更新日: 2024.09.15 22:19
『負けられない地元戦』という潜在意識。3位表彰台がこぼれた平川亮の最終スティント/WEC富士
「自分も、もう1回(映像を)見直さなきゃいけないと思うんですけど、ただ結果的に何も悪いことは……違反はなかったと思うので。ちょっと、そこは残念です」
現在のWEC世界耐久選手権シリーズチャンピオンとして、自身初となる予選アタッカーも担当した母国ラウンドの週末。地元凱旋TOYOTA GAZOO RacingのGR010ハイブリッド8号車を操る平川亮に出番が回ってきたのは、6時間の決勝で3時間47分が経過した134周目のことだった。
周囲より早めの最終スティントで4輪にニュータイヤを装着した8号車は、トラック復帰してまもなくレースベストの1分31秒410を記録しつつ、安定して1分31〜32秒台のラップを並べていく。しかし4時間を10分ほど経過した時点で63号車ランボルギーニSC63(ランボルギーニ・アイアン・リンクス)が駆動系トラブルを抱えてストップし、この日2度目となるVSC(バーチャル・セーフティカー)が導入。さらに直後には3回目のSC(セーフティカー)先導に切り替わると、これが僚友の7号車ともどもTGRの歯車を狂わせることになる。
「最初はペースも良かったんです。でもそのあとセーフティカーが来て、リスタート後はもうタイヤが厳しくて……」
ここでライバル勢もVSCピリオドを活用してニュータイヤ、もしくは程度のいいユーズドに履き替えることができ、相対的なラップペースでも8号車に優位性はない状態に追い込まれる。
「ちょっと抜かれたり、引き離されたりする場面があったんですけど、そのあとはペース自体、悪くなかったとは思います。かといって1番速かったわけではないですが……」
■100Rの「知る人ぞ知るライン」
残り1時間。最終のチェッカースティントに向けても、ライバル勢に先んじて「プランどおり」に4輪ニュータイヤを装着した平川だが、このアウトラップの最終セクターで宿敵ポルシェ・ペンスキー・モータースポーツの6号車ポルシェ963、首位を行くケビン・エストーレと最終セクターで”邂逅”する。
「ラップダウンっていうところまで頭にはなくて。ただ僕の方が先に入ったので、争っていることは知っていた。なので自分のベスト、自分がタイヤを温めるベストを尽くしつつ。もちろん6号車も簡単に先に行かせたくはないですし……というので、結果的にああいうかたちになった」とレース後に振り返った平川は、その先のGR Supra(ターン15)アウト側で押し出されるように先行を許す。
ここでのロスも響いたか。本来は背後にいたはずの35号車アルピーヌA424や、ハーツ・チーム・JOTAの2台にも最後のルーティンを終えて前方へと出られてしまう。それでも「ひとつでも前に行くということしか考えていなくて。そこのときの順位とかはあまり覚えてない」と、アウトラップの50号車フェラーリ499Pを皮切りに、100Rをインカットした勢いでフロアから火花を散らしながら、192周目には38号車ポルシェ963のオリバー・ラスムッセンを、そして残り30分を切った196周目にはセクター2自己最速の28秒457も記録しながら、同12号車のノルマン・ナトを攻略していく。
「あそこ(100Rイン側)はドライビングラインなので……。知る人ぞ知るラインだと思います」と、この時点で4番手まで浮上した8号車は、直後に3番手走行中だった35号車アルピーヌがドライブスルーのペナルティを消化したことで、気持ちの籠った”諦めない”オーバーテイクで、表彰台圏内まで復帰する力走を披露してみせた。
しかし、結果は冒頭のコメントが示すとおり。自らもアウトラップの6号車ポルシェに対する「青旗無視」を理由とするペナルティ裁定により、最終的にフィニッシュ目前となる5時間47分の時点でピットレーンを通過。劇的な乱高下を経て失意の10位チェッカーを受け、TGR陣営としての”富士2敗目”を喫する結果となった。
改めて平川に、この週末の感慨を聞いてみる。
「ちょっとセーフティカーが……なんでこんなにいっぱい出るんだ、っていう(苦笑)。出たら出たで長いですし変なレースでしたが、ペース的には少しツラかった部分で助けられた面もありました。でも結果的には10位というかたちなので、ちょっと何とも言えないというか。ホームレースでたくさんの期待もあって、ファンのみなさんも大勢いらっしゃっているなかで、本当に不甲斐ないです」と反省の弁に終始した平川。
性能調整により出力を絞られ、車両重量も嵩むなか、タイヤのアロケーションも考慮しつつあらゆる場面を想定して作戦を振り、給油時間の長短でトラックポジションを優先するなどクリーンエアで走れるよう策を練った6時間だったが、やはり数字の面での多寡は如実に結果として跳ね返ってくることに。そのぶんだけ『負けられない地元戦だった』という潜在意識を含めて無理をする必要があった、ということだろう。
「僕らは重い分、スライドしたらオーバーヒートしてタイヤがなくなってしまいますし、結構スライドしないギリギリのところで走る。でも(優勝したライバル陣営のクルマは)滑っても前に進めて……というような走りをしてる雰囲気で、立ち上がりはやはり速い。ストレートの後半だけは(車速250km/h以上の領域)僕らもパワーがあるので、スリップを使って勝負するか、抜かれないようにするか。そんな戦いになりました」
残すは最終戦バーレーン。昨季もここで確定させた8号車のドライバーズタイトル防衛の可能性は潰えているものの、まだマニュファクチャラータイトル6連覇の重要な任務が残されている。
「バーレーンもタイヤに厳しいサーキットなので。そういった意味では、最後はいいかたちで締めくくれると思いますし、今回はホームレースでこんなに悔しい思いをしたので。最終戦はしっかりと決めて獲り返したいと思います」