求しやすさという点でのドライバーファーストよりも、速さをドライバーが引き出すところが外から見えやすいドライバーファーストがうれしいな、次期マシン開発はそんな方向になってほしいなとWRC映像を観ながら思いました。といってもMのようにHパターンまでは望みませんが……。
発売中のオートスポーツ6月号ではWRCを特集しています。最近、WRCを観てなかった人でも楽しめる内容を目指しました。WRC特集によってスーパーGT開幕戦レポートもスーパーフォーミュラ開幕戦もスペースを圧縮してしまいましたが、スーパーGTは7月発売号で、スーパーフォーミュラは9月発売号で特集予定ですので、恐れ入りますがお待ちください。